人種差別の中、黒人ピアニストと白人の用心棒兼運転手が起こすケミストリー『グリーンブック』

第91回アカデミー賞

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グリーンブック
人種差別が残るアメリカ南部を巡る黒人ピアニストと白人の用心棒兼運転手の人間ドラマ。『グリーンブック』より - (C) 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

 観た後に心がほんのり温かくなり、しばらく幸せな気分が持続する。そして、その幸せを誰かと語り合いたくなる……。今年のアカデミー賞作品賞候補の中でも、この感覚がハイレベルなのが『グリーンブック』だ。基本は、男2人のロードムービー。価値観も生き方も、性格も全て真逆の彼らが、旅を通して心が通じ合うという、これまで多くの作品で語られたプロットにもかかわらず、行く先々でのエピソードの積み重ね、笑いと感動のバランスなど、映画に求められる要素がこれほどうまく機能した作品は珍しい。(文・斉藤博昭)

 アフリカ系の天才ピアニスト、教養もあるドクター・シャーリーと、イタリア系でナイトクラブのボディーガードなど職を転々としてきたトニー・リップ。黒人に対して差別的なトニーは、お金のためにシャーリーのツアーの運転手を引き受ける。まさに「水と油」の2人なのだが、その水と油が溶け合うことで人生が変わり、新たな希望を見つけられることを本作は軽やかに訴えるのだ。

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コンサートツアー
シャーリーのトリオが奏でるコンサートツアーにトニーも感激。『グリーンブック』より - (C) 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

 タイトルの「グリーンブック」とは、1930年代~60年代に、南部を旅する黒人にとってのガイドブックで、彼らが立ち寄ることができる宿泊施設やレストラン、ガソリンスタンドなどが記載されている。逆にいえば「そうでない場所」が大多数であったわけで、コンサートで呼ばれ、ホテルで演奏するシャーリーが、そのホテルのトイレやレストランに入れないという「理不尽」も起こる。そこで湧き上がるのが、トニーの正義感で、彼らの心の距離は否が応でも近づいていくのだ。お上品な育ちのシャーリーに手づかみでフライドチキンを食べる方法を教えるトニー。トニーが妻に書くたどたどしい手紙を添削するシャーリー。そんなほほ笑ましいエピソードの連続に、シャーリーのトリオが奏でる音楽が重なり、2人の旅と共に作品のテンポが心地よく加速していく。

ほほ笑ましい手紙の添削シーン
トニーの手紙を添削するシーンはほほ笑ましい。『グリーンブック』より - (C) 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

 監督と共同脚本はピーター・ファレリーで、これまでは『メリーに首ったけ』(1998)などオバカで下ネタも魅力のコメディーを得意としてきた彼が、本作では万人が素直に笑えるユーモアセンスを見事に発揮。同じ状況を反復させ、思わぬ感動をもたらすなど、演出は全編で冴えわたる。舞台は1962年で、画面にちらりと映る映画館で上映しているのは『アラビアのロレンス』(1962)。ロレンスと『グリーンブック』の物語を重ね合わせるなど、細部を深読みさせる隠し味も心憎いばかりだ。

トニーと妻ドロレス
ケンカっ早いが、家族思いのトニー(ヴィゴ・モーテンセン)を心配する妻ドロレス(リンダ・カーデリーニ)。『グリーンブック』より - (C) 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

 そして何より、この『グリーンブック』を輝かせているのは、2人のメインキャストが起こすケミストリーである。ケンカっ早いが、家族思い。不器用でズルい面もあるが、芯の部分では信用できる。そんなトニーを、徹底的に人間くさく、そして軽快に演じるヴィゴ・モーテンセン。そして孤独感と偏見への苦痛をにじませながら、ステージ上ではカリスマ的な表情で演奏するマハーシャラ・アリ。映画史上に残る、最高の“バディキャスト”ではないだろうか。

心強い相棒トニー
差別の色濃い南部でのトニーは心強い相棒!『グリーンブック』より - (C) 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

 人種だけでなく別の多様性もサラリと入れ込むなど、テーマ性とエンタメ的作りの絶妙なバランスで、観客、批評家、製作側の多方面から支持される『グリーンブック』は、トロント国際映画祭の観客賞、全米プロデューサー組合(PGA)の作品賞と重要な前哨戦を制覇。例年にない混戦の作品賞でも「受賞の可能性が高い」位置にある。そしてもし作品賞を逃したとしても、クリスマスムービーとして今後、長く愛される作品であることだけは断言したい。

映画『グリーンブック』予告編

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