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「べらぼう」で「写楽=複数人説」を採用した理由 脚本・森下佳子が語る

第46回「曽我祭の変」より
第46回「曽我祭の変」より - (C)NHK

 浮世絵史において長年、正体不明の謎の存在とされてきた東洲斎写楽。放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほか)では、写楽の正体を「複数人説」としたストーリーが展開したが、そうした意図について脚本の森下佳子が語った(※ネタバレあり。第46回の詳細に触れています)。

【画像】写楽絵はこうして生まれた!第46回場面写真

 大河ドラマ第64作「べらぼう」は、江戸時代中期、貸本屋から身を興して書籍の編集・出版業を開始し、のちに江戸のメディア王として時代の寵児となった蔦屋重三郎(横浜流星)の物語。脚本を大河ドラマ「おんな城主 直虎」やドラマ「大奥」シリーズ(NHK)などの森下佳子、語りを綾瀬はるかが務める。

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 本作で写楽が登場したきっかけは、11代将軍・家斉(城桧吏)の父である一橋治済(生田斗真)に失脚させられた老中・松平定信(井上祐貴)が「諸悪の根源」である治済に天誅を下す決意をしたこと。定信は元大奥総取締・高岳(冨永愛)、火付盗賊改方・長谷川平蔵宣以(中村隼人)、意次の元側近・三浦庄司(原田泰造)らと手を組み、蔦重に接触。蔦重に下された使命は、かつて治済の陰謀によって謎の死を遂げた平賀源内(安田顕)があたかも生きているかのような噂を江戸に流すこと。そこで蔦重が思いついたのが源内が描いたのではないかと連想させる役者絵を開発し、歌舞伎の興行にあわせて売り出すことだった。

 放送が始まった間もないころから写楽がどのような経緯で登場し、描かれるのかが注目されてきたが、30日放送・第46回では北尾重政(橋本淳)、北尾政演(古川雄大)、勝川春朗(のちの葛飾北斎/くっきー!)、そして喜多川歌麿(染谷将太)らの合作であることが判明。「写楽」の名を考案したのは戯作者の朋誠堂喜三二(尾美としのり)や蔦重で、さらに松平定信が「東洲斎写楽」と命名した。

 森下いわく、複数人説を採用することは初期から決めていたとのこと。「美術史の世界では、写楽の正体が能楽師の斎藤十郎兵衛だったと決着がついていることは存じ上げた上でですが、写楽の絵を並べてみた時に、複数人説の方がしっくりくると思ったんです。短い期間にものすごい数を、しかも一気に出したとしたら、ものすごい短時間で準備しなきゃいけなくて、果たしてこれを1人でやったのかというのが疑問でした。それと2期からの写楽の絵は全身像になるんですが、1期で作った顔をコピペしたみたいに作っているんですよね。そういったところから“何人かで手分けをしたんじゃないか”という気がして。複数人説を取ること、その中心に歌麿を置こうかなというのはそもそも考えていたことです。今はあまり言われないですけど、昔は歌麿説もあったので」

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役者たちの稽古場で写生大会

 第46回では絵師たちが役者の稽古場に赴き、人気役者たちの絵を描く写生大会が展開。おのおのが描いた絵を集め、歌麿が目はこの人、顎はこの人、といったふうにパズルのように組み立てながら“写楽絵”を描き上げていった。

 「写楽って本当にどうだったんだろうって思うんですよね。舞台の幕が開いてから描く方式にすると、多分28枚(大判28枚の役者の大首絵)をそろえて出すことはできないし、パラパラとしか出していけない。公演期間に合わせるとなったらかなりの強行軍になるのでやはり稽古を見たと思うんですけど、見たとしたらなんで写楽だとバレなかったんだろうっていうのがまた謎で。なので、ああいうふうにつじつまを合わせさせていただきました」

 蔦重にとって生涯にわたってのパートナーとして描かれた喜多川歌麿をはじめ、本作には多くの絵師が登場したが、写楽はどのような役割として登場させたのか。森下は「蔦重たちの最後に打ち上げる祭りと言いましょうか、その象徴は写楽なんだろうなっていう風に解釈して書かせてもらっています」と語る。

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 「蔦重、歌麿、京伝(北尾政演)もそうなんですけど、それぞれがやっていた流れの行き着いた先が写楽なんだなと思っていて。どういうことかというと、例えば鈴木春信から始まった錦絵に関しては、描かれる女の人が本当にお人形みたいで、男も女もわからないところからどんどんいろんな絵師が出てきて画風が変わっていったんですよね。で、役者絵っていうのは、(本編では)もうお亡くなりになりましたけど、勝川春章(前野朋哉)がかなり似絵の方向に振っていたりしていて、その文脈の中で歌麿が写生をしたんじゃないかと。あの当時、写生はあまりしなかったそうなんです。例えば、花を描くときに本物の花を見て描いた人はほとんどいなくて、歌麿の『画本虫撰(えほんむしえらみ)』は当時としては珍しいことだった。かなり画期的なことではあって、そこから歌麿の美人絵は定型は持ちながらも実は細かく描き分けされていて、どんどんリアルに寄っているんですよね。一方で、京伝(北尾政演)も吉原の内幕を描いた洒落本『傾城買四十八手(けいせいかいしじゅうはって)』は、それまでの黄表紙や洒落本とは少し変わって、登場人物の描写や会話がリアリズム寄りになっている。そうした流れの先に、写楽があるんじゃないかなと」

 蔦重の思惑通り、絵師たちと開発した写楽絵は大いに話題となり、市中ではその正体を巡ってさまざまな憶測がなされ、平賀源内生存説も流布することとなったが、終盤では治済の反撃により思わぬ展開に。さらに、治済と瓜二つの男が登場する衝撃的な場面もあり、定信率いる幕府アベンジャーズVS治済の決着の行方に期待が高まる。(取材・文:編集部・石井百合子)

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