切なすぎる…『ウィキッド』オープニング楽曲が泣ける理由

人気ブロードウェイミュージカルを映画化した『ウィキッド ふたりの魔女』のオープニング楽曲「ノー・ワン・モーンズ・ザ・ウィキッド」は、マンチキンたちが西の悪い魔女・エルファバ(シンシア・エリヴォ)の死を喜ぶ曲。その“吉報”を伝えなくてはならなず、共に歌う南の善い魔女・グリンダ(アリアナ・グランデ)だが、彼女の瞳の奥には深い悲しみを見ることができる。映画ならではの魅力に満ちたこのシーンにどう取り組んだのかを、来日時にインタビューに応じたアリアナとジョン・M・チュウ監督が語った。
【画像】超仲良しな来日時のアリアナ・グランデ&シンシア・エリヴォ
アリアナは「『ノー・ワン・モーンズ・ザ・ウィキッド』では、どのくらい自分の本当の気持ちを表に出すかという点でバランスを取るのが重要だった。あの時のわたしは、マンチキンたちに吉報とされるものを伝えなくてはならなくて、唯一の親友の死を嘆いているという本当の気持ちを押し込めている。グリンダには公の場で演じなくてはならない役柄があって、どれだけ彼らを自分の内側に入れるかという点でとても慎重になっているの。なぜなら彼らを完全に内側に入れることはできないから」と振り返る。
「だけど、小さな女の子がわたしに『なぜ邪悪なことは起きてしまうの?』と尋ねてくれた時はうれしかった。なぜなら彼らに『邪悪さは生まれつきなのか? それとも後に押し付けられるのか?』という真実を教えるチャンスだから。エルファバに起きたことを理解する機会を彼らに与えられる。そして、そこではわたしたちもそれぞれに役割を果たしていることを」とアリアナ。心情的にハードな撮影だったようで、「親友の死を悼みながらお祝いをしないといけないのはすごく大変で、あの場を離れるのが待ち切れなかった。だから終わった時は『オーライ! フー! バイ!』みたいな感じだった」と笑った。
第2部にして完結編『ウィキッド:フォー・グッド(原題) / Wicked: For Good』の肝となるのは、タイトル通りエルファバとグリンダの友情を象徴する名曲「フォー・グッド」だ。チュウ監督によると、アリアナの「ノー・ワン・モーンズ・ザ・ウィキッド」のシーンは、「フォー・グッド」のシーンを撮った直後に撮影したものなのだという。「だから彼女は『フォー・グッド』の時の感情を胸に抱えたまま『ノー・ワン・モーンズ・ザ・ウィキッド』を歌っている」。二人の過去を知った上で観れば心が揺さぶられるほど切ないシーンになったのは、そのことも影響しているといえそうだ。
チュウ監督は「僕たちは“彼女はどれだけ自分の気持ちを見せるべきか”という点で試行錯誤したけど、彼女はちょうどふさわしいだけ見せたと思う。何がベストか見いだすため、悲しみを見せる量を多くしたり、少なくしたりしたバージョンも複数撮ったんだ。だけど、映画の最初のシーンだから、やりすぎると『どういうこと? 彼女は善い魔女・グリンダのはずでしょ?』と観客を混乱させてしまいかねなかった。だからあのシーンがうまくいくよう、すべてを意図的に、正確にやったんだ」とこだわりを語った。
なお、「フォー・グッド」はシンシアとアリアナが初めて一緒に歌った歌でもある。チュウ監督は「二人を雇った後ですら、二人を直接会わせることはなかったんだ。そして雇ってから数か月間後、ついに全員で集まった。二人には『その夜までは会わないで』と言ったんだけど、彼女たちはちょっと悪い子で、その間もFaceTimeとかオンラインで会っていたみたいだけど」と笑って明かす。
「それで僕の家に集まってディナーをして、そこには作詞作曲のスティーヴン・シュワルツ、脚本のウィニー・ホルツマンとデイナ・フォックス、プロデューサーのマーク・プラットもいた。僕の子供たちもね。そしてその時、リビングにたまたまピアノがあったんだ。普段はないんだけど、ちょうど僕がロンドンに引っ越すという時で、次にこの家に住む人がすでにピアノを置いていて。それでスティーヴン・シュワルツがピアノを試してみようかと言い、『フォー・グッド』を弾き始めた。そこで二人は初めて一緒に歌ったんだ」
「予定にはなかったことで二人は準備もしていなかったのに、二人が歌う『フォー・グッド』は本当にすごかった。第2部では彼女たちの『フォー・グッド』を観られるわけだけど、観客は本当に感動すると思う。この曲で二人の声が合わさるのを聴くのは、スピリチュアルですらあった」とチュウ監督は声を潜め、夢心地で述懐していた。今年11月21日に全米公開の『ウィキッド:フォー・グッド(原題)』(日本公開日は未発表)への期待は高まるばかりだ。(編集部・市川遥)
映画『ウィキッド ふたりの魔女』は公開中


