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綾野剛、『クローズ』以来17年ぶりの三池組は「共演者とトーナメント状態」

綾野剛
綾野剛 - 写真:尾鷲陽介

 教師による児童へのいじめが日本で初めて認定された体罰事件を追った福田ますみのルポルタージュ「でっちあげ 福岡『殺人教師』事件の真相」に基づく映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』(6月27日公開)で主演を務める綾野剛三池崇史監督と『クローズZERO II』(2009)以来のタッグとなった本作で、保護者である母親から、教え子への体罰を告発される小学校教諭の薮下誠一を演じた。律子の目に映る薮下と、彼自身による証言の再現、一人の人間を恐るべきふり幅で演じた撮影の裏側、役へのアプローチを、独特な感性あふれる言葉で語った。

ヤバすぎるカッコよさ!綾野剛撮りおろし<7枚>

“どう見せたいか”ではなく“どう見られているか”が重要

教え子に凄惨な体罰を行ったと糾弾される薮下(綾野剛)だが……(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会

 綾野が三池監督と組んだのは、実に17年ぶり。三池監督についてあらためて、「誠実に真っ当にスタッフやキャストを見つめ、敬意を持って大切にされる。以前もその姿を現場で見ていましたので、再びご一緒でき演出を受けるのが楽しみで、ワクワク感でいっぱいでした。本作でも監督の姿勢は美しかったです」と、監督の“人間力”に魅了された様子。チームを信頼する三池監督を、「(スタッフ・キャスト)それぞれの個性を調和させていきます。それも誘導するのではなく、それぞれの尊厳を大切にされるんです」と称賛する。

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 初めて脚本を読んだときの印象を「共演者との総当たり戦トーナメント」と振り返る綾野。「しかもそれぞれにジャンルの異なる者同士の格闘技のよう。ノーガード、防御なしの打ち合いと言いますか。そんな脚本に出会えるチャンスはなかなかありません。しかも真っ向からいっても、役として立っていられる気がしない方ばかりで」と、期待感が高まったことを明かす。

保護者会で謝罪を強いられる薮下

 だからこそ、薮下を演じるために自分の頭で考え、何かを提案する必要はなかったそうで、「共演者とつくるもの、現場でつくっていくものという感覚で。薮下という役は“どう見せたいか”ではなく、“どう見られているか”が重要でした。役づくりというより作品づくり、三池さんと一緒に作品と向き合う、ということでした」

「静」を貫く柴咲コウに「動」で対抗

薮下のいじめを訴える保護者を演じる柴咲コウ

 そんな薮下を訴える、教え子の保護者である氷室律子を演じたのは柴咲コウ。いわばこの“総当たり戦”の初戦にしてクライマックスを戦う相手でもある役を、圧倒的な“静”の演技で揺るぎなく表現していく。一言で言って、この映画の柴咲は震えるほど恐ろしい。その演技について綾野は、「人というのは、話しながら常に動いているもので。限りなく静止しながら話し続けるのは精神力が必要なんです」と、その揺るぎなさがもたらす恐怖、律子が醸し出す恐ろしさについて解き明かす。そして、柴咲と初共演となったこの“戦い”を、「その瞬間はとても近しい感覚、役同士にとって同族とでもいうような部分があるから“着火”したのだと思います。静かに呼吸が合っていくようでもあって、とても幸せな時間でした」と感慨深げに語る。

 その圧倒的な静を貫いた柴咲に対し、動の演技で対峙するにあたって綾野は「お芝居の間は美しい。同時に間こそが、お芝居とも言えます。ですが、今回はその間を恐れずに潰していきました」という。薮下は登場人物の視点によって全く異なる見られ方をする人物で、「ある行動をしたとき、正面から見る人への伝わり方は、右から見たときと左から見たとき、後ろから見たときとでは印象とは異なります。やたらと自分の体を触ったり、いろいろな“誤解”を散りばめることで、“薮下はこういう人物です”と一言で言えるものを捨て、見る人の目に映る薮下の面の数を増やそうとしました」とアプローチに触れる。

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写真:尾鷲陽介

 そうしたことを頭で構築することなく、共演者それぞれとの“総当たり戦”に全力で対峙し、相手の演技へ反応するように一つ一つ積み上げていった綾野。「(映画づくりは)チームで臨む労働ですから。そうしてできた映画が、観てくださる皆さんの人生の2時間程を少しでも彩ることができたら。だからこそ撮影という決められた時間の中で、出し惜しみせずにとことんやるのです」と、どこまでも真摯なのが彼らしい。

 それでいて、自身の演技のふり幅の大きさを指摘しても「それはセリフが違うだけです」とさらり。「セリフが持つもの、言葉の扱い方の違い、そこから感じられるムードは異なります。そのセリフが持つ“エンジン”が異なるので、その言葉を信じることです。声のトーンもさほど変えていません」と、演技について語る言葉にはどこまでも純な気合いを感じさせる。

ある意味、構造は『クローズ』と同じ

薮下を追い詰める記者の鳴海(亀梨和也)

 完成した映画を観て、「特に冒頭の15分は、こんなにワクワクして観られる映画だと思っていませんでした。(柴咲)コウさんの出力の強さもあって、どうなっていくんだ?」と、自身にとっても驚きの仕上がりだったよう。また、舞台や設定は違うものの「ある種の『クローズ~』と近く、この映画の構造はシンプルなのかもしれません。骨組みは下から上に上がっていく、戦いの話。前者は学生だけで他者が介入しませんが、今作は当事者だけでなく、マスコミなどの他者が介入します」と独自の解釈も明かす。

 さらに「ジャンルがハイブリッドされている」と、ここでも彼らしい感性で映画の魅力を語る。サスペンス、ホラーといくつものジャンルを思わせる側面があるといい、「ホラーやサスペンスでもあり、クライムフィクションのようでもある。ヒューマン、ホームドラマでもあり、それでいてベースドオントゥルーストーリー(実話に基づくストーリー)です。音楽も素晴らしくて、のせられてしまうんです。この映画のなかで生きている人たちはみんな本気であって、遊びがない。それを手練れの役者の皆さんが出し惜しみなく演じ、三池さんがその調和を保っていく。それは三池さんがこれまでいろいろなジャンルの作品に誠実に向き合われてきたからこそできる総合芸術。そうして完成した映画は、それぞれの生きざまをエンタメに昇華した、三池崇史監督の最新作にふさわしい作品になっています」と確かな自信をのぞかせた。(取材・文/浅見祥子)

ヘアメイク:石邑麻由/スタイリスト:佐々木悠介

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