見どころ:衝撃的な過去をつづった「サラ、神に背いた少年」を発表し、脚光を浴びた謎の天才少年作家J・T・リロイが巻き起こした騒動を描くドキュメンタリー。リロイの正体がローラ・アルバートという女性が創作した架空の人物であることが判明し、世間を騒然とさせたスキャンダルの真相を、ローラ自身の言葉やトム・ウェイツら著名人の通話音声などを通して解き明かす。『悪魔とダニエル・ジョンストン』などのジェフ・フォイヤージークが監督を務める。
あらすじ:突如文壇に現れた謎の作家J・T・リロイは、体を売っていた過去をつづった「サラ、神に背いた少年」で世間に衝撃を与え、ガス・ヴァン・サント、アーシア・アルジェントら多くの人々を魅了する。しかし、その正体がローラ・アルバートという女性が作り上げた架空の人物だという暴露記事が発表され……。
サブカル界の寵児となったJTリロイを作り上げたローラ・アルバートの回想を見ていてシンクロしたのが木嶋佳苗。ネット上に作り上げたセレブデイ続けるための資金欲しさで男たちを次々と殺害した佳苗が裁判で滔々と自己を正当化し、あまつさえ名器ぶりを述べたのとローラの語り口はほぼ同列。セレブの仲間入りしたがったデブスな点も同じ! しかもローラは正体を暴露された後に梯子を外したセレブへの恨み節も繰り返す。“逸材”に考えなしに飛びつくメディアの浅はかさも露呈され、ボノもアーシア・アルジェント赤っ恥をさらす。コカイン決めながら「オプラで禊を」と提案したコートニー・ラブがまともに見えたのがもう狂気の世界ってこと?
筆者もまんまと騙されていたクチだが、こりゃ仕方ない!と改めて思う。長らく世間を巻き込んだJ.T.リロイ騒動の全貌を「作家」ローラ・アルバートが赤裸々に語る。彼は彼女の内に生まれた人格か、精緻に構築されたキャラか? ともあれ送り手と受け手の欲望の合致が、甘美な漆黒のファンタジーを生んだのだ。
ガス・ヴァン・サントやビリー・コーガンなど、ローラ自身の持つ文脈がJ.T.リロイの“完成度”を高めたのだと思う。監督のフォイヤージーク(『悪魔とダニエル・ジョンストン』)の分析的な構成が見事。現実は既に入れ子構造なのだ。“虚実の皮膜”の実践的怪作として『イグジット・スルー~』『FAKE』と並べたい。
※数量や販売期間が限定されていたり、劇場によっては取扱が無い場合があります。
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