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北条司、反響を実感した2019年「40年が無駄じゃなかった」

実写の長編オムニバス映画『エンジェルサイン』で監督・総監督を務めた北条司
実写の長編オムニバス映画『エンジェルサイン』で監督・総監督を務めた北条司

 「キャッツ・アイ」(※・はハート)「シティーハンター」の漫画家・北条司が、実写の長編オムニバス映画『エンジェルサイン』(11月15日公開)で映画監督デビューを果たした。今年は2月に公開された『劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>』が興行収入15億円を超える大ヒットを記録し、11月29日よりフランス実写版『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』が日本公開。「映画が好きで、若い頃は美術や大道具、小道具などの映画の仕事に進みたいと思っていた」という彼が、初監督作にこめた想いや、映画の魅力について語った。

映画『エンジェルサイン』予告編

 本作は世界108の国と地域から寄せられた、6,888編の「サイレントマンガオーディション」応募作品の中から選び抜かれた受賞作5編に、それらの物語をつなぐ「プロローグ&エピローグ」を加えて構成されたオムニバス映画。各国で活躍するアジアの監督たちが5作品をそれぞれ担当し、「サイレントマンガオーディション」の審査員でもある北条が、自ら書き下ろしたオリジナルの「プロローグ」と「エピローグ」を監督。さらに彼は、もともと独立した別の作品である5編を1本の映画にするために、総監督として編集も手がけている。

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 全編を通してセリフがなく、映像と音楽だけでストーリーが展開していく本作を作る上で、北条が大切にしたのは「観客に伝わるように、わかりやすく撮る」ということ。だからこそ、各監督が撮った、作風もバラバラな5編を初めて観たときは「思わず頭を抱えてしまった」と明かす。

 「もう相当に気合いが入った映像が届いて、エンターテインメントというより、どれも芸術作品に近かった。これを単純につなげても、全然意味がわからないという感じだったんです。最初は各監督が撮ったものには手を触れまいと思っていたんですが、いや、これは触れないと1本の映画にならないという状態に追い込まれて……。もう心を鬼にして編集しました。だから、各国の監督には頭が上がらない。ごめんなさい! という気持ちですよ。とはいえ、編集に苦労したというよりは、逆に楽しみましたけどね(笑)」

 「プロローグ」と「エピローグ」の主人公は、チェリスト(松下奈緒)とピアニスト(ディーン・フジオカ)の音楽家カップル。「当たり前にきれいな映像が撮れる世の中になってきている今、映画ならではの魅力とは、何といっても音楽と音」だと断言する北条の想いを反映し、彼らが奏でる美しい曲が映画全体のストーリーのカギを握る。

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エンジェルサイン
北条は『エンジェルサイン』のエピローグ&プロローグを監督 (C) 「エンジェルサイン」製作委員会

 「ドラマでも、いい音楽が流れるだけで、何かウルッとくるときがあるじゃないですか。僕も今回、もう当たり前のシーンをただつないだだけなんですけど、そこにきれいな1曲をかぶせるという手法をちょっと実験的にやってみました。音響環境の整った劇場の大きいスクリーンで映像と音、音楽がマッチングする映画は、やっぱり最強のメディアですよね」

 北条作品の漫画といえば、昔から映画のカット割りのような躍動感あふれる画面構成が特徴で、“映像的な作家”だと言われてきた。本作では脚本の代わりに、北条が描いた絵コンテをもとに撮影を進めるという斬新な手法が取り入れられたが、彼自身は「普通に漫画のネームを描いているときと、感覚的にはそんなに変わらなかったですね」と話す。

 「そもそも映画への憧れが漫画を生んだというか……。手塚治虫先生のデビュー長編の『新宝島』を読んでも、まさに絵コンテなんですよ。車がアップのシーンから始まって、次のシーンで少し小さくなって、やがて車が峠を越えていく、みたいな。これ、映像じゃないかっていう。だから漫画って、紙とペンだけでできる貧乏人の映画だといえるかもしれない(笑)」

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北条司
「シティーハンター」劇場版アニメも大ヒットを記録し、飛躍の年となった2019年を振り返る

 今年は「シティーハンター」の劇場版アニメ、フランス実写版、そして自身が初メガホンをとった本作の公開と、まさに映画尽くしの北条司イヤーとなった。「普段、僕の世界は本当にここ(アトリエ)だけで、世間の反響を実感することがない。そういう意味では、今年はそれをちょっと体感できた。あ、自分が40年近く漫画をやってきたことは無駄じゃなかったのかなって(笑)。もう30年前の『シティーハンター』をこんなに覚えていて、新しい映画を観に来てくださる方がいることがありがたいと、つくづく思いました」

 「僕はいつも流されて生きている」と笑いながら、人生の中で、さまざまな出会いを柔軟に受け入れ、与えられたチャンスには全力で応える。そんなしなやかなスタンスで、今回、還暦にして映画という表現ジャンルを得た彼は、漫画×映像の新しい扉を開けたところだ。(取材・文:石塚圭子)

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