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岡田将生『ドライブ・マイ・カー』で生涯忘れられない瞬間 「心が空っぽに」

映画『ドライブ・マイ・カー』より岡田将生演じる俳優・高槻
映画『ドライブ・マイ・カー』より岡田将生演じる俳優・高槻 - (C) 2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

 「この作品に出られたのは奇跡的なこと」「お芝居をすごく好きになった」……そう語るのは、村上春樹の短編小説を映画化する『ドライブ・マイ・カー』(公開中)でキーパーソンを演じた岡田将生。メガホンをとった濱口竜介監督が大江崇允と共に、第74回カンヌ国際映画祭脚本賞を日本人として初めて受賞したことでも話題を呼んだ本作について、キャリアの中でもかけがえのない体験となった撮影を振り返ると共に、「俳優としての焦りは決して消えない」という32歳の今を語った。

【写真】岡田将生、西島秀俊とカンヌのトロフィー眺める

 本作は、2014年に刊行された村上春樹の短編集「女のいない男たち」所収の同名小説に基づくロードムービー。愛する妻を亡くした喪失感を抱えながら生きる舞台俳優、演出家の家福(かふく/西島秀俊)が、寡黙なドライバー・みさき(三浦透子)と共に過ごすうちに、これまで目を背けていた妻の秘密と向き合うさまを追う。岡田が演じるのは、家福がかつて妻から紹介された俳優・高槻。くしくも家福が演出を務める舞台「ワーニャ伯父さん」のオーディションに参加し、意図せず主人公ワーニャに抜擢される役どころだ。原作では「四十代初め」の設定だが、演じる岡田に合わせてそれよりも若い設定となっている。

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監督も想像以上と絶賛!車中の長回しシーン

 主人公・家福にとって高槻は、亡き妻・音(霧島れいか)の記憶を共有できる唯一の人物であり、高槻との思いがけない再会が大きな転機となる。家福の高槻に対する複雑な感情、揺れ動いていく高槻との関係が見どころの一つだ。なかでも「これから先も忘れられないだろう」と岡田が語るのが、クライマックス。車中で高槻が家福を揺さぶる言葉を投げかける長回し(※カットを入れずにカメラを回し続ける撮影方法)のシーンだ。泣いているようにも見える岡田の真に迫った表情が印象的で、濱口監督を「目を瞑(つぶ)るほど素晴らしい。本当に想像していた以上にやってくれたという気がしています」と言わしめた。

 「初めから最後まで通しで撮影するスタイルでした。あの言葉にはいろんな捉え方があって、音に対しての気持ちと家福に対しての気持ち、あとは俳優としての焦り。そういうものをひっくるめて1カット、1カット監督とお話をして変えながら撮っていきました。事前にいくつかのシミュレーションはしていましたけど、結局は撮影していくとどんどん変化するのでそれも楽しみながら。でもあれはすごく……心がどんどん空っぽになっていく感覚がありました。撮影するにつれて自分の中から失われていくものが多かった気がします。すごく消耗していました。だけどあの日、あの瞬間、撮影していた時間は自分にとって特別な時間で……。監督もどのカットを使うか悩まれたとおっしゃっていたので、スクリーンで見た時には驚きました」

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俳優としての焦りは常にある

劇中でも舞台俳優たちによるホン読みのシーンが描かれる

 岡田いわく、高槻は“答えのない役”であり「いまだかつてないほど監督と話し合い、いまだに自分の中で腑に落ちていない役」という言葉からも苦戦した様子がうかがえるが、「共感するところはもちろんあった」という。

 「高槻と同じように俳優としての焦りは常にありますし、何か新しいことをしていかなくてはならない、チャレンジしていかなくては、人にどう思われているのかとか、すごく考えます。そういうことも濱口監督とお話していました。どうすれば自信を持てるのか、というのは役を通じて、自分にも言われているような気がして。キャリアを重ねるにつれてなだらかになればいいと思うんですけど、実際は不安でいっぱいです。いつ仕事がなくなるかわからない恐怖もありますし、だから常にどの現場にも全力で向かい、求められる俳優でありたいと思います」

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 この撮影で岡田が発見したのが「声の重要さ」。濱口監督は撮影前に必ずキャストが感情を乗せずにセリフを読み上げるホン(台本)読みを入念に行うことで知られており、岡田はその中で知っていったという。「言葉の聞こえ方によって、自分の受け方が全然違ってくるんだなと。特にテレビだと表情に頼りがちで。声だけで感情を伝える大切さをおろそかにしていたんだと気づきましたし、役と自分がシンクロしていく感覚がすごくわかったんです。監督に『お芝居を好きになった』とお伝えしましたし、好きになったというより好きだったんだなと再確認したというか。自宅でもホン読みを行っていましたし、それをボイスレコーダーに録って確認するという作業は、ここ最近のルーティンになっています」

容姿端麗だけど性格に難ありの役、なぜ多い?

BARで語り合う高槻(岡田)と家福(西島秀俊)

 ところで、岡田のキャリアを振り返ると本作もしかり、『悪人』(2010)では軽薄で裕福な大学生、ドラマ&映画『伊藤くん A to E』(2017・2018)では複数の女性たちを振り回す自意識過剰男、『星の子』(2020)では非情な一面を持つ中学教師と、「容姿端麗だが性格に難あり」な役どころが多い。今年4月クール放送の「大豆田とわ子と三人の元夫」では理屈っぽくひねくれたエリート弁護士を好演し、SNSを中心に大いに話題を呼んだが、こういった役について本人はどう思っているのか。

 「全部自分で選んでいるので、好きなんでしょうね(笑)。どこか欠落している役が好きです。役者みょうりに尽きる、身を削る、どちらもですね。消耗度は激しいですが、どこかでそれを求めている自分もいます。10代のころからなるべく一定のところにいないようにしようというのは頭の中にあって、そういう意味では前からいろんなことにチャレンジしていこうとしていたんですけど、10代、20代ってどうしても等身大な役が多かった気がします。でも、ドラマや映画を観ていても好みとして欠けている人に惹かれますし、『大豆田とわ子と三人の元夫』でも4人(松たか子、松田龍平、角田晃広、岡田)の、あの瞬間にしかできない芝居がたくさんありました」

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 今年も映画『さんかく窓の外側は夜』『Arc アーク』『CUBE 一度入ったら、最後』(10月22日公開)、ドラマ「書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~」などに出演しているが、「去年の緊急事態宣言時には自分を見つめ直す時間があった」という岡田。濱口組を経験し、「いい緊張感の中でお芝居をするうちに、今まで開いていなかった扉が開いていくような感覚が忘れられない。なかなか体験できることではないけれど、どの現場でもそういう状態になれるようになりたい」と目を輝かせていた。(編集部・石井百合子)

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