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名優ジャン=ピエール・レオとこども映画教室、諏訪敦彦監督を変えた2つの出会い

第30回東京国際映画祭

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第65回サンセバスチャン国際映画祭のレッドカーペットで記念撮影に収まる(写真左から)ポーリーヌ・エチエンヌ、ジャン=ピエール・レオ、諏訪敦彦監督

 諏訪敦彦監督の日本・フランス合作映画『ライオンは今夜死ぬ』が、スペインで開催された第65回サンセバスチャン国際映画祭でのワールドプレミアに続き、第22回釜山国際映画祭でもワールド・シネマ部門で上映。諏訪監督にとっては共同監督を務めた『ユキとニナ』(2009)以来、8年ぶりの新作となるが、この程インタビューに応じた諏訪監督は「8年なんてすぐですね。ただ、もう(映画は)撮れないかなと思っていた」と胸の内を語った。

【動画】ジャン=ピエール・レオ主演×諏訪敦彦監督『ライオンは今夜死ぬ』予告編

 諏訪監督は初長編映画『2/デュオ』(1997)からドキュメンタリーとフィクションの間をゆく作風で注目され、疑似家族の葛藤を描いた『M/OTHER』(1999)は第52回カンヌ国際映画祭監督週間で上映され、国際映画批評家連盟賞を受賞。以降、日本・フランス合作『不完全なふたり』(2005)、パリを舞台にした合作オムニバス・プロジェクト『パリ、ジュテェーム』(2006)に参加するなど国際舞台で活躍してきた。

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 並行して後進の育成にも力を注いできた。1998年からの特定非営利活動法人映画美学校の講師を皮切りに、2000年からは母校・東京造形大学デザイン学科でも教鞭を執ることに。そして『ユキとニナ』製作中の2008年に東京造形大学学長に就任。在任中は制作現場よりも教職に比重を置いて取り組んでいたが、2013年に体調を崩して学長を退任している。

第65回サンセバスチャン国際映画祭の記者会見で熱弁を振るう ジャン=ピエールを見守る諏訪敦彦監督

 映画制作がなかなか出来ない悶々とした日々の中で、心の支えになった2つの出会いがあったという。1つはフランソワ・トリュフォー監督の『大人は判ってくれない』(1959年)で知られるフランス人俳優ジャン=ピエール・レオ。2012年秋、2人は共に特集上映が行われるラ・ロッシュ=シュル=ヨン映画祭(フランス)に参加。すると、事前に関係者から諏訪監督の旧作を取り寄せて全て鑑賞したというレオから「ぜひ会いたい」と連絡があったそうだ。

 諏訪監督は「当時は学長を務めていたのであまり海外へ行けなかったのですが、自分の回顧展だったので渡仏しました。しかもジャン=ピエールが僕の映画を気に入ってくれて『一緒に映画を撮りましょう』といってくれた。その頃もなんとなく企画はあって映画とは繋がってはいたのですが『ジャン=ピエールと撮りたい』ということだけを心の拠り所にしていたと思います」と当時の心境を振り返る。

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諏訪監督がこども映画教室の講師を務めた2010年の金沢の様子。「もしも~だったら?」をテーマに10分の短編を制作した - (C)金沢コミュニティシネマ

 もう1つが、こども映画教室(代表・土肥悦子)だ。同教室は2004年にスタートし、大人はテーマを出したり機材の使い方を教えこそすれど、あとは子供たちの主体性にゆだねる映画制作ワークショップ。 諏訪監督は2010年の金沢、2014年と2015年の横浜での開催に参加した。時に講師であることを忘れて子供たち以上に夢中になりながら、映画作りの原点に立ち返っていたようだ。中でも2014年の体験が大きな刺激になったという。

 「金沢の時は、まずお話を作ろうと子供たちに提案したら延々とディスカッションすることになってしまった。机上で話しているだけでは、子供たちも、見ている僕らもつまんないわけです。その反省も踏まえて2014年の横浜では、“外に出て、まず撮ろう! 撮ってから、次の話を考えましょう”と。最初はそれで映画が出来るのか怖かったですが、やってみたら出来たんです」と諏訪監督。

 続けて「大人は撮影という行為を出来るだけ効率的に行う為に脚本・撮影・編集と役割分担を分けているけど、映画という本質を考えた時に別にそうである必要はない訳です。そもそも大人は不安だから色々準備しようとするけど、子供はやっちゃえ! と飛び込んでいける。そういう映画の自由さが、面白いなと思ったんです」と声を弾ませる。

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「ファーストシーンから物語を“つくる”」に挑んだ、2014年横浜開催のこども映画教室の様子。子供の背後から撮影のアドバイスをする諏訪敦彦監督がアツい!(写真左から2番目) - (C)こども映画教室

 『ライオンは今夜死ぬ』はまさに、この2つの出会いと体験を結実させたような作品だ。映画で「死」を演じることに苦悩していた老俳優(レオ)が、南フランスの片田舎で映画ワークショップを行なっていた子供たちと出会い、「生」を取り戻していく。実際に撮影前に現地で映画ワークショップを行い、その中から出演者を選んでいるが、本当は「子供たちを自分のスタッフにして、一緒に作ったら面白いんじゃないか」と考えたこともあったという。子供と接してエネルギーを得た諏訪監督の姿は、まんま劇中の老俳優を彷彿とさせる。海外の記者からも「以前は辛い映画ばかりでしたが、今回の作品からは幸せや喜びを感じる」といわれたそうだ。

映画『ライオンは今夜死ぬ』より - (C) 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BALTHAZAR-BITTERS END

 諏訪監督は作風の変化について「確かに『M/OTHER』などは内容的に厳しい話だけど、多分、現実は平和で、そういう事を考える余裕があったのだと思う。1990年代終わりはバブル景気が終焉していたのに、世間はどこか呑気だった。そんな風潮に“楽しんでいていいの? もっと考えるべき問題があるよね?”というのを突きつけたかったのだと思う」という。

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 対して今は「もっと厳しい状況にあるのかもしれない。東日本大震災や福島第一原発事故の時に思ったけど、こんな時に映画を作っている場合じゃないと。そういう危機感を感じている時に、本当の事を語るのが果たして良い事なのか? と考えました。結果、逆にもっと肯定的な内容にしたいという思いがあったし、何より楽しい映画にしたかった」と作品に込めた思いを語った。

 映画完成後も、諏訪監督のこども映画教室への情熱はさらに深まっているようだ。東京国際映画祭初の試みである中学生を対象とした映画制作ワークショップ「TIFFティーンズ映画教室2017」が今夏に行われ、諏訪監督は特別講師に就任。9日間のワークショップを経て4作品が完成し、第30回東京国際映画祭で初披露される。

今年初めて行われた「TIFFティーンズ映画教室」に参加した23人の中学生たちと諏訪敦彦監督。このワークショップの様子を追ったドキュメンタリー『映画が生まれるとき』(西原孝至監督)も第30回東京国際映画祭で上映される - (C)2017 TIFF

 またこの程、フランスのシネマテーク・フランセーズが主催し、世界14か国・45団体が参加している映画教育プログラム「映画 100歳の青春」に、日本から「こども映画教室」が参加することが決定した。2017年~2018年は「場所と物語」をテーマに、関連作品の鑑賞、撮影の体験、フィクション映画の制作・発表を行うが、こちらも諏訪監督が特別講師を務める。

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 諏訪監督は「こども映画教室の専門になるつもりはないんですけどね。子供はちょっと大変なんで」と苦笑いを浮かべつつ、「でもフランスのシネマテークが何十年もかけて作り上げたプログラムを継続させて行きたいと思うし、日本で興味ある人たちへの橋渡しが出来れば」と語る。映画の未来へ種を蒔きつつ、映像作家としても新たな境地を迎えた諏訪監督が今後、どんな作品を生み出していくのか。その活動を追い続けたい。

「こども映画教室の大事なことは、子供が映画を通して大事なことを発見する。僕らはそれに立ち会ってあげる。あるいは、一緒に考えてあげる。それは出来ると思う」と諏訪監督 - (C)こども映画教室

 なお、ブラジルの小学校が「映画 100歳の青春」に取り組む様子に密着したドキュメンタリー映画『映画万歳!』(パウロ・パストレロ監督)が、同じく第30回東京国際映画祭で上映される。(取材・文:中山治美)

第30回東京国際映画祭は11月3日まで六本木ヒルズほかにて開催中
映画『ライオンは今夜死ぬ』は2018年1月20日よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

●ラ・ロッシュ=シュル=ヨン映画祭
http://www.fif-85.com/en/

●「映画 100歳の青春」
http://www.cinematheque.fr/cinema100ansdejeunesse/en/projet/this-year-2018.html

» 動画の詳細
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