見どころ:テレビアニメ「四畳半神話大系」などで高い評価を受ける湯浅政明監督作。複雑な気持ちを胸に秘める少年と、純真な人魚の少女との出会いと別れを描く。声優として子役の谷花音、『くちびるに歌を』などの下田翔大、柔道家でタレントの篠原信一ら多彩な面々が集結。脚本は『映画「聲の形」』などの吉田玲子、キャラクターデザイン原案を漫画家ねむようこ、キャラクターデザインと作画監督を「四畳半神話大系」でも湯浅監督と組んだ伊東伸高が手掛ける。
あらすじ:両親が離婚して東京から寂れた港町・日無町に越してきた中学生の少年カイは、父親と祖父の三人で暮らしている。両親に対する複雑な思いを胸に日々を過ごす彼にとって、自ら作曲した音楽をインターネットにアップロードすることが唯一の楽しみだった。そんな中、人魚の少女ルーと出会い交流を深めていくうちに、カイは少しずつ周囲に心を開いていくが……。
田舎町で心を閉ざしたティーンエイジャー。母性を欠いた環境。音楽だけが心の友。そこへ現れる人魚の幼女。やって来るカタストロフ――。ジブリを思わせる心の解放や世界の救済といった王道のモチーフをちりばめ、疾走や躍動を追求するアニメならではの<画×音>のコラボが心地よい。とりわけダンスシーンの表現には息を呑む。そして「水」を中心とするゆらめきの表現に長けたフラッシュアニメーションを、長編映画に全編にわたって活用した実験精神は、観る者の心もなめらかにしてくれる。湯浅政明監督の新境地は、3.11の記憶を甦らせカタルシスを与えるという意味において、『君の名は。』とも同列に語られるべきだろう。
予想通り、人魚姫ベースの設定は『崖の上のポニョ』であり、その後の見世物と化してしまう展開は『河童のクゥと夏休み』。さらにクライマックスの水門シーンは『パンダコパンダ』。だが、そんな既視感だけで終わらないのが天才・湯浅政明監督。音楽に造詣のある監督らしい「バンドやろうぜ!」系の青春物語であるゆえ、音楽と映像のシンクロ感はハンパない。それにより、湯浅美学”といえる疾走シーンのエモさは倍増。ただ、“ファンが知人に勧められる湯浅作品”を目指したこともあってか、これまでの作品に比べ、狂気や毒の薄さは否定できない。よって、前作『夜は短し歩けよ乙女』の仕上がりには及ばないが、これまでが異常だったともとれる。
先月公開の『夜は短し歩けよ乙女』から殆ど時を経ずして、これだけの傑作をものにしてしまうとは、いやはや、恐れ入るしかないと言わざるを得ない湯浅政明監督の最新作。一見すると今時の青春アニメっぽい作画タッチだが、そこはご安心あれ、湯浅監督だからこそのシュールでポップでぶっ飛んだ要素も満載だ。
閉塞感に満ちた田舎の漁師町に暮らす孤独な少年が、天真爛漫な人魚少女との交流を通じて自我に目覚めていく。自分の人生は自分で決める、好きなことをやって何が悪い。この同調圧力なんてクソ喰らえ!という精神こそ、今の日本人に最も必要とされているものではないか。そういう意味でも、是非とも若い人に見てもらいたい作品だ。
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