「べらぼう」写楽のミステリーに仇討ちを融合!大胆アレンジのワケ、脚本・森下佳子が語る

日本の歴史において長年謎とされてきた絵師・東洲斎写楽。大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほか)では、その正体について「複数人説」を採用し、目的が松平定信(井上祐貴)ら江戸城の面々による仇討ちという大胆な展開を繰り広げた。その経緯、意図について脚本の森下佳子が語った(※ネタバレあり。第47回の詳細に触れています)。
大河ドラマ第64作「べらぼう」は、江戸時代中期、貸本屋から身を興して書籍の編集・出版業を開始し、のちに江戸のメディア王として時代の寵児となった蔦屋重三郎(横浜流星)の物語。最終回(48回)直前、クライマックスの蔦重による最後の打ち上げ花火、として描かれたのが写楽を巡るエピソードだ。
事の発端は、一橋治済(生田斗真)に失脚させられた松平定信が「諸悪の根源」である治済に天誅を下す決意をしたこと。定信は、元大奥総取締・高岳(冨永愛)、火付盗賊改方・長谷川平蔵宣以(中村隼人)、意次の元側近・三浦庄司(原田泰造)、儒学者の柴野栗山(嶋田久作)ら治済に恨みを持つ者たちと手を組み、蔦重に接触。この計画でキーパーソンとなったのが、かつて治済の陰謀によって亡き者にされた平賀源内(安田顕)だった。定信から、源内が生き伸びているかのような噂を流してほしいとの命を受けた蔦重は、源内が描いたものと連想させる役者絵を開発し、歌舞伎の興行にあわせて売り出すことを思いつく。喜多川歌麿(染谷将太)をはじめとする絵師たちが合作により「写楽」の名で役者絵を完成させ、蔦重の思惑通り市中には写楽=源内説が流布。一方、定信は治済と瓜二つの能役者で阿波蜂須賀家抱えの斎藤十郎兵衛(生田斗真の一人二役)を治済の替え玉とすべく画策する。
森下いわく、写楽の話に定信のかたき討ちを取り入れたのは当初は予定していなかったとのこと。
「写楽に関しては初めは違う出口を考えていて、途中で方向性を変えた経緯があります。初めは仇討ちを具体的な形で描こうとは考えていなかったんです。初めに考えていた出口っていうのは、蔦重が写楽という謎を仕掛けることでした。斎藤十郎兵衛という名前が出るまで、全部折り込み済みの謎ゲーを残したみたいなイメージ。結局写楽が誰かというのは今は一応(斎藤十郎兵衛のかたちで)決着していますけど、後年みなが正体を巡って走り回らされたわけじゃないですか。このこと自体が蔦重の思惑だとしたら、時を超えたすごい仕掛けだなと思って、初めはそういう風な出口を考えていました。治済に対する仇討ちは今生では下せないけれど、それは歴史が下すだろうと」
一度はそう考えながら、芽生えたある思いから変更するに至ったと森下は話す。
「要は権力を持って隠れて好き放題やっていた卑怯者(治済)に誰も感銘は受けないだろうけど、例えば平賀源内だったら非業の死を遂げてものちに(香川に)「源内通り」ができたりする。そういう風に、懸命に生きた人たちの跡形は残るのだから、それは復讐と言えるのではないかと考えていました。でも、これってものすごく観念的だなと思って。果たしてこれで(視聴者の方々は)スッキリするんだろうか、スッキリしないんじゃないか、スッキリする方法はないのかな……と考えているうちに出てきたのが現在の形です。写楽や絵に関しては当初のプラン通りなんですけど、定信のかたき討ちと合わせることにしたのは途中で思いついたことです」
第46回では、写楽が定信の計略の一つであることを見抜いた治済が反撃に出て、その結果、定信の多くの家臣が命を落とし、その危険は蔦重の身や奉公人にも及ぶこととなった。しかし、ここでめげないのが蔦重。治済の悪行を止めることができるのはその息子で11代将軍である家斉(城桧吏)と考えた蔦重は、定信に治済を葬る奇策を提案し、その結果、治済は阿波へと送られた。治済は劇中、自ら手を下さずして人を意のままに操り命を奪う傀儡(くぐつ)師のような人物として描かれてきたが、治済をいわゆる“ラスボス”としたこと、キャラクターに込めた思いを森下はこう語る。
「当初からの設計ではあったんですけど、祟られたらどうしようって……。この人がずっとこの地位に居続けたのは確かなのですが、(治済の悪行の数々に対する)確かな証拠は1つもないので“そんなことしてないよ!”って。ニュースなどを見ていると結局、表に出てこないけど采配している者が1番偉いだなということが見えるじゃないですか。きっと治済もそういう人だったんだろうなという思いもありつつ、例えばイーロン・マスクとか成功者でパワフルで権力を手にしたいと思っている人って往々にしてめっちゃ子供を作りたがるものなんだなと。それは昔からのことで藤原氏の時代から子だくさんは勢力の象徴だったと思いますし、今は廃れたように見えるけど、その発想はまだまだ生きていますよ、という気分はあったでしょうか」
写楽の正体は複数人だったことに加え、かつて蔦重ら本屋や絵師、戯作者たちを苦しめた松平定信が、蔦重と共闘関係に転じるまさかの展開。史実に大胆なフィクションを交えたミステリー仕立てのストーリーで視聴者を魅了した。(編集部・石井百合子)


