見どころ:『リリー・マルレーン』や『マリア・ブラウンの結婚』でニュー・ジャーマン・シネマの旗手となった、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーによるSFサスペンス。未来社会の研究者が、現実世界とそれに相似した仮想世界の間で奇妙な出来事に遭遇する姿を中心に、前後編に分けて描く。『戦争のはらわた』などのクラウス・レーヴィッチェや『アルファヴィル』などのエディ・コンスタンティーヌが出演。『マトリックス』などに先駆ける多層世界の設定、鏡を駆使した画面設計などビジュアルに注目。
あらすじ:未来研究所のシュテイラー博士(クラウス・レーヴィッチェ)は、仮想世界を作り出して未来社会を厳密に予測する“シミュラクロン”の開発主任を前任者から引き継ぐ。ある日、保安課長のラウゼが行方をくらまし、エーデルケルンという別の人物が取って代わっていた。その後シミュラクロンの実験により自ら仮想世界に入り込んだシュテイラーは、そこでラウゼを発見し……。
鮮やかなオレンジ、イエローのプラスチック製の流線形の家具。青みがかった光を放つモニター。あらゆるところに置かれて世界を映し出す鏡、鏡、鏡。他人の見ていないところでは人形か死体のように無表情になる美貌の女たち。原作のダニエル・F・ガロイの「構造世界」は64年のSF、映画は73年製作、仮想現実はSFの定番モチーフだが、「ベロニカ・フォスのあこがれ」「リリー・マルレーン」のドイツ監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーがそれをどう視覚化したかが興味深く、画面に見入ってしまう。ロケ地はパリ。映像の鮮明な色調は、この監督の映画16作を撮ったミヒャエル・バルハウスの監修でデジタル修復されている。