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『茶の味』石井克人監督独占インタビュー

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『茶の味』石井克人監督独占インタビュー

取材・文:渡邉ひかる

日本の美しい里山を背景に、ある一家の日常を独特のユーモアを交えて綴った『茶の味』。『鮫肌男と桃尻女』『PARTY7』で高い評価を得た石井克人監督にとって、本作は約4年ぶりの新作映画であり、カンヌ映画祭の監督週間オープニング作品にも選ばれた。想いを寄せていた女の子が転校してしまい、ショックを隠せない高校生の長男、時折姿を現し、自分のことを見下ろす“巨大な分身”に翻弄されきっている小学生の長女など、ちょっとヘンな“悩める人々”を温かい眼差しで見つめた石井監督の想いとは?

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■ぼくも小学1、2年生の頃は学校に行く意味を見出せなかった

Q:やはり、この物語がどのようにして作られたのかに興味があるのですが……。

ですよね(笑)。『鮫肌男と桃尻女』を撮っている頃からホームドラマを撮りたいなとは思っていたんです。でも、自分には向いていないジャンルだと考えていました。けれども、(木村拓哉と岸部一徳共演の)富士通のFMVのCMを撮っている時に「オレって、意外とお茶の間モノもイケるかも」と(笑)。と同時に、『幸福の黄色いハンカチ』や“寅さん”、中東の渋い作品など、こざっぱりした映画を自宅で好んで観るようになった時期があって、「何度も観返して楽しめるような映画を撮りたいな」とも思うようになったんです。そんな時に、あるお祖父さんが孫をずっとからかい続けていて、孫の母親に「お祖父さん、何してんのよ!」と叱られてしまうという物語を考えつきました。それを土台にして、「お祖父さんはどんな人なんだろう?」「孫は何を考えているんだろう?」「お母さんは何の仕事をしているんだろう?」と膨らませていったのが『茶の味』です。

Q:主人公の春野一家はある意味理想的ですが、微妙なところもある一家ですね。彼らの中に監督自身の家族観は表れているのでしょうか。

あの一家の距離感は理想ですね。僕も幸子(坂野真弥演じる一家の長女)のように、小学1、2年生の頃は学校に行く意味を見出せないでいました。それで、勝手に学校から帰って来ちゃって、捜索されたりして。でも、なぜ学校にいなきゃいけないのかが本当にわからなかった。「捜すことないじゃん!」と。で、その時、大人たちに怒られたりもしたので、作品には怒らない大人を出しました(笑)。

Q:『茶の味』というタイトルも素敵ですね。

製作の初期段階からつけていたタイトルなのですが、一時期、もう少しわかりやすいタイトルに変えようかとも思いました。春の季節の話で、皆が悩んでいるから、『春の悩み』とか。でも、わかりやすすぎて、逆に観客に対して失礼かなと。それで、結局『茶の味』に決めたんです。皆でお茶を飲んでいるシーンもあるし(笑)。単純に、僕がお茶好きだからというのもありますけれどね。もちろん、主人公一家も全員お茶好きの設定です。

Q:ちなみに、監督は何茶がお好きですか?

最近は熊笹茶と大葉茶のブレンドがお気に入りですね。

Q:こだわり派ですね! 紅茶やコーヒーはダメなんですか?

紅茶だったら、熊笹茶とブレンドさせます。コーヒーはあまり飲まないですね。以前は緑茶好きでしたが、緑茶って冷えるらしいんですよ。僕、冷え性なので、それを聞いて緑茶は控えました。


■現場もほのぼのした雰囲気

Q:監督の中で、『茶の味』と前2作『鮫肌男と桃尻女』『PARTY7』の違いは意識していらっしゃいますか?

『鮫肌~』や『PARTY7』は「オレはこういうのができるんだ!」という若者のエゴのようなものを交えながら作った作品で、自分ではかなり納得のいくものができました。一方、『茶の味』は「こういう作品が観たい。だから自分が作る」というスタンスで作ったのが一番の違いですね。それに、(前2作のような)メリハリが終始ある話よりは、落ち着いた話が作りたかったというのもあります。小栗康平さんの『眠る男』や長尾直樹さんの『さゞなみ』といったヨーロピアンビスタサイズの1シーン1カットの作品を観て、「僕もやってみようかな」と。ただ、自分の持ち味であるユーモアと、大人っぽいフラットな映像をどう融合させるかがチャレンジでもありました。

Q:キャスト同士のコラボレートが鍵となるアンサンブルドラマでもありますが、キャストに共通して求めたことはありますか?

キャストには「芝居をしている感じを出さないように」とだけ指示しました。「カメラが回っている間はとりあえず演技を続けて」とも言っていましたから、7分間くらい延々と会話を続けてもらった時もありましたね。脚本にはセリフが2行しか書かれていないのに(笑)。

Q:ほのぼのとした雰囲気の作品の場合、実は現場には緊張感が漂っていたりすると言いますが……。

そうですよね。でも、ほのぼのとした映画を作る場合、やはり現場もほのぼのしていなくてはダメだと思うんです。現場の緊張感って、どうしてもフィルムに表れてしまいますから。楽しい雰囲気で撮ったものからはやはり楽しさが伝わってくる。それに、「現場は楽しく!」が僕のモットーですから。


■フランス人を誤解していた(笑)!

Q:カンヌ映画祭の監督週間オープニング作品に選ばれた感想を聞かせてください。監督週間のスタッフは上映作品のチョイスにものすごいこだわりを持っていますよね。

製作の初期段階で、プロデューサーが「カンヌに持って行きたい」と言い出したので、「それだけはやめてくれ」と言っていたんです(笑)。でも、彼は「たぶんフランスでも受け入れられると思うよ」と言って、監督週間のスタッフに完成版を見せに行きました。そうしたら、スタッフ全員が「面白い!」と言ってくれたそうで。その後しばらくしてから「オープニングで上映したいんだけど、どうだい?」と向こうからアプローチしてきてくれたんです。僕は「面白い!」と言ってくれたのを素直に信じることができなかったので、彼らが日本にやって来た時に「どこがどういう風に面白かったんだ?」と1人ずつ問い詰めましたけれどね(笑)。でも、すごくうれしかったです。

Q:上映時の反応もよかったそうですね。

上映前にパリで行われたプレス試写の時も評判がよかったらしいんですが、そのことも僕は信じていなくて(笑)。本上映の時、観客が喜んでくれていたのを目の当たりにはしましたが、実は、それさえもヤラセじゃないかと……。どうやら、フランス人に対して偏見を持ちすぎていたみたいですね。意外といい人たちでした(笑)。

Q:クエンティン・タランティーノも観たとか。

マーケティング用の試写にお忍びで入り込んだそうですが、字幕がフランス語で、「皆が笑っているのに自分だけ笑えなくて悔しいから途中で出てきた」と言っていましたね(笑)。その後、彼のスタッフに英語の字幕入りのテープを一応渡しましたが、あの忙しい人が観てくれたのかどうか……。

Q:カンヌ映画祭を経験して監督の中で変わったことはありますか?

フランス人に対する誤解が解けました(笑)。あとは、アメリカなど、海外での自分の作品に対する評価を直接聞けたのが励みになりましたね。ハリウッドで働いている人が「キミの作品よかったよ」と言ってくれたりして。

Q:そういう意味では、私はフランス人よりもアメリカ人に『茶の味』のよさがわかるのか不安です(笑)。

僕もそう思っていましたが、何と、監督週間のスタッフの1人もアメリカ人だそうなんです。で、その人が「私、アメリカ人よ。でも、わかるわよ。馬鹿にするんじゃないわよ」と。ちょっと怒られました。だから、「アメリカ人に対しても誤解を抱いていたんだなあ」と反省しましたね(笑)。

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