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ベトナム版『怪しい彼女』ヒットの要因は?リメイク作品の背景にある国際戦略

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『ベトナムの怪しい彼女』
『ベトナムの怪しい彼女』

 今年の正月映画の目玉『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の興行収入1位スタートを阻止し、さらにベトナム映画歴代興行記録No.1を打ち立てた話題作『ベトナムの怪しい彼女』(2015年12月11日公開)が、このほど行われた第11回大阪アジアン映画祭で海外初上映された。いまやオーストラリアやトルコでも公開されて旋風を巻き起こしているが、そのヒットの要因について、舞台挨拶に登壇したファン・ザー・ニャット・リン監督が語った。

 原作は、シム・ウンギョン主演の韓国映画『怪しい彼女』(2014)。70歳のお婆さんがとある写真館で撮影したところ20歳に若返り、失われた青春と家族の絆を取り戻すハートフルコメディーだ。韓国では興行収入5,370万ドル(約64億4,400万円、1ドル120円換算)、観客動員865万人を記録する大ヒットとなった。

 アジアでの韓流ブームも手伝って、2015年には中国版『20歳よ、もう一度』も誕生。こちらも興行収入5,740万ドル(約68億8,800万円)、観客動員1,160万人という韓国を上回るフィーバーを巻き起こした。ベトナム版は中国に続くリメイクで、リン監督は権利元の韓国の製作会社CJエンタテインメントから「ベトナム映画を作ってほしい」と言われたという。

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国によって突き付けるアイテムもさまざま

 リン監督は「ベトナムの文化や精神を盛り込みました。例えば、撮影はベトナム南部で行っていますが、主人公のお婆さんは北部弁を話しています。ベトナム戦争時、北部出身者が南部に来て戦ったという歴史があるのでベトナム人なら彼女の背景を説明せずとも理解できると思います」と説明した。

 さらに、お婆さんが若返った時に髪型やファッションを真似する憧れのスターがお国柄を表している。韓国版がオードリー・ヘプバーン、中国版が“アジアの歌姫”テレサ・テンと広く知られたスターの名前を使用したのに対し、ベトナム版は大衆オペラの元人気女優タン・ガーを用いた。

 リン監督は「70年代に彼女の息子が誘拐される事件が起きました。勇敢にも犯人グループに立ち向かった結果、彼女が犠牲になってしまったのです。親子愛という本作のテーマに合う人物だと思いましたし、当時のアイドルとして、この映画で復活させたいという思いがありました。ちなみに写真館の主人を演じているのは、その時に助かった息子さんです」。こんな些細な“仕掛け”がベトナム人のハートを掴んだのだろう。

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 ただし、だからと言ってヒットが確約されていたワケではない。お婆さんは美声の持ち主で、若返った時に歌手として新たな人生を切り開いていく設定だ。ゆえに主演は万人を魅力するような歌唱力が必要となる。歌手としても活躍している主演のミウ・レは申し分ないキャスティングだが、リン監督「実は彼女は2番候補でした。1番手の人が多忙でスケジュールが間に合わなかった」と明かす。

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見どころの一つである歌唱シーン

 さらに監督からは「孫役(ゴ・キエン・フィ)が主演した前作が大ゴケしたから、プロデューサーが心配しちゃって(苦笑)」と暴露話が飛び出した。その前作が、今回の大阪アジアン映画祭でも上映されたスーパーヒーローがゲイだったという“笑劇作”のアクションコメディー『超人X.』(2015)だったことから、会場は笑いに包まれた。

 『怪しい彼女』は、多部未華子主演『あやしい彼女』(4月1日公開)として日本でもリメイクされた。物語の大筋は変わらないが、お婆さんと息子の親子愛が軸になっていたところを、母娘と設定を大幅に変えている。さらにタイ、インドネシア、ドイツでのリメイクが決まっており、各国バージョンを比較して観る楽しみもある。こうして世界で支持されるのは一見奇想天外なファンタジーのように思えるが、普遍的なテーマが根底にしっかりと描かれている原作脚本の素晴らしさがあってこそだろう。

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 また世界に『怪しい彼女』が浸透している背景には、CJエンタテインメントのグローバルな経営戦略があることも忘れてはならない。単に作品を輸出するだけでなく、自社作品を上映するため、系列のマルチプレックス映画館 CJ CGV を中国やベトナムなど国外でも展開している。

 そして今回のようにリメイクという既存のソフトを有効活用して合作プロジェクトを各国で実現させている。それも海外進出の足がかりになっているが、同時に韓国文化への理解や浸透にも繋がっている。賛否はあるとしても、日本の映画会社も大いに参考にすべき点だろう。(中山治美)

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