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井上祐貴、松平定信役は「面倒くさい奴と思われたら本望」 2作目大河で比較にならないプレッシャー

第30回より井上祐貴演じる松平定信
第30回より井上祐貴演じる松平定信 - (C)NHK

 横浜流星主演の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほか)で、主人公・蔦屋重三郎(横浜)の前に立ちはだかる松平定信を演じる井上祐貴。少年時代を演じた寺田心からバトンタッチし、8月3日放送・第29回で初登場、10日放送・第30回から本格的な登場となる。2023年放送の「どうする家康」に続き2度目の大河ドラマ出演となる井上が、「面倒くさい性格」と評する定信役へのアプローチ方法や、渡辺謙演じる老中・田沼意次との緊迫の対峙シーン、俳優としての現在地まで、真摯な言葉を紡いだ。

【画像】松平定信(井上祐貴)が意次(渡辺謙)とバッチバチ!

「面倒くさい、でも分かる」松平定信に深い共感

 「どうする家康」では主人公・徳川家康(松本潤)の側近・本多正信(松山ケンイチ)の息子・本多正純役で鮮烈な印象を残した井上。大河2作目の「べらぼう」で挑むのは「寛政の改革」を断行した老中・松平定信。江戸の出版文化を弾圧し、横浜流星演じる蔦重の前に立ちはだかる存在だ。井上は定信を、開口一番「一言で言うと、面倒くさい人物」と屈託なく笑う。

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 「やりたいことや伝えたいことは分かるんです。でも、なぜそういう言い方をするのかと思うことが多い。歴史上、彼が失脚した理由の一つもそこにあったのかなと。ただ、演じる上で“なぜそうするのか”と考えると、彼の気持ちも分かる。こういう世の中にしたいから、この言い方をするんだなと理にかなっている。でもやり方が独特で、だから改革当初は支持されても長続きしなかったんでしょうね」

 収録現場でセリフを発し、共演者の反応を肌で感じて、その「面倒くささ」は確信に変わったという。モニターに映る共演者の困惑した表情を見ては、定信の不器用さを実感する日々だ。そんな定信のキャラ作りで、脚本の森下佳子ら制作陣と共有したイメージが「早口」だった。

 「定信が早口だったという史実はありません。でも、この作品の個性として僕の中ではしっくりきました。台本を読んでも“ここはバーッて言ってそうだな”と感じますし。ただ、言い慣れない言葉を早口で立て板に水のごとく話すのは本当に難しく、今も戦っています」

 その早口は定信の理屈っぽさの表れでもある。井上も「そのワードを使わなくても伝わるのに」と感じるが、それこそが定信らしさだと深く理解している。

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 「彼は黄表紙などの文学を心から愛する“オタク気質”の人。難しい言葉を選んでいるのではなく、体に染み込んでいるから自然と出てしまう。だから定信としてセリフに違和感はないんです。僕自身がそれを表現するのが難しいだけで(笑)」

 定信の複雑な内面を語る上で、渡辺謙演じる田沼意次への憎しみは欠かせない。幼少期、寺田心が演じた少年時代の定信が田沼から受けた仕打ちは、彼の心に深い影を落としている。

 「心くん時代の田沼とのシーンは何度も見直しました。あの時の感情を定信は生涯忘れなかっただろうし、そこを根本に持つと、今の定信をすごく演じやすい。定信の原動力の根底には、あの日の恨みつらみのようなものがあると確信しています」

「お前か」の一言で緊張が解けた、渡辺謙との対峙

 井上のクランクインは、いきなり田沼意次と対峙する重要シーンから始まった。大先輩・渡辺との初共演には並々ならぬ緊張があったと振り返る。

 「ご挨拶させていただいたのは収録時ではなく、かつら合わせの日でした。隣でメイク中の謙さんにご挨拶したら、“ん? お前か、松平定信は”と(笑)。その一言でガチガチだった心がほぐれました。ポップながらも田沼と定信の関係性を作ってくださり、楽しみな気持ちで現場に入れました」

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 とはいえ、収録現場の緊張感は凄まじかった。

 「目の前に謙さんらお歴々が並ぶ中で、真ん中に座ってバーッと喋るのは……思い出しただけで緊張しますね(笑)。対峙した田沼意次は、想像通りのとてつもない貫禄で、ギャップは全くなかったです」

 定信として「やっとここまで来た」「ここからどうしてやろうか」という思いが溢れるシーン。感情は作りやすかったが、一挙手一投足に神経をすり減らした。

 「毎シーン終わるたびに肩の荷が下り、次のシーンでまたグッと上がる、その繰り返しです。シーン以外では、謙さんがすごく気さくに話しかけてくださり、大河の経験談や、芝居についても“ここはもう少し立てて、強く”といったアドバイスをいただきました」

2作目の大河で見つけた新たな課題

 本作で定信は、蔦重たちの出版文化を脅かす「壁」として描かれる。視聴者から「ヒール役」と見られる可能性も高いが、井上自身はどう受け止めているのだろうか。

 「主人公の前に立ちはだかる壁という役割はあると思います。でも定信自身にそのつもりはない。根底には世の中を良くしたいという純粋な思いと信念がある。ただ、やり方や方向性がうまくいかないだけ。その信念で突き進むから周りが見えなくなり、結果的に蔦重に大きな影響を与えるのは自然な流れなのかなと」

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 その上で、視聴者からのリアクションには覚悟が決まっている。

 「“うわ、面倒くさいな、こいつ”と思われそうな脚本とセリフですし、それを僕が何倍にもして届けたい。オンエア後にSNSで“なんだよ、定信!”みたいな反応があれば嬉しいですね。それが僕の役目ですし、とてもやりがいを感じます」

 「どうする家康」を経て2度目の大河。前回の経験が活きるのは「所作」だと語る。

 「歩き方や座り方は体が覚えていますが、セリフの言い回しは全く違い苦戦しています。正直、俳優として成長を感じる瞬間はまだないです。むしろプレッシャーも役の重さも前回とは比較にならず、“もっと余裕が欲しい”“もっと引き出しが欲しい”と思うことばかり。悔しいですし、常に課題が見つかります」

 その謙虚な言葉は、井上が真摯に役と向き合う裏返しだ。自身が愛する黄表紙を自らの手で禁じなければならないシーンの収録は「しんどかった」と吐露する。

 「ただ“廃止だ”と断罪するのではなく、好きなものを手放す葛藤が、森下さんの脚本にはすごく丁寧に描かれています。その人間味の部分を大切に演じ、ただ堅物なだけでない、定信の文学への愛が伝われば嬉しいです」

 白河藩では名君と慕われた一方、幕府の改革失敗で支持を失うなど、定信は見る立場で評価が大きく変わる人物だ。井上はその多面性を深く理解し、全身全霊で役に命を吹き込んでいる。定信は、意次政権の商人を中心とした政策とは対照的に朱子学を重視し質素倹約を断行したが、井上は「僕は田沼派ですね」と笑っていた。(取材・文:磯部正和)

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