略歴: 映画ライター。視覚に訴えかけるビジュアルの派手な映画がお気に入り。「SCREEN」「SCREEN ONLINE」「Movie Walker」「日経エンタテインメント!」「DVD&動画配信でーた」「キネマ旬報」「SFマガジン」「映画.com」等で執筆。他に「キングスマン:ゴールデン・サークル」ノベライズ、「グレートウォール」ノベライズ、「X-ファイル 2016」ノベライズ、「フランケンウィーニー」ノベライズ、「「ターミネーター:新起動/ジェニシス ビジュアルガイド」翻訳など。ウェブで映画やTVドラマのニュースを追いかけ中
近況: 全米音楽スーパーバイザー組合賞2025のTV部門の最優秀作曲/録音曲賞(Best Song Written and/or Recorded for Television )を、ドラマ「アガサ・オール・アロング」の挿入歌「魔女の道のバラッド」が受賞してめでたい。古楽風の名曲ですよね~
英国のボーイズグループ、テイク・ザットの元メンバーで、脱退後のソロ活動でも人気を集めるロビー・ウィリアムズの自伝映画だが、自分を「猿」の姿で描くという大胆な演出がポイント。その姿を提示して見せるだけで、最初から、これは寓話でファンタジーなのだと了解させる。なので、無名の少年が16歳で大スターになり、転落し、復活するという直球の物語が、素直にストンと胸に落ちる。本人がナレーションで語る胸の内が、あけっぴろげな告白に聞こえてくる。さらに『グレイテスト・ショーマン』のマイケル・グレイシー監督が歌で感動を盛り上げる。英国風俗のファンには、彼の実家の普通の英国家庭の描写も魅力的で見逃せない。
『アベンジャーズ』のルッソ兄弟監督が、シモン・ストーレンハーグの同名原作から"ロボットと旅をする少女"と"廃棄されたままのマヌケな顔の錆びたロボット"という要素をピックアップして、新たな物語を創り上げたのが本作。大挙登場するトボケた造形の錆びて汚れたロボットたちが、どれも愛おしく、ルッソ兄弟がこんなにへなちょこなロボットが好きだったとは。ロボットの塗装された顔は表情が変わらないのに、そこにさまざまな感情が浮かぶのが見えてくる。
原作ファンは同じ原作者のイラスト集が下敷きのドラマシリーズ「ザ・ループ TALES FROM THE LOOP」も要チェック。
教皇選挙の舞台裏に、死した教皇の生前の行動をめぐる謎解きミステリーを絡めつつ、選挙とは何か、そこでやるべきことは権力争いなのかと問いかける、今、描かれるべき物語。渦中の人間群像を演じるレイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴーらベテラン俳優たちが、みな巧い。
撮影は『アンモナイトの目覚め』のステファーヌ・フォンテーヌ。舞台はローマ郊外のバチカンだが、物語に合わせ、光は冷たく、映像は硬質。天井の高い建造物の内部に広がる大空間に、窓から差し込む光の筋。外から吹き込んでくる風。俯瞰で映し出される、小雨の中で傘をさしながら中庭を歩く教皇たちの群。幾つもの光景が強い印象を残す。
生い茂る植物を映し出す水面、その微かで細やかな震え。それに代表される自然描写は素晴らしいが、その部分だけを見れば、それを凌駕する緻密な描写で圧倒する大手スタジオの作品もある。しかし本作は、描き出す世界の姿によって魅了する。
人類による建造物は残っているが、人類はいなくなり、言葉は存在しない世界。植物が生い茂り、水は透き通り、動物たちが生きている。そこに大洪水がやってくるが、ノアの方舟は不要で、異種類の動物たちが水に浮く船を共有する。動物は擬人化されず、いかにも生物らしく、備わった性質によって行動する。そこで生きるネコの姿を追いながら、いろんなことに思いを巡らせてしまう。
冒頭シーンの構図がもたらすインパクトが、絶大。見えそうで見えないものが、恐ろしいものを想像させる。その恐怖感がずっと持続して、画面は怪しげなホラーの定番アイテムのオンパレードになっていくのだが、そこに映し出されていないところで、何か恐ろしいことが起きてしまった、または起きているのではないかと思わせる。そして、物語は予想しなかった方向に転がっていく。時々流れるグラムロックのT・レックスの歌が、ここまでいかがわしいものだったとは。
オズグッド・パーキンス監督は配信中の『呪われし家に咲く一輪の花』の高密度の静寂もおすすめ。スティーヴン・キング原作の新作映画『The Monkey』も早く見たい。