見どころ:昭和の文豪・室生犀星が理想の女性をつづったとされる金魚の姿を持つ少女と老作家の物語を、『シャニダールの花』などの石井岳龍監督が映画化した文芸ファンタジー。ある時は少女でまたある時は赤い金魚であるヒロインと老作家の同居生活に、怪しげな過去の女も交え、不思議なストーリーが繰り広げられる。主演は、『ヒミズ』などの二階堂ふみとベテランの大杉漣。官能的かつレトロな世界観にミュージカル要素が挿入されるなど、鬼才・石井監督が放つ独特の作風に期待が高まる。
あらすじ:丸いお尻とチャーミングな顔の赤子(二階堂ふみ)は、自分のことを「あたい」と言い、「おじさま」と呼ぶ老作家(大杉漣)と一緒に暮らしていた。赤子には、何と真っ赤な金魚にもなる秘密があった。二人がひっそりと生活していたある日、老作家の過去の女が現れ……。
“脱げる条件”を優先し、新人女優を起用したら、ここまでポップでキッチュな作品にならなかったはず。明らかに二階堂ふみじゃなければ、成り立たない企画だ。か細い肢体と大粒な瞳で、室生犀星自身を投影していると言われる主人公のオヤジ心を弄ぶ小悪魔的魅力は、やっぱり平成の緑魔子。中盤から幽霊を演じる真木よう子が参戦し、「問題のあるレストラン」じゃ見られなかったの妖艶対決にクギ付け。高良健吾の芥川龍之介も、フィルムでの撮影も、森俊之の音楽も見事なスパイスになっており、ひと昔前なら『アメリ』のようにサブカル女子に熱狂的に支持されただろう。『無伴奏』に続き、口コミなどで、どんな結果が出るか楽しみな一本だ。
小悪魔な少女に姿を変えた赤い金魚と、老境に差し掛かった作家の、微笑ましくも官能的な恋の戯れを描く。文豪・室生犀星が晩年に発表した同名小説を映画化した大人向けのファンタジーだ。
室生犀星といえば「あにいもうと」や「杏っ子」くらいしか知らなかったので、こんな大胆かつ前衛的なモチーフの作品を書いていたとは驚き。しかも、原作にはない盟友・芥川龍之介の幽霊を登場させることで、メタフィクション的な味付けを施しているところも面白い。
明確なストーリーがない点で好き嫌いは分かれるかもしれないが、なんとも思わせぶりな艶っぽいセリフの数々と、赤いドレスに身を包んだコケティッシュな二階堂ふみの魅力は悶絶もの!
老いて行き着く果てが、この映画ような、赤い金魚の形をしたエロスといっしょに、和室のしっとりとした畳の上で、へなちょこなダンスを踊るような境地であれば、それはまったく悪くない。スクリーンに映し出されるイメージの数々が、そんな思いに至らせてくれる。赤い金魚が少女形になった時に着ている赤い服の、金魚のようで古い西洋人形の衣装のようでもある形。天井の低い畳の部屋の、いつも戸が開け放たれている縁側から、静かに流れ込んでくる適度な湿り気を含んだ空気。夜の河に映る満開の桜。時代背景は室生犀星の原作と同じ昭和30年代、モチーフも古典的だが、映像の軽やかなリズムと濁りのないクリアな質感は、現在のものだ。
※数量や販売期間が限定されていたり、劇場によっては取扱が無い場合があります。
ブログなどをご利用の方は以下のURLをトラックバックURLとして指定してください。