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尾崎英二郎、ひと昔前は考えもしなかったハリウッドの雇用状況の変化

「マーベル ヒット・モンキー」で日本人俳優として2人のキャラクターの声優を担当した尾崎英二郎
「マーベル ヒット・モンキー」で日本人俳優として2人のキャラクターの声優を担当した尾崎英二郎 - 提供:尾崎英二郎

 同名のマーベルコミックスを原作とするアニメーションシリーズ「マーベル ヒット・モンキー」が、ディズニープラスの「スター」で配信中だ。日本の裏社会を舞台に、アメリカ人の暗殺者ブライスが、仲間を虐殺されたニホンザルのヒット・モンキーと共に復讐を果たすため日本の裏社会に闘いを挑むというもの。

【動画】史上最強の殺し屋「ヒット・モンキー」の活躍を描くダークアニメーション

 怒涛のバイオレンスにダークなユーモアなどインパクトのある映像世界は、アニメーションならではの表現もスタイリッシュ。同時に、ヒット・モンキーが最強の殺し屋になっていく過程には物悲しさが付きまとい、人生の無常や命のはかなさを感じさせる大人のエンターテインメントだ。

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マーベル ヒット・モンキー
「マーベル ヒット・モンキー」はディズニープラス「スター」で独占配信中 - (C)2022 MARVEL

 批評家からコミックファンまで好評を博している本作は、ドラマ「テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく」でも注目のジェイソン・サダイキスが主人公ブライスの声を担当するなど、豪華な顔ぶれが並ぶ。日本人俳優として2人のキャラクターの声優を務めているのがロサンゼルスを拠点に活動する尾崎英二郎だ。

 尾崎の声の質の良さや高い英語力はドラマ「The OA」の声の演技でも実証済み。「エージェント・オブ・シールド」に続きマーベル2作目の出演となる今作では、若手刑事ヒロシ役と、汚職にまみれた軍の指揮官カトウ将軍の2役を演じる(実はほか3つの端役でも出演)。

原作コミックの表紙
原作コミック「ヒット・モンキー(原題) / Hit-Monkey」の表紙 - 提供:尾崎英二郎

 本作で、尾崎にとって初めての経験となったプレスコ方式(声を収録してから、映像を作る)は、監督の明確かつ細かい注文に応えるため、英語力も含めて高い処理能力と瞬発力が求められたという。

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 「『アフレコ』や『アテレコ』ではない本作の収録は、モーションキャプチャーとも異なり、顔の表情で何かを伝えることはできません。自由に考察して創り上げた演技と声が生かされるので、非常に楽しいプロセスでした。同時に、声の力の強弱・勢いや躊躇(ちゅうちょ)・イントネーション・間・明瞭度・スピード・軽快さと重みといった、目には見えないすべての要素をセリフに最大限に注ぎ込む。常にギリギリの攻防でもありました」

原作コミックの裏表紙
原作コミック「ヒット・モンキー(原題) / Hit-Monkey」の裏表紙 - 提供:尾崎英二郎

 今回、尾崎がオーディションで狙っていたのは50歳代の悪役、カトウ将軍だ。これまでは正義漢、好青年タイプが多かった。だが息の長いアジア系俳優たちにとって、悪役は一種の「登竜門」的な側面があると考えていたため、この役は大きなステップだと感じているという。

 「悪態やFワードなどのののしり言葉というのは、外国人俳優のセリフにはあまり出てこないもので。初めてセリフとして『GODDAMN!』というフレーズを演じました。悪態をつく時こそ、ビシッと切れ味よく言わないとキマリません。さらに啖呵(たんか)を切るセリフの最後が『 EARTH!!』というのも、日本人が苦手な『R』も、息を抜く『TH』の音も正確に出しつつ、勢いと迫力がなければ成立しません。『もっとパワフルに!』と檄(げき)を飛ばすジョシュ・ゴードンとウィル・スペックら監督の演出は、取り組み甲斐のあるものでした」

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第1話の脚本
「マーベル ヒット・モンキー」第1話の脚本 - 提供:尾崎英二郎

 日本文化を研究して作り込まれた美術面や音楽面も、いわゆる“トンデモ日本”的なものとは一線を画す。中でも特筆すべき点は、アジア系俳優で占められていることだろう。キャスティング・ディレクターは、テレビドラマ「ふたりは友達? ウィル&グレイス」などを手掛けるベテラン、ジュリー・アシュトン。この起用方針はオーディションの段階から徹底されていたという。

 「ひと昔前であればハリウッドのアニメ番組のキャラクターの声は、人種にこだわらず芸達者な俳優たちが、さまざまななまりを演じ分けていた」と尾崎は解説する。アメリカでは厳密には俳優と声優のすみ分けがない。そのため日本人役の声でも英語ネイティブの俳優が日本語のアクセントを付けて演じるのが主流だった。しかし人種マイノリティーの役を、さまざまななまりを操れる白人俳優を起用することに関して、近年物議を醸している。そんな状況を受け、業界は変わりつつあることを尾崎は身を持って実感している。

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カトウ将軍のせりふ
「マーベル ヒット・モンキー」指揮官カトウ将軍のせりふのパート - 提供:尾崎英二郎

 「2年連続で白人ばかりのノミネートのアカデミー賞が問題となりました。多くの有色俳優たちやマイノリティー社会が積極的に声を上げたことで、そこから雇用状況は改善され始め、今やその影響は実写作品だけでなくアニメの現場にも浸透しつつあります。本作のオーディションの俳優たちもアジア系アメリカ人や日本人俳優ばかりでした。僕が渡米した15年前には考えもしなかったことです」

 また近年では、作品によっては「自然な日本語なまりのある人はそのままに、英語ネイティブの人はアクセントを加えずに演じて大丈夫です」という注意事項がオーディションの際に言及されることが増えたという。

 「業界全体でキャスティングの傾向が、作られた大げさななまりの響きよりも本物感を優先し始めていることを実感します。作品によっては、『日本語を流ちょうに話せる人』が日本人役の条件に挙げられることも増えています」

 ハリウッドの変化を肌で感じながらマーベル作品での声優を経験し、日本人俳優としての可能性に挑み続ける尾崎。その活躍を、今後も楽しみにしたい。(取材・文:今祥枝)

「マーベル ヒット・モンキー」はディズニープラス「スター」で独占配信中

マーベル ヒット・モンキー シーズン1|予告編|Disney+ (ディズニープラス) » 動画の詳細
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