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移転問題に揺れる築地市場のドキュメンタリー、アジアを席巻!なぜ海外で話題?

アジアで大ヒット中の『TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』
アジアで大ヒット中の『TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』 - (C) 2016 松竹

 東京・築地市場に密着したドキュメンタリー映画『TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』(上映中)が、アジアで旋風を巻き起こしている。5か国での公開が決定しており、9月1日に公開された香港ではハリウッド大作に混じって、2週連続で興行成績ベスト10入り。また9月22日公開のタイでは、公開第1週の興行成績が同国の歴代ドキュメンタリー映画が持つ最高記録を更新したという。観光名所の築地人気も手伝って、大きく世界へ羽ばたきそうだ。

【動画】『TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』予告編

目標額を200万円上回る製作資金を達成!

 同作は豊洲移転が決まった築地市場の歴史と文化を映像に残そうとクラウドファンディングで製作資金を募り、目標の700万円を大きく上回る929万円を得て製作。遠藤尚太郎監督が1年以上にわたって四季と市場で働く人たちに密着しながら、一般の人が知る事のない取引の仕組みや、今回特別に撮影が許可された市場の知られざる施設などを映し出していく。記録した映像は600時間以上。場内を隈無く歩き、万歩計が1日で40kmを超えた日もあったという。

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 当初から、テレビドキュメンタリーとしてではなく映画として劇場公開と、海外映画祭を視野に入れて企画したそうで、遠藤監督はその理由について「映画の魅力の一つは国境を超えられる事。なおかつ日本は島国なので、日頃生活していると日本を意識することはないですが、作品を海外に出すことで改めて、自分たちの文化を見つめ直すきっかけになるのではないかと思いました」という。

 狙い通り、本作は今年5月にアメリカで開催されたシアトル国際映画祭でワールドプレミア上映されたのを皮切りに、カナダ・モントリオール世界映画祭、スペイン・サンセバスチャン国際映画祭、英国・レインダンス国際映画祭、レバノン・ベイルート国際映画祭と回っている。遠藤監督はシアトルとサンセバスチャンへ赴き、観客からの予期せぬ反応に発見と驚きの連続を味わっているようだ。

飲食業の人たちの関心を集めた学校給食のシーン

 日系企業の多いシアトルでは、現地在住の日本人も多い。ある日本人女性は鑑賞後、泣いていたという。「海外で子育てをしていると、日本人としてのアイデンティティーをどのように子供たちに伝えたらいいのか、わからなくなる瞬間があるそうです。でも映画を観て、市場で働く人の人情や魚文化を慈しむ精神などに触れ、自分たちはこういう国で育ったのだと誇りに思うことが出来たと。歴史の深い欧州では、自分たちの伝統を守っていく事の重要性を敏感に感じ取ってくれたと思います」。

リカルド・サンツ
映画祭ディナーを担当したマドリードのミシュラン1つ星レストラン「KABUKI」のリカルド・サンツが、地中海産鯛を捌くデモンストレーションを行う様子

 “美食の街”として知られるサンセバスチャンでは、飲食業の人たちが多数上映に駆けつけた。とりわけ関心を呼んだのは、学校給食で魚の身のほぐし方を学ぶ食育のシーン。「文化や伝統を継承していくことの重要性をより敏感に感じ取ってくれたように思います。何より皆映画を観ると『魚を食べたくなる』と言ってくれる。上映後に行われたディナーでは魚を捌くところをデモンストレーションで見せながら刺身を提供してくれた。本当にありがたいなと思いました」。

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 欧米人が、こうした多様な食文化に関心と理解を深める土壌を生んだのは、銀座の名店・すきやばし次郎を舞台にしたドキュメンタリー『二郎は鮨の夢を見る』をはじめとする食をテーマにしたドキュメンタリーが増えたことも影響しているようだ。映画祭でも、料理部門を設けるところが増えた。ひと昔前なら、映画で生魚を捌くシーンが映し出されるものなら悲鳴をあげる観客もいたほどだが、それも稀になった。

物議を醸しやすい生魚を捌くシーンを見せたワケ

 遠藤監督も「どこまで見せるか? 考えました。鮮度を保つための血抜きに神経抜き、外国人が苦手とする白子なども。ただ、意図してそれらを映すのではなく、日々行われている作業の一つの流れとして提示しようと思いました。むしろ今はパリで魚の処理技術を伝えようとしている『銀座奥田』の料理人・奥田透さんの尽力もあり注目されている。隠すことはないなと思いました」。

遠藤直太郎監督
遠藤尚太郎監督と映画祭のディレクター、ホセ=ルイス・レボルディノス

 その築地市場は今、豊洲への移転問題で揺れている。「企画当初から移転は決定しており、それをテーマにした作品ではありません。自分たちの食文化を見直し、その中で築地市場が果たしてきた役割を考えるきっかけになればと思って企画しました。ただそうした需要と供給を考えると、僕らの生活そのものが変化しており、市場も時代のニーズに合わせて変容していくものだと思います。今後、自分たちの食文化をどのように育んでいくか。これを機会に見つめ直す時期にきているのかなと思います」。

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 作品は、10月6日のシンガポール、10月28日の台湾公開に続き、ハワイ国際映画祭、オーストラリア各都市で巡回上映される日本映画祭でも上映される。また10月21日、22日には、アメリカの名門大学・ハーバード大学での特別上映会開催も決定。単なる和食ブームの波に乗っての公開ではなく、築地市場を記録した貴重な映像遺産として末長く上映される作品となりそうだ。(取材・文:中山治美)

映画『TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』は上映中

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