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プラスチックを食べる近未来…デヴィッド・クローネンバーグが肉体の変化にこだわる理由

「DEATH STRANDING」などのレア・セドゥが臓器タトゥーアーティストを演じる
「DEATH STRANDING」などのレア・セドゥが臓器タトゥーアーティストを演じる - Photo: Caitlin Cronenberg

 映画『クラッシュ』(1996)、『イグジステンズ』(1999)などの衝撃作で知られるデヴィッド・クローネンバーグ監督が、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(2005)、『危険なメソッド』(2011)などで組んだヴィゴ・モーテンセンを主演に迎えた最新監督作『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』(2022)。環境に合わせ自ら進化していく人々を描いた本作は、肉体や精神の変化と犯罪を描き続けてきたクローネンバーグらしいSFスリラーだ。20年にわたってこの企画を温めてきたという監督が、本作に込めた思いを語った。(取材・文:神武団四郎)

驚異の世界の幕開け『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』予告編

 悪化していく環境に適応するために進化を続け、痛感の摘出など生物学的構造の変容を遂げた人々が暮らす近未来。自らの臓器を摘出するライブショーの人気パフォーマーであるソール(ヴィゴ)とパートナーのカプリース(レア・セドゥ)のもとに、ショーで使ってほしいと生前プラスチックを食べていた遺体が持ち込まれた。そんな彼らの周囲に、臓器登録所の役人ティムリン(クリステン・スチュワート)や犯罪捜査官が近づいていく。

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進化は「この世界をサバイブするためのもの」

(C) Serendipity Point Films 2021

Q:突然変異や肉体改造など、本作にはさまざまな形で肉体が変容していく人たちが登場しています。

私たちは文化面や心理面、身体面を含めつねに変化をしています。中でも特徴的なのが身体で、人は生まれるとすぐに成長をはじめ、やがて老いて朽ちていきます。少し極端な形ではありますが、この映画では人間が直面する変化のメタファーとして肉体の変化を描きました。

Q:プラスチックを食べる人間のような存在は、環境が悪化した世界において正しい進化だといえるのでしょうか?

正しい進化や望ましい進化かどうかはともかく、必要に応じた進化だと解釈できると思います。ダーウィンの進化論で誤解してはいけないのは、人間はより完全に、もしくは哲学的に昇華すべく進化しているわけではないということです。宗教家は天使や神に近い存在になることが正しい進化の形だと捉えていますが、私たちの進化はこの世界をサバイブするためのものなのです。より高い次元の生き物になることではなく、与えられたり自分たちが作った環境に対処していくことが進化といえます。

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Q:本作の脚本を書いたのは1999年頃とのことですが、当時といまでは世界を取り巻く環境が大きく変化したと思います。それについてどう感じていますか?

脚本を書いてからすでに20年以上が経過しました。当時、私はこの物語を「挑発的な問いかけ」程度にしか考えていませんでしたが、その後、私たちの体内にマイクロプラスチック(細かなプラスチックごみの総称)が侵入していることが明らかになりました。プラスチックを消化できるバクテリアが発見されたいま、映画の中の出来事はファンタジーではなく議論すべきテーマになったというのが正直な感想です。いまプラスチックが問題視されていますが、地球からプラスチックごみを一掃するというカオスのような作業を考えると、人間が環境に適応できる体を作り出すことはフィクションではないのではないか、と思えます。

テクノロジーは身体の延長線上にある

デヴィッド・クローネンバーグ監督Photo: Caitlin Cronenberg

Q:劇中には人の体にフィットするベッドや食事をサポートする椅子、遠隔操作の手術機器などさまざまなマシンが出てきます。これらはどのように発想されたのでしょうか?

読者に思い描かせる小説と違って、映像で表現するには「物理的にどういうものか」を提示しなければなりません。そこが映像表現の難しさであると同時に楽しさでもあるんです。まずはどんなマシンなのか脚本の段階で細かく書き込み、それをもとにプロダクションデザイナーと話し合いをします。45年にわたって仕事をしてきたキャロル・スピアが今回も担当してくれて、マシンの外観や機能はもちろん、質感や肌触り、動くとどんな音を発するのかなど細かく決めていきました。ある程度固まるとキャロルのチームのグラフィックアーティストがスケッチに起こし、試行錯誤しながらデザインを決めていくんです。続いて動く仕掛けや予算を考えながらひとつひとつ材質を決めて制作に着手する、細かい作業を経て完成にこぎつけました。一から車を設計するようなものですね(笑)。

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Q:『ザ・フライ』(1986)のポッドや『裸のランチ』(1991)のタイプライター、『戦慄の絆』(1988)の手術器具など、監督の作品では個性的なマシンや小道具が重要な位置を占めていますね。

私がなぜデバイスをよく登場させるのかといえば、テクノロジーもキャラクターを描くための大切な要素だと考えているからです。テクノロジーと聞くと、人間の外側に存在するもの、人間性と対極にあるものと捉える人もいますが、私は身体の延長線上にあると思っています。つまり何かを設計したり作り出す行為は自己表現に他ならない、ということです。何のためのデバイスでどういった機能を持たせるかを明確にすることで、それを使うキャラクターの説明にもなるんです。これを使う、あるいはこれを開発したのはどういう人物で何を求めているのか、マシンを使って彼らをより深く描こうとしてきました。

死後の世界は存在しない

(C) Serendipity Point Films 2021

Q:今作の「進化」に限らず、監督はこれまでも様々な形で変化する肉体を描いてきました。人の身体に興味を持つようになった原点をお聞かせください。

私以外の人たちにも共通すると思うのですが、映像作家は多かれ少なかれ誰もが身体に取り憑かれているのではないでしょうか。映画を作るため何にカメラを向け、記録するのかといえば、それは人間の顔であり身体なんです。結局のところ、私たちが表現しているのは肉体だということです。レンズや撮影の仕方によって表現も変わるので、必然的に私たちは「人間をどう撮ってドラマを作るか」を考えます。たとえ意識はしなくても、人間の体にオブセッションしているのが映像作家といえるのです。本当は、幼少期に何らかのトラウマがあったと答える方が面白いのでしょうけれど(笑)。ですから私はスピリチュアルな存在を信じないわけはないですが、生き物である人間の本質は身体であり死後の世界は存在しないと思っています。長年にわたって肉体を通し根源的な人間のありようを描く行為を続けてきましたし、それは今回の『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』も同じなんです。

 こん棒から核兵器まで人間が生み出してきたテクノロジーは私たちを映し出す鏡だと語るクローネンバーグ監督が、無軌道に進化していく肉体を描いた『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』。『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(2014)から8年ぶりとなる本作は、彼の健在ぶりを示したクローネンバーグらしい作品となった。

映画『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』は8月18日より全国公開

鬼才デヴィッド・クローネンバーグ最新作『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』予告編 » 動画の詳細
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