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井上祐貴「べらぼう」憎まれ役経て大河ドラマ主演に野心 「キャパシティ超える出来事がたくさん起きた」

井上祐貴演じる松平定信
井上祐貴演じる松平定信 - (C)NHK

 「世の中を良くしたい」という純粋な信念を持ちながら、市井の人々からは恨まれ、憎まれる役回り。大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほか)で松平定信という難役を、井上祐貴は繊細に演じている。一橋治済(生田斗真)ら得体の知れない“怪物”たちとの対峙、押しつぶされそうなプレッシャー、そして収録を終えた今だからこそ語れる俳優としての新たな野望について、静かながらも強い視線で思いを語った(※ネタバレあり。第47回までの詳細触れています)。

【画像】松平定信“聖地巡礼”へ

「正解」が見えない恐怖との戦い 一橋治済という“怪物”と対峙して

第47回より一橋治済(生田斗真)にいたぶられる定信

 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」は、江戸の出版文化を切り拓いた版元・蔦屋重三郎(横浜流星)を主人公に、田沼意次(渡辺謙)や松平定信らが織りなす政治的権力闘争と、その中で咲き乱れる文化人たちの群像劇を描く。脚本は大河ドラマ「おんな城主 直虎」やドラマ「JIN -仁-」「大奥」シリーズなどの森下佳子。江戸のエネルギーと現代的な視点が交錯する、痛快エンターテインメント大作だ。

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 以前の取材で井上は、松平定信というキャラクターは、真面目すぎるがゆえに融通が利かず、庶民の敵となる「ヒール」と語っており、嫌われることこそが自分の役割だと腹を括っていたという。しかし、画面に映る定信は、単なる悪役には収まらなかった。自身が断行した改革(寛政の改革)により、戯作者・恋川春町(岡山天音)の死に直面した際の、あからさまには出せない動揺。一橋治済に失脚させられた時の充血した瞳が語る無言の悲鳴。そうした微細な表現が、定信という人物に血肉を通わせた。

 「多面的な人物にしようというのは、常に意識していました。ただ、それは自分一人がというよりは、監督やプロデューサーの方々と話し合いながら作っていきました。どこまで感情を表に出すのか、あるいはどこまで内に秘めるのか。そういったバランスを非常に求められるキャラクターだと思っていたので、細心の注意を払って演じさせていただきました」

 その繊細な演技が極限まで試されたのが、定信の背後に潜むさらなる闇、一橋治済との対峙だ。生田斗真が演じる治済は、笑顔のまま人を陥れるような、底知れぬ恐怖を纏っていた。定信としての井上は、この掴みどころのない怪物に翻弄され続けることになる。

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 「本当に掴みどころがありませんでした。お芝居云々というより、治済が何を考えているのかが全く分からなくて。定信としては、自分の描いた筋書き通りに物事を進めたいという思いがきっとあるはずで“こう言えば、こう返ってくるだろう”という予測を立てて行動するのですが、治済は全くその型にはまってくれない」

 用意周到で計算高い定信にとって、予測不能な相手ほど恐ろしいものはない。対話が成立しているようでしていない、ぬるりとした違和感。現場で流れる空気そのものが、井上の精神を削っていった。「定信からすると非常に気持ちの悪い時間がずっと流れている感覚でした。日々演じていて疲れましたね。まさに耐えている感じ。ですが、そこがあの二人によるシーンの面白さなのだとも思います」

 一方で、主人公・蔦屋重三郎との対峙は、また違った種類の苛立ちを定信にもたらした。一橋が得体の知れない混沌だとすれば、蔦屋はあまりにも真っ直ぐすぎる正論の矢だ。「蔦重と対峙する芝居は、治済とは全く違いました。蔦重の場合は、言っていることがあまりにも全うすぎて、聞いていると鼻につく、というような感覚です」

 口では罵りながらも、心の奥底では蔦重の言葉の正しさを理解してしまっている自分がいる。その矛盾こそが定信の人間味であり、演じる面白さでもあった。

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 「第47回で蔦重が来た時も、“一生店を開けられないようにされたいのか”とか“本屋の相手をしている暇などない”といった言葉を口にはするものの、心のどこかで彼が何を言おうとしているのか分かってしまっている。そういう瞬間があるんです」

 さらに井上の記憶に強く刻まれているのが、物語前半の巨頭・田沼意次を演じた渡辺謙との共演だ。特に米の買い占めを巡るシーンでは、田沼意次、徳川治貞(高橋英樹)と対峙するなかで、物語の舵取りを担わなければならなかった。

 「あそこは…本当にどっと疲れましたね。自分が話の中心となって物語を動かすシーンだったので。お米の買い占めに関するくだりの場面なのでかなり前の収録になりますが、非常に印象に残っています」

横浜流星の背中を見て芽生えた覚悟「いつか大河の主演に」

第47回より蔦重(横浜流星)と雪解けの瞬間…

 井上にとって大河ドラマへの出演は、2023年放送の「どうする家康」で本多正純を演じて以来、二度目。しかし、出演シーンの長さも相まってその重みは過去の経験とは比べ物にならなかったという。台本が進むにつれ、定信の役割は当初の想像をはるかに超え、物語の根幹を揺るがす存在へと肥大化していった。

 「収録中、非常に多くのことを感じましたが、それを言葉にするのは難しいです。ただ、想像していた何倍も素敵な役をいただけたと感じています。同時に、自分自身が試されているとも感じていました。何度も自分を見つめ直す機会がありましたし、自分のキャパシティを超えるような出来事がたくさん起こりました」

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 己の限界に挑み、それを突破し続けた日々。収録を終えた今も、「まだインプットできることがあるのではないか」と気が抜けない状態だというが、その表情には確かな自信がみなぎっている。主演・横浜流星の背中を間近で見続けたことで、井上の胸には新たな、そして大きな野望が芽生えた。

 「いつか大河ドラマの主演をやりたいですね。今すぐということではなく、今回こうして同い年の主演の方の姿を間近で見て、肌で感じたからこそ、そこに立つことにはとてつもないやりがいがあるだろうなと思いました」

 かつては雲の上の目標だった場所が、今は明確な「目指すべき場所」へと変わった。松平定信という難役を生き抜いた経験は、井上祐貴を俳優として次のステージへと押し上げたに違いない。「その場所にふさわしい俳優になれるよう、日々精進していきたいと、改めて思いました」。そう語る井上の眼差しは、激動の時代を見据えた定信のように、強く、真っ直ぐに未来を見つめていた。(取材・文:磯部正和)

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