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『リコリス・ピザ』日本人キャスト安生めぐみの覚悟

ポール・トーマス・アンダーソン監督作品に、初めて日本人俳優としてキャストされた安生めぐみ。
ポール・トーマス・アンダーソン監督作品に、初めて日本人俳優としてキャストされた安生めぐみ。 - (C) Universal Pictures and Metro-Goldwyn-Mayer Pictures. All Rights Reserved.

 ポール・トーマス・アンダーソンの最新作『リコリス・ピザ』。1970年代のハリウッド近郊、サンフェルナンド・バレーを舞台に、アラナ(アラナ・ハイム)と高校生ゲイリー(クーパー・ホフマン)の恋愛模様を描いて本年度アカデミー賞ほか賞レースをにぎわせた。そのアンダーソン監督作品に、初めて日本人俳優としてキャストされ、スクリーンデビューを飾ったのが、ロサンゼルスを拠点に活動する日本人俳優の安生めぐみだ。同作の日本公開に合わせて帰国した安生に、オーディションからアンダーソン監督の演出などについて聞いた。

【動画】70年代のLAを舞台に15歳のゲイリーと25歳のアラナのもどかしい恋模様をつづる『リコリス・ピザ』予告

 安生が演じるのは、高級日本食レストランのオーナーの日本人妻キミコ。監督の私生活のパートナーである俳優でコメディアンのマーヤ・ルドルフの義母、笠井紀美子(ジャズシンガーで本作にも出演している)と同じ名前のキミコは、短いシーンではあるがアラナとゲイリーと対面する。

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リコリス・ピザ
フィリップ・シーモア・ホフマンの息子クーパー・ホフマン(左)と新星アラナ・ハイムが主演を務めた。『リコリス・ピザ』より - (C) 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 「オーディションはコロナ禍でしたので、セルフテープを自宅で撮って送り、1か月後に連絡が来て決まりました。後にプレミア試写会の時にキャスティングディレクターにお会いした際、もう一人の日本人俳優ミズイユミさんとわたしの起用についてはキャスティングの直感で、この2人だ! と思い、監督に見せて決まったそうです」(安生)

 オーディションの条件には“日本語が話せること”というメモ書きがあったそうだが、当然日系アメリカ人の俳優なども多く受けていたと考えられる。「以前は日本人の役なのに、明らかに日本語を話せないんだなという人がキャストされてしまうことがあり、どうして? という思いもありました」と語る安生。しかし状況は変わりつつあり、そうした中で本作もまた日本人の役に日本人をキャストしたことは、評価されるべき点だろう。

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安生めぐみ
高級日本食レストランのオーナーの日本人妻キミコを演じた安生めぐみ。『リコリス・ピザ』より - (C)Universal Pictures and Metro-Goldwyn-Mayer Pictures. All Rights Reserved.

 『リコリス・ピザ』には個性的なキャラクターが登場するが、キミコもかなり変わった個性を持つ人物として異彩を放っている。安生は当初、強い女性ではあるが笑顔を見せるなど、もう少し柔らかめの役作りをして現場に臨んだ。だが、現場で初めて会った監督はキャスト全員でのリハーサルの後に、朗らかに親しみを込めて安生を呼び寄せ「今日はめぐみにいろいろなことを試してもらって、テイクを重ねていくからね」と安生に伝えたという。

 「スウィートだったり無表情だったり強かったりするキミコを演じながら、最後に監督から言われたのが『アラナから目をそらさないでほしい』と。そこから何度も何度もテイクを重ねて、リハーサルを含めて朝から午後までかけて、一つのシーンでも味のあるパンチのあるキャラクターを作り上げていく過程はぜいたくだなと思いました。世界中の映画人からリスペクトされている監督の演出を体験することができて、本当に感激しました」(安生)

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ポール・トーマス・アンダーソン
ポール・トーマス・アンダーソン監督(右) - (C)2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 共演したアラナたちとは、和気あいあいとした雰囲気で雑談も交わしたという安生。現場では関係者全員に非常に温かく迎えられて、夢のように幸せな体験だったと語る。だが、当然ながら今回のスクリーンデビューに至るまでには、長い道のりがあった。

 安生は昭和音楽大学短期大学部ミュージカル科を卒業後、奈良橋陽子が主宰するアップスアカデミーでアメリカの演技手法を学んだ。同時に、日本舞踊正派西川流に入門し師範、名取に。渡米したのは、2011年に20代後半の時。以前からハリウッドを目指して準備はしていたが、東日本大震災を機に、「今、本当に好きなことをやっていこう」と決意したという。渡米後は学校に通ったり、ウエイトレスほかアルバイトをしながらひたすらオーディションを受け続けた。

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 大きな自信につながったのは、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)のオーディションで最終候補の2名にまで残ったことだ。

 「オーディションで手応えを感じ始めたのは2017年ごろから。『アベンジャーズ/エンドゲーム』では東京のシーンに出演する役で、オーディションの台本は守秘義務のためフェイクでしたが、非常に強い感情を要求される1シーンを演じました。最終的にアトランタでの撮影となったため、もう一人の最終候補だった現地の俳優さんに決まりました。(LAに住んでいても)そういうこともあるんだなあと。でも、マーベルのキャスティングサイドに認めていただけたというのは、大きな自信につながりました」(安生)

 今後は、「いつかはミュージカルをやってみたいしコメディーもやりたいし、いろんな役に挑戦してみたい。今回のキミコ役は、友人たちがみんな『(安生)めぐみじゃないみたい』と言ってくれたのですが、そういう自分とは全く違う役にも積極的に挑戦していきたいです」と目を輝かせる。

 語り口は静かで言葉数は少ないながらも、安生の話ぶりからは胸に秘めた演技への強い思いと、ハリウッドで生きていくという揺るぎない覚悟が感じられた。安生のハリウッドでのキャリアは、今まさに始まったばかり。「好き」を原動力にして、さらなる飛躍を心より願わずにはいられない。(取材・文:今祥枝)

映画『リコリス・ピザ』は全国公開中

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