森 直人

森 直人

略歴: 映画評論家。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『21世紀/シネマX』『シネ・アーティスト伝説』『日本発 映画ゼロ世代』(フィルムアート社)『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「キネマ旬報」「Numero TOKYO 」などでも定期的に執筆中。※illustrated by トチハラユミ画伯。

近況: YouTubeチャンネル『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。5月25日より、吉田恵輔監督(『ミッシング』前編)の回を配信中。ほか、山下敦弘監督(『水深ゼロメートルから』)、荒木伸二監督(『ペナルティループ』)、井上淳一監督(『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』)、三宅唱監督(『夜明けのすべて』)、山本英監督(『熱のあとに』)、リム・カーワイ監督&尚玄さん(『すべて、至るところにある』)、木村聡志監督&中島歩さん(『違う惑星の変な恋人』)の回等々を配信中。アーカイブ動画は全ていつでも観れます。

サイト: https://morinao.blog.so-net.ne.jp/

森 直人 さんの映画短評

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  • 水平線
    海から照射される市井の生のざわめき
    ★★★★

    俳優から企画・製作等を手掛けるSTUDIO NAYURA代表へと旋回した小林且弥の充実の監督デビュー作。舞台は福島の港町。ピエール瀧扮する主人公は海に遺灰を撒く散骨業を営む男(コストの低い埋葬法でもある)。そんな彼のもとに殺人事件の犯人の遺骨が持ち込まれ、「人殺しの骨」を海に撒くことの是非が問われていく。

    3.11後の海というモチーフは『さよなら ほやマン』(監督:庄司輝秋)等とも共通するが、本作は「死」にまつわる思想対決を主軸に多様な人間群像が展開する(脚本・齋藤孝)。身近な人の喪失後をどう生きるか、という状況設定の中で、観念的な葛藤と生活の現実を同時に注視する。渡邉寿岳の撮影に惚れぼれ。

  • ビニールハウス
    韓国映画の特濃系譜をアップデートする最新の才能
    ★★★★

    「半地下はまだマシ」というポン・ジュノに当てた秀逸なコピーに拍手を贈りつつ、中身はイ・チャンドンの後継か。厳しい格差や分断の社会的現実が作劇や世界像に濃縮されているのは間違いないのだが、むしろあらゆる不幸を引き寄せる主人公女性の宿業めいたものが核にある。いわゆる熱演とは全く異質の静かなる凄みを湛える主演のキム・ソヒョンは圧巻で、『よこがお』や『波紋』の筒井真理子とも重なる。

    監督はこれが初長編となるイ・ソルヒ(94年生)。強烈な負の吸引力にはキム・ギヨン的な情念が渦巻いており、『同じ下着を着るふたりの女』のキム・セインらと共に、まさしく韓国映画ならではの新鋭作家の登場と言えるだろう。

  • 青春ジャック 止められるか、俺たちを2
    びっくりするくらい面白い!
    ★★★★★

    若松プロ疾走記『止め俺』の続編は名古屋シネマスコーレ物語……の本体から、二段式ロケットのように井上淳一監督の青春記=オートフィクションが前面化する! イキった映画小僧の80年代はビデオの普及、ピンク映画の新潮流、ミニシアターや予備校ブームの波など、『全裸監督』『素敵なダイナマイトスキャンダル』『不適切にもほどがある!』等と接続できる日本特有の文化史と共に動く。

    しょっぱい記憶を含めて肝は祝祭感。「人は誰でも一生に一度は傑作を書ける」というかつて『祭りの準備』でも引用された新藤兼人のテーゼが見事に血肉化。そして“若松孝二の魂が降臨している井浦新”が絶品過ぎて、観ているだけで幸福な気持ちになる!

  • FLY!/フライ!
    「飛ぶ」ことの爽快なアクションに全てが込められている
    ★★★★

    いま最も単純明快なファミリームービーの歓びを追求しているアニメスタジオがイルミネーションだろう。長編第14作の本作は、まさにシンプル・イズ・ベストを実現した逸品だ。渡り鳥の真鴨なのに、米ニューイングランドの自宅(=池)から外に出た事がない主人公一家との設定がまずユニーク。彼らが一念発起し旅立つ内容で、『SING』等にも通じる自己啓発的なメッセージが嫌味なく機能する。

    監督は『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』の仏のバンジャマン・レネール。今回は3Dアニメだが、擬人化された動物達が情感豊かに躍動する素晴らしさは変わりない。適度にブラックユーモアが効いたマイク・ホワイトの脚本も良い仕事!

  • リトル・リチャード:アイ・アム・エヴリシング
    本当の真打ちとなるR&Rの革新者・創始者・解放者・設計者!
    ★★★★

    2020年に87歳で逝去したL・リチャードの偉大な先駆性に焦点を当てた内容で、監督は『プレシャス』(09年)等の製作で知られるリサ・コルテス。クイアの観点からR&Rの歴史を読み直しつつ、彼の場合は信仰の問題も重なり、人生とキャリアは分裂的に極端な振幅を描くことになる。

    異端者ゆえに色物扱いされ、「文化の盗用」問題も絡む長年の不当な評価に苦悩していた事にも胸を打たれるが、パフォーマンスはやはり圧巻。この問答無用の高揚感が当時堅牢だった人種の壁を軽々越えたわけだ。主題歌を務めた『女はそれを我慢できない』(56年)の公開時、ボルチモアのティーンだったジョン・ウォーターズ監督の愛ある言葉も素敵。

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