介護、うつなど香港社会を反映した『誰がための日々』が公開

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ウォン・ジョン監督

 2017年に開催された第12回大阪アジアン映画祭で最優秀作品賞を受賞するなど国内外で話題を呼んだ香港映画『誰がための日々』が、2月2日に待望の劇場公開を果たす。

【動画】映画『誰がための日々』予告編

 撮影当時若干27歳で初長編作だったウォン・ジョン監督は、本作で中華圏のアカデミー賞こと第53回台湾金馬奨と第36回香港電影金像奨で最優秀新人監督賞を獲得するなど、一躍、時の人となった。香港でインタビューに応じたウォン監督は「幸せなことに、この映画が私を今まで知らなかった世界へと連れて行ってくれました」と反響の大きさを改めて振り返った。

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 本作が多くの人の胸を打ったのには理由がある。主人公は1年間の精神科病院生活を終えたばかりの青年トン。行き場のないトンは、父親と狭小アパートで暮らすことになった。だが、仕事にかまけて家庭を顧みなかった父との相性は悪い。おまけにトンには、介護うつの果てに母親を死なせてしまったため、あらぬ疑惑もあった。そんなトンに対して周囲の人たちは腫れ物に触れるような扱いをし、再就職もうまくいかない。

 立ちふさがる厳しい現実と悔恨。背景には中国返還後にさまざまな歪みが生じてきた香港社会が描かれているが、経済格差に介護問題、親子の確執はわれわれが今いる世界そのもの。実際、香港のエリート青年が介護していた両親を殺害した事件をモチーフにしているという。

 この題材を選んだ理由について、「脚本のフローレンス・チャンがニュースを見た時に、『彼はこの後どうなってしまうのだろう?』とそればかりを気にしていました。でも事件経過やその後を報じるところはありません。そこで僕たちは同様の事件を調べ、ソーシャルワーカーなどさまざまな介護の現場にいる方たちの話を聞き、同様の事件が繰り返し起きていることを知りました。介護する側もいろんなものを背負っているのに、注視されることはあまりありません。介護者の心のケアについて考えてほしいと思いました」と説明する。

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 本作は、香港映画発展局が新人監督の発掘・育成を目的に基金を立ち上げた製作支援プロジェクト「ファースト・フィルム・イニシアチブ」の第1回受賞企画として選ばれた。製作費200万香港ドル(約3,000万円)の助成を受けたが、低予算であることには変わりはない。主演のショーン・ユーエリック・ツァンは脚本の良さに惚れ込んでノーギャラで出演した。16日間の短期間で撮影するためにカメラは基本的に固定にするなど技術と知恵で乗り切った。結果的に4畳半程度の部屋で寝泊まりする父子の姿を定点観測するようなカメラは、彼らの置かれた立場と心情をも映し出しているかのようだ。

 「インスピレーションを受けた作品は、共に狭い空間の中で大きなドラマが起きるジェイコブ・チャン監督『籠民』(1992)とスティーヴ・マックィーン監督『HUNGER/ハンガー』(2008)。それからジョニー・トー監督がプロデュースした『大樹は風を招く』(2016)は、屋上の使い方など都市における空間の観察が優れていて参考になりました。私は大学でパトリック・タム監督から学んだのですが、他の大学は映像学科でも専攻が別れていたのに対して、“全て自分で映画を作れるように”と。おかげで広い視野を持って創作する力が身に付いたと思います」

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 作品の高評価により俳優陣も多数の映画賞をもたらした。中でもアイドルのイメージが強かったショーン・ユーは、トン役で演技派俳優として新境地を開いた。そして、ウォン監督の元へもオファーが相次いでいるという。しかしウォン監督は冷静だ。

 「今回は政府の助成を受けて製作したので、ビジネス面のプレッシャーがなかったわけです。でも、これから映画監督としてやっていくためには、映画産業というマーケットの中で自分が何を発信していくべきかを学ばなければ。いずれにしても、これからも香港で今起こっている大きな問題の中で、見落としがちなことを、自分たちなりの方法で描いていこうと思っています」

 カンフーが隆盛だった香港映画界とは違う。新時代を切り開く期待の星の誕生だ。(取材・文:中山治美)

映画『誰がための日々』は2月2日より、新宿K’s cinemaほか順次公開

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