『家族のレシピ』斎藤工 単独インタビュー

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『家族のレシピ』斎藤工 単独インタビュー

役者はテイクを重ねるとスケベ心が出る

取材・文:浅見祥子 写真:高野広美

斎藤工がシンガポールを代表するエリック・クー監督と組んだ映画『家族のレシピ』。彼が演じるのは小さなラーメン店の一人息子、真人。急死した父の遺品から中国系シンガポール人だった亡き母にまつわる手紙や日記を発見し、両親の思い出の地であるシンガポール行きを決意する。『TATSUMI マンガに革命を起こした男』でエッジの効いた演出を見せたクー監督による王道の人間ドラマ、その撮影現場で斎藤工の胸中に渦巻いたものとは?

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エリック・クー監督のファンだった

斎藤工

Q:映画『家族のレシピ』への出演はエリック・クー監督が現場の指揮を執ったオムニバスドラマ「フォークロア(原題) / FOLKLORE」に、ご自身も監督として参加したことがきっかけですか?

逆ですね。2年ほど前にエリックが日本人の俳優を探しているという話を聞き、彼のファンだったのでオーディションを受けさせてほしいとお願いしました。ビデオオーディションを経て昨年に撮影し、今年公開に至ると。撮影中にちょうど僕の監督作である『blank13』が仕上がったので、英語字幕のついたものを彼に観てもらったところ「ホラーのオムニバスの企画があるんだけど参加しない?」と声を掛けていただきました。

Q:もともとクー監督のファンだったのですか?

エリックの監督作で、日本で公開された映画は『TATSUMI マンガに革命を起こした男』しかありません。でもシンガポール映画の歴史をたどれば、彼がカンヌ国際映画祭をはじめとした世界三大映画祭へ、シンガポールのクリエイターを導く轍をつくったのは一目瞭然です。しばらくはプロデューサーに回っていたようですが、そんな彼がまた自身の監督作をつくりはじめ、しかも『家族のレシピ』はこれまでのあくの強い作品とは作風の異なるヒューマンドラマだったことも興味深いなと。

Q:『TATSUMI マンガに革命を起こした男』は日本の漫画家、辰巳ヨシヒロの自伝的エッセイ漫画と彼の短編漫画の映画化を融合させた異色のアニメーションでした。

最初にアニメーションを見せ、最後に本人を登場させるという構成も大胆ですよね。ふつうなら辰巳ヨシヒロがいかに偉大かを描いてから彼の作品に入るでしょうけどそうではなく、辰巳のつくった世界、その養分から見せていく。エリックがモノを描くときの本質の捉え方というのは、信頼するしかないと思えます。そんな彼の観点というのは、やはり世界に通用するフィルムメイカーのものなのだと、お会いするたびに感じます。

世界中に行きつけがある食通・クー監督

斎藤工

Q:ラーメンやシンガポール料理など『家族のレシピ』に登場する料理はとてもおいしそうで、監督はきっと食いしん坊だろうと思ったのですが?

彼はいくつものレストランを持ち、大変な食通でもあります。一緒にフランスやドイツ、スペインの映画祭へ行ったのですが、どこへ行っても行きつけの店があるんです。しかもローカルな屋台なども知っている。スペインのサンセバスチャンで印象的だったのは船着き場の一角にある、地元の漁師しか知らないような店で。そこで食べたニシンがものすごくおいしくて! 夢中で食べていたらエリックが「次、行くぞ」と、すぐ近くのスペインバルに連れていってくれました。そこの料理も最高でした。

Q:シンガポールでもおいしいお店に?

日本のテレビ番組のロケを高級店でしたんですが、最中に「ちょっとお腹を空かせておけ」と言われて。撮影後に屋台に連れていかれました。野菜と肉と麺を炒めた焼きそばのような料理を頂いたのですが、それが一番おいしかったですね(笑)。シンガポールの屋台って、あれもこれもとメニューを増やさないんです。でもどの屋台もそれぞれに一つのものを追求し、改良に改良を重ねている。だから同じメニューでも店舗によって味が全然違って、そんな屋台がたくさんあるんです。そうした個の集合体であるのが、シンガポールのエネルギッシュさの秘訣かなと。それはエリックをはじめとした、シンガポールのクリエイターにも通じる気がします。

Q:劇中には、物語のキーとしてシンガポール料理のバクテーが登場します。

バクテーは、シンガポールの人にとってのソウルフードです。つくり方は簡単で、僕も何度も自宅でつくっています。具はポークリブのみ、そこに粒のコショウと、ガーリックを皮のまま丸ごと入れて煮込むんです。とてもシンプル。白コショウを使うことが多いようですが、僕のオススメは黒コショウです。

松田聖子相手にアドリブの応酬

斎藤工

Q:真人という役柄は、ご自身の実年齢より若い青年かと思ったのですが?

役柄の年齢を考えることはありませんでした。そういえば日本の台本には必ず年齢が書かれています。この映画は台本自体、撮影に入るまでに大幅に変わったんです。真人の境遇には、シンガポール育ちのプロデューサーのエピソードが入っていますし、僕が真人にキャスティングされてからも台本は変わりました。そうした状況の中で役柄の設定に縛られるのも違うかなと。僕が初めてシンガポールの方たちと一緒にモノをつくる、その状況をフルに活用して演じよう! と最初から思っていました。

Q:ご自身の監督作『blank13』も撮影現場で生まれるものを大切につくったとか。そうした演出方法がクー監督と共通したのですか?

エリックともそこは話をしました。「どうやって映画をつくっているのか?」と聞かれたので、「ほぼ1テイク。『blank13』も撮影は5日間でした」と言うと、「お前が大好きだ!」と抱きしめられました(笑)。テイクを重ねると、どうしても役者のスケベ心が出るんです。実際にモニターを見ていなくても、モニター越しの目線を持って演じてしまう。でもファーストテイクでは相手がどう出てくるかわからないし、あまり悩まないんです。するとセリフを噛もうが誰かとバッティングしようが、そこにいる人と人との、まさに現在進行形の時間が映ります。僕は観客としても、役者の意図が見えた瞬間に冷めてしまうんです。エリックの現場では、「今ちゃんと感情が流れたか?」という確認をするだけでした。

Q:シンガポール在住のフードブロガーを演じる松田聖子さんとのやりとりは、特にその瞬間のドキュメントのように思えました。

実は申し訳ないことに、聖子さんにはアドリブをがんがんぶつけていました(笑)。偉大なあの松田聖子さん、という想いで演じてはいけない気がして。そもそも間合いやテンポが一定の芝居が嫌いなんです。日常で、一定のリズムのまま会話をする人がいたら気持ち悪いですよね? 言葉はぶつかるものだし、そういう瞬間が生まれないかなと思って。でも、聖子さんはやりづらかったかもしれません(笑)。

表現方法がほんの数ミリ違うくらいの感覚

斎藤工

Q:出来た映画を観た感想は?

なかなか客観的になれなくて……。最初に観たのはベルリン国際映画祭でした。観客の反応を見ていたら、真人のおじさんを演じるマーク・リーさんが出てきてから、笑いがよく起こったんです。笑いって、一番わかりやすい作品の引力みたいなもので。お客さんがどんどん作品の世界に引き込まれていくのがわかりました。それが会場の空気から伝わったんです。

Q:ご自身は昨年R-1グランプリに挑戦し、「わたしなりに恥をかき捨て、新しい景色を見てきました」とおっしゃっていました。それはどんな眺めだったのでしょう?

以前から日本においては、誰かと比べられたり、ふさわしいとされる基準に縛られていると感じていたんです。そこから解放されたいというだけでなく、そのルールのようなものを自分からはがしていこうと思っていました。今、僕という人間は肩書でいうと散漫なんです。広がっているとも言えるのかもしれませんが、あくまでそれは肩書のことでしかなくて。やっていることは同じで、その表現方法がほんの数ミリ角度が違うくらいの感覚です。だからジャンルにわけて自分を細分化するというより、根っこに引き寄せ、すべてをつなげていきたいなと。R-1グランプリの予選には覆面・匿名で応募しました。観客は6人の審査員、すでにたくさんの方を審査してきて疲れているのが目に見えてわかりました。それを覆面の奥から見た、そのときの光景は自分にとっての絶景で。クリエイティブな衝動をもたらす体感、表現の源となる得体のしれない何かをもたらすような景色でした。そうした体験をすることにディフェンスせず、やってしまっていいんじゃないかなと。それを実践したことで「やっぱりそうだよな!」という確信がありました。


斎藤工

「今、旬のモテ男」から多くのつくり手が求める実力派として確実に歩みを進め、本気でモノづくりを志す映画監督としても『blank13』でそのセンスと実力を世に示した斎藤工。さらにびっくりギョーテン、本気でR-1グランプリに出場したり吉本興業のNSCに通って芸人としての腕を磨いたり、写真家として雑誌に連載を持つなど、神出鬼没でもある。そんな彼の最新作。映画への愛、エリック・クー監督への愛を、例の深い声でたっぷりと語った。

(C) Wild Orange Artists / Zhao Wei Films / Comme des Cinemas / Version Originale

映画『家族のレシピ』は3月9日より全国公開

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