ファストファッションの裏にある搾取の実態…英国の鬼才マイケル・ウィンターボトム「商品に労働者の賃金を記載すべき」

映画『グリード ファストファッション帝国の真実』より
映画『グリード ファストファッション帝国の真実』より - (C) 2019 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

 『ひかりのまち』(1999)、『イン・ディス・ワールド』(2006)などの英国の鬼才マイケル・ウィンターボトム監督が、人気ファストファッション・ブランドのTOPSHOPを擁しながら、2020年に経営破綻した英アルカディア・グループのオーナー、フィリップ・グリーン卿をモデルにした映画『グリード ファストファッション帝国の真実』が、本日(18日)より公開される。有能でいて怪物的な主人公を通して浮かび上がるのは、ファストファッションの背景にある搾取の実態。実際に、スリランカの縫製工場の協力を得て撮影したというウィンターボトム監督が、搾取の構造、それを生むファッション業界の問題点について考えを語った(インタビューは日本時間5月25日にリモートで実施)。

『グリード ファストファッション帝国の真実』予告編

 本作は、ファストファッションブランドの経営で成功したリチャード・マクリディ卿(スティーヴ・クーガン)が還暦を祝うため、元妻サマンサ(アイラ・フィッシャー)や息子フィン(エイサ・バターフィールド)、母マーガレット(シャーリー・ヘンダーソン)らと共にギリシャ・ミコノス島を訪れる6日間の物語。古代ローマの円形闘技場を建造し、ライオンまで駆り出す悪趣味なこのパーティの目的は、イギリス当局から違法まがいの金融取引、脱税、労働搾取などの疑惑を追及され地に落ちたマクリディのイメージを挽回することだった。主人公のマクリディを演じるのは、『24アワー・パーティ・ピープル』(2002)、『イタリアは呼んでいる』(2014)などウィンターボトム作品の常連俳優スティーヴ・クーガン。脚本をウィンターボトム監督が兼任し、E・M・フォースターの小説「ハワーズ・エンド」、ハリウッド映画『グラディエーター』、ギリシャ悲劇「オイディプス王」などの引用をちりばめ、重い題材を扱いながら痛快なテイストのストーリーを生み出した。

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 映画によると、ファッションブランドトップ10の2018年の利益の合計は180億ドル以上。劇中、最悪なものとして描かれるスリランカの労働環境は、開発途上国の中では最高レベルで、女性たちが得る収入は1日4ポンド。バングラデシュの工場で働く女性は10時間労働で日給2ドル84セント、ミャンマーの作業員の日給は3ドル60セント。世界で最も裕福な26人が保有する資産は貧困層38億人の資産合計と同額だという。劇中で描かれるスリランカの縫製工場の劣悪な労働環境には誰もが思うはずだ。「ここまで搾取しないとビジネスは成り立たないのか?」と。ウィンターボトム監督は、以下のように話す。

 「うん、あるべきではないよね。スリランカの工場のシーンは、工場主たちの協力を得てさせてもらったんだけど、スリランカの働き手はもちろん工場主たちは毎年、ヨーロッパやアメリカの目抜き通りにある、僕らが買う大手のファッションブランドたちが、常により安くするように要求してくると話していた。できなければより安く製造できる場所に仕事を移すと脅すわけだ。バングラデシュで無理ならベトナムに、ベトナムで無理ならアフリカへと。スマートフォン工場も同様の問題を抱えているけど、ファッションはより簡単に生産地を変えられる。最悪なのは、工場労働者の賃金が少額なこと。でも働き手の女性たちの賃金を上げることはまったくもって可能なんだ。倍にしたって商品の値段への影響は少ない。僕らが服をプラス10%の値段で買えば、彼女たちは皆今より遥かに良い賃金を得ることができる」

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マイケル・ウィンターボトム監督

 ウィンターボトム監督は、そう現在の搾取の構造を憂いながら、どうすればこの状況を変えることができるのか、持論を展開する。「今の状況は任意による結果なんだ。それを僕らは変えることができる。でも、それはみんなで集約的に起こす変化でなければならない。例えば、フェアトレード(※公平・校正な貿易)のルールを設けること。商品に、製造に携わったミシン担当者の1時間の賃金を表示すれば、消費者もより適正な価格の商品を選ぶんじゃないか。問題はその情報が見えにくいことだ。最近の食品には材料や脂肪分、糖分の値が記されているよね。同様に、服もいくら働き手に支払われているのかがわかれば、消費者も変わってくると思うんだ」

 さらに、「誰にも個人的な責任があるとは思うけど……」と前置きしつつ、ファッション小売業界の問題点も指摘する。「今のファッション小売り業界は服を変えなければいけないと消費者に思わせるようにできている。30週ごと、3か月ごとに違うシーズンがあって、1年前、6か月前にファッショナブルだった服は流行遅れになる。そういうパターンを中心にできているんだ。そうすると経済的な余裕がない人も流行のものを買いたいから、その廉価版である安い商品を買うことになる。その構造は、ある意味人工的ともいえる。服にいくらお金をかけるかではなくて、どのくらいの数を買えるのか、ということだ。それが労働者の賃金を低くする。人がジーンズを5年履けるとしたら、より高い商品を買えるし、なおかつ今より服にかける額を抑えることができる。環境的な問題もある。大量の服が買われ、捨てられ、未使用のままだったりすることでどのくらい悪影響が出ているのか、さまざまな統計が出ている。ファッション業界が毎シーズン、毎年違うものを買うように僕らを駆り立てなければ、環境にも労働者にも僕らにとってもより良い結果になる。だけど残念なことに僕らはその中にはいないんだよね」

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 コロナ禍にある今、ウィンターボトム監督は本作が日本で公開されることについても言及。「(コロナ禍では)一般的な社会的体験ができなくなっていると思うから、映画館で映画を観られるというのはすごく嬉しいことだし、イングランドでも最近始まったような感じだ。僕は今田舎の方にいるから、まだ映画館に行けていないんだけどね」と喜びながら、映画館で映画を観る意義について、こう続ける。

 「全般的に社会的体験は一人より集団の方が楽しめるものじゃないかな。とはいえ、映画を観ている間は、観客は映画の世界に入り込むものだから、ちょっと矛盾するところがあるよね……。僕が映画館にしょっちゅう行き始めた頃、人がいないことが多かったんだ。金曜日の夜に映画館に行けば人でいっぱいで、それはそれで一つの映画の体験の仕方だけど、僕は午後によく行っていた。すると4人ぐらいしか観客がいなかったりすることも多かった。1,000人の観客とポップコーンを食べながらワイワイ観るタイプの映画体験もあれば、小説を読むようにその世界観に飛び込み、ほかの人のことを忘れてしまうようなタイプの映画体験もある。だから一人では映画を楽しめないってことはないと思う。映画によってはグループじゃなく、個人でどう体験するかが大事な作品もあると思うから。どちらにせよ、映画はコロナ禍で間違いなく人を助けてくれるものだと考えているよ」

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 ところで、ウィンターボトム監督は現在、イギリスにおけるコロナ第一波に関するテレビシリーズ「ディス・セプタード・アイル(原題) / This Sceptred Isle」が進行中。「コロナに対する人々の対応についての年代記的な物語」だという。また、孤立をテーマにした監督作も着手していると言い「恐らく(世界中の)誰もが……少なくともUKでは誰もが、第一波の、そして最近のロックダウン中にかなりの孤立感を感じていたと思う。だからコミュニティのあり方や生き方というのは微妙に変わったのではないかと思う。ただ必ずしも自分の映画づくりに影響するようなものではないと思っている」と制作の意図を語っている。(編集部・石井百合子)

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