見どころ:『ヴァンパイア』などの岩井俊二監督が、2004年に公開された『花とアリス』を自らの手で初の長編アニメーション作品として作り上げた少女たちの物語。前作では触れられなかった主人公たちの出会いのきっかけや、友情が始まる瞬間などを捉えている。今回もアリスを蒼井優、ハナを鈴木杏が声優として演じる。原作と脚本、音楽と監督の全てを岩井が担当する、新しい世界の誕生に魅了される。
あらすじ:石ノ森学園中学校に転校してきた中学3年生のアリスこと有栖川徹子は、1年前に「ユダが、4人のユダに殺された」という3年1組に関するうわさを耳にする。彼女は自分の家の隣の屋敷が「花屋敷」と呼ばれ、この辺りの中学生たちを怖がらせていることも知る。隣家の住人のハナならユダについて何か知っていると聞かされたアリスは、花屋敷へ足を運び……。
古くからの岩井俊二ファンにとっては思いがけない贈り物ともいえる本作。『花とアリス』でのお遊び(固有名詞がことごとく手塚世代ネタだったり)を踏まえつつ、なんと岩井映画最強最恐のキャラ(声もそのまま鈴木蘭々!)まで登場。もともとアニメーション指向のある監督だけあり、ロトスコープ×昨今流行のセルルック3DCGという手法の選択も、水彩画的背景の繊細さ(ことにリノリウムに差しこむ外光など)と相俟って、作品が要求する世界観と驚くほど違和感がない。少なくともセルルック3DCGを使った作品としては現在最高峰といっていいのではないか。生身の杏&優で「その後の二人」を撮る前に、この調子でもう何本か観たいものだ。
80年代に氾濫した何かと「殺人事件」が付いた小説風だが、まさかの前日譚をアニメで描く岩井信者向けの企画モノとはちと違う。アニメ版『時かけ』の真琴ばりに生き生きとした中学時代のアリスと、「故篠田昇ならこう撮っただろう」と言わんばかりの俯瞰カットによる新たな世界観。11年前同様、漫画ネタ中心の固有名詞に、『生きる』オマージュと、やりたい放題なのに、しっかり押さえた青春映画のツボ。11年前のオープニングに繋がるラストも身震いモノだが、いちばんの衝撃は名前違えど、風貌そのまま『Love Letter』のオカルトキャラ・及川早苗が再登場(声:鈴木蘭々!)。時空だけでなく、作品の枠も超えた遊び心に脱帽。
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