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『ダウンタウン物語』(1976年)監督:アラン・パーカー 出演:スコット・バイオ、ジョディ・フォスター 第48回【名画プレイバック】

『ダウンタウン物語』(1976年)監督:アラン・パーカー 出演:スコット・バイオ、ジョディ・フォスター 第48回
当時12歳だったジョディ・フォスターの歌唱シーンも必見! - (C)Paramount Pictures / Photofest / ゲッティイメージズ

 11歳の少年と少女の初恋を描く『小さな恋のメロディ』(1971)の脚本を手がけてから5年後、アラン・パーカーが長編映画監督デビューを飾った『ダウンタウン物語』(1976)は1920年代のニューヨークを舞台にしたギャングの抗争劇にしてミュージカル。しかもキャストは全員16歳以下の子どもたちという趣向で、撮影当時12歳だったジョディ・フォスターが妖艶な歌姫を演じている。(冨永由紀)

 ハリウッド全盛期の二大ジャンル、ミュージカルとギャング映画をパロディに脚本を執筆していたパーカーは四児の父で、長男から「主人公たちを子どもにしたら?」と言われて、全員子役というキャスティングを思いついたという。まだあどけなさを残したローティーンたちが三つ揃いのスーツに中折れ帽、メイクやヘアスタイルも完ぺきに仕上げてセクシーなドレスを着て、洒落た台詞を口にする。それだけで面白く、ストーリーを追うよりも子どもたちの奮闘を楽しむのが正解な作品だ。

 ストーリーはいたってシンプル。禁酒法時代、書店のバックヤードで闇酒場を経営しているイタリア系の太っちょサムの一派は、敵対するダンディー・ダンの一味としのぎを削っていたが、ダンたちは新型武器「漆喰銃」を入手して優勢に立ちつつある。手元にある武器は旧式のパイ(フィリングにクリームがたっぷり)、それに頼りない子分ばかりで頭を悩ませるサムは、知り合いの文無しボクシング・プロモーターのバグジー・マローンを雇って敵を迎え撃つ算段を進め、その合間に酒場の歌姫・タルーラ(フォスター)や、歌手やダンサーを夢見て闇酒場で働く男女の人間模様も描く。

 原題『Bugsy Malone』のタイトルロールで主人公のバグジー・マローンを演じるのはスコット・バイオ。大きな瞳が魅力的な二枚目を演じる彼と、まるでちびっ子版トニー・ソプラノ(テレビシリーズ『ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア』の主人公)のような太っちょサムを演じるジョン・カッシーシは共にニューヨーク出身で、本場仕込みのイキのいい芝居を見せる。特に、荒っぽいが愛すべきボスを愛嬌たっぷりに演じたカッシーシは、これが初めての演技だとは思えないなりきりぶりだ。後年、当時を振り返ったドキュメンタリーに出演した2人はそろって、「あれは演技というより素のままだった」と語っている。ニューヨークのストリートで育ったイタリア系の彼らは周囲の大人たちを自然に真似ていたのだろう。一方でカッシーシはパーカーの書いた台詞のいくつかは「いかにもイギリス人が想像で書いているといった感で、実際はあんな話し方はしない」と指摘しているが、その台詞を見事に自分のものにして演じていたのだから、大したものだ。

 実際、1年かけて1万人の中から選んだキャストたちは粒ぞろいだった。『小さな恋のメロディ』の撮影第2班の監督として、運動会や校内のモブシーン(群衆が登場するシーン)などを手掛けたパーカーの慧眼(けいがん)恐るべし。オーディションでやる気を見せなかったことを逆に面白がられたバイオしかり、敵対するダンディー・ダンの気障(きざ)ったらしさを好演したマーティン・レフしかり。後半に登場する“ベビーフェイス”を演じているのは当時9歳のデクスター・フレッチャー。古くはデレク・ジャーマン監督の『カラヴァッジオ』(1986)、最近では『キック・アス』(2010)などで知られ、2014年には『サンシャイン/歌声が響く街』の監督として来日、今年はタロン・エガートン、ヒュー・ジャックマン主演の監督作『エディー・ジ・イーグル(原題) / Eddie the Eagle』が英米で公開中だ。

 バグジーの恋人でヒロインのブラウジーを演じたのは本作1本で引退したフローリー・ダガー。もともと別の子役が演じる予定だったのが、成長期で身長がバイオを追い越してしまい、ダガーが端役からヒロインに抜擢された。ゆえに役者ぞろいのメインキャストの中で彼女だけは演技がところどころぎこちなく、役の感情を引き出すためにパーカーはわざと彼女を追い込むように仕向けることもあったという。出演していた女の子は全員バイオに夢中だったが、ダガーはそれが気に入らず、むしろ彼が苦手で、抱きつくシーンでは何度もNGを出してしまったとか。プロの子役と素人の組み合わせは『小さな恋のメロディ』と同じだが、年齢が少し高くなると、十代特有の自意識が邪魔をしてしまうのだろう。だが、その気まずさもまた味にしてしまうのがパーカーの手腕だ。

 パーカーは広告代理店勤務時代にCMなどで子どもとの仕事に慣れていたこともあり、気楽に考えていたが、実際は未成年の労働時間の制約や、何よりも一部を除いて素人同然の子ども200人をとりまとめるのは大変な苦労だったという。バイオやフォスターなど主要キャストはアメリカ人だが、撮影はイギリスのパインウッド・スタジオで行われ、大半の子役はイギリス人。今ほど気軽に海外旅行を楽しむ時代でもなく、カルチャー・ギャップなどから両者にちょっとした対立もあったという。

 これが監督第1作だったパーカーに対して、サムの情婦で歌姫のタルーラを演じたジョディ・フォスターはすでに女優として10年近いキャリアがあり、『タクシードライバー』(1976)の撮影を終えた直後に本作に出演した彼女は撮影現場の雰囲気のあまりの差にショックも大きかったようだ。監督やスタッフは他の子どもたちにつきっきりで、フォスターは「好きなようにやって」とほとんど放置されていたという。すっかり大人扱いされていたフォスターだが、先述のドキュメンタリーで、撮影初日に有無を言わさず髪をブリーチされ、眉を抜かれてパニックになったという秘話を語っている。大泣きしている娘を見かねた母から降板するかと尋ねられ、「大丈夫。映画はやるから(No, no, It’s OK. I’ll do the movie anyway)」と答えた健気なプロ根性に心打たれる。

 映像に大人の姿はどこにもないが、ミュージカル・シーンになると歌声だけ急に歳を取るのもおかしい。歌は全員吹き替えで、タルーラのパートはヘリウムガスを吸ったようなハイピッチの甘ったるい声で、子どもの頃から低く落ち着いたトーンのフォスターの声とは全然違う。反対にバグジーの場合、歌の合間の台詞になると突然ボーイソプラノになる。そうした“外し”は、クリームや漆喰が命取りの弾丸代わりという設定、外見は立派なクラシックカーだが運転はペダル式の特別仕様車でのカーチェイス・シーンなどでも顕著だ。

 もう一つパーカーらしいのは、1970年代半ばという時代ながら、アフリカ系の子役たちを活躍させている点だ。タップダンサー志望ながら、多忙を理由にオーディションをしてもらえないサムの酒場で働く掃除人、暴漢に襲われたバグジーを助ける、気は優しくて力持ちの男の子など、能力はあるのに環境に恵まれないキャラクターを登場させ、光を当てた。

 ラストはサムの酒場で両派入り乱れての大乱闘=漆喰銃とパイ投げの応酬になる。当たって顔が真っ白になったらおしまいじゃないの? という疑問さえも一掃する全員クリームだらけになっての大団円は痛快で、一滴の血も流れない奇跡のギャング映画となっている。


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