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被災地での映画上映…被災者であり立案者の思い…津波で命を落とした母からの言葉「世界観変わるから…」心に残る

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「石巻市復興を考える市民の会」代表・藤田利彦さん
「石巻市復興を考える市民の会」代表・藤田利彦さん

 東日本大震災で津波による甚大な被害を受けた宮城県石巻市渡波の黄金浜会館で7月10日、「一日だけの映画館」と題した無料映画上映会が行われた。企画の発案者で、同地区在住の「石巻市復興を考える市民の会」代表・藤田利彦さんが映画上映を決断した思いをつづったブログが、映画関係者などの間で静かな感動を呼んでいる。

「黄金浜会館掲示板」

 藤田さんの文章が掲載されているのは、同会メンバーとボランティアとの交流の場として開設している「黄金浜会館掲示板」。藤田さんは3月11日に襲ってきた津波で母親と同居中の叔母の2人を亡くした被災者だが、同地区は震災5日後にようやく自衛隊が救援にやってきたような支援の遅れている地域とあって、リーダー的存在として気落ちする住民たちを鼓舞し、なかなか復旧が進まない行政に掛け合うなど精力的に活動してきた。

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 だが内心は、木にしがみついたまま命を落とした青年、逃げる途中で渋滞に巻き込まれて車の中で生き絶えた家族、もうすぐ生まれてくるであろう命と共に亡くなった妊婦など、あまりにも悲惨な光景を見過ぎて感情が麻痺し、涙が出るようになったのはようやく最近の事だと吐露する。この数か月を振り返った藤田さんは「3.11以来、石巻市民とは『何か』を問われれば、それを一言で表現するならば『生存するために喰う、寝る、物資を確保する』だけだったと思います。空虚で殺伐とした雰囲気。ある種『人生を諦めたかのような虚無感』が漂う数か月だった」と語る。

 しかし、そんな日々にわずかな変化が現れだしたのは、震災後3か月を過ぎたあたりだったという。まず女性たちが「口紅が欲しい」と言い始めた。続いて、「音楽コンサートを楽しみたいね」という声も聞くようになったという。その矢先の5月31日、米国・ジュリアード音楽大学院の生徒たちによる支援コンサートが同会館で行われた。演奏に聞き入っていた地域住民たちの目からは、涙があふれていたという。

 そこで藤田さんは、被災者が「精神的な満足を得る段階に入ったのだな」と確信し、被災地での無料映画上映を行っている非営利団体「にじいろシネマ」(代表・並木勇一)に依頼した。藤田さんにとって映画は、津波で命を落とした母親に「お前、洋画を観てごらんよ。世界観が変わるから」と勧められて石巻のテアトル東宝(2000年に閉館)に通った、思い入れのある娯楽だったという。

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 上映作品は、山形を舞台にした『スウィングガールズ』とファンタジー大作『エラゴン 遺志を継ぐ者』の2本。しかし、よりによって7月10日の上映日に、3.11の悪夢を想起させるようなハプニングが起こった。午前9時57分に三陸沖でマグニチュード7.1の地震が発生。震度4を記録した石巻では、津波を警戒して住民に避難勧告が出された。幸い津波は10センチ程度の観測で済み、勧告は約1時間半後に解除された。だが改めて被災地ではいまだ予断を許さぬ状態であることを再認識させられ、とても落ち着いて映画を観る状況でなくなってしまっため観客は約15人程度と少なかった。

 それでも、泥まみれになった会場をよみがえらせ、映画上映まで漕ぎ着けた藤田さんは、スクリーンが涙でかすんでしまったほどだという。藤田さんは「(無料配付されたキャラメルポップコーンの)甘い香りが充満する黄金浜会館は、美しい映像が映し出され、重低音が鳴り響きました。これぞ『映画館』です。僕は、美しい映像を眺めているうちに胸がいっぱいになりました」と感想を記している。

 黄金浜会館のある地区は、いまだ電気が一部で復旧しておらず、生活排水を流すための側道に泥が詰まっているために、連日、掻きだし作業が行われており、いまだ問題は山積みだ。加えて7月末には、石巻市が一日2回行っている自宅避難者への食事の配給が打ち切られることになったという。頼りは、ピースボードが週3回行っている昼食の炊き出しのみとなり、車を流されてスーパーのある遠方まで買い物にいけない人はもちろん、高齢者や身障者には死活問題となりそうだ。7月20日に電話取材に応じた藤田さんは「だからこそ、私たちには楽しい話題が欲しい。そこで映画や音楽といった娯楽なんです」と力説する。今後も映画の上映はもちろん、被災地を走る瓦礫マラソンなども計画しているという。

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 また藤田さんは県外からのボランティアを積極的に受け入れており、「今の、心が折れそうになる僕たちを支えているのは、お金じゃないんです。人に対する友情や愛情、優しさなんです。ボランティアに来て下さる方からは、それが伝わってくる。ウチのメンバーも『僕たちの事を考えて来てくれたと思うだけで、涙が出てくる』と言ってます。被災地の状況を見に来てくれるだけでいい」と語っている。この言葉は、被災者のために何が出来るのか? と逡巡している人たちの背中を押してくれそうだ。(取材・文:中山治美)

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