来日のジョシュア・オッペンハイマー監督、『アクト・オブ・キリング』と新作ミュージカルの共通点は「嘘」

来日中のジョシュア・オッペンハイマー監督が13日、都内で行われた映画『THE END(ジ・エンド)』(公開中)公開記念舞台あいさつに登壇し、初の長編フィクション作品をミュージカルとした理由など、制作の舞台裏を振り返った。
1960年代にインドネシアで起きた大量虐殺を加害者の視点から描いた『アクト・オブ・キリング』(2012)と、同事件を被害者の視点から描いた『ルック・オブ・サイレンス』(2014)で米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたオッペンハイマー監督。新作の『THE END(ジ・エンド)』は初の長編フィクション作品で、環境破壊により地上での居住が不可能となってから25年後の世界を舞台にしたミュージカル。地下シェルターで生活する富裕層の一家の日常が、外界から来た一人の少女の出現によって一変していく。一家の母をティルダ・スウィントン、父をマイケル・シャノン、息子をジョージ・マッケイが、少女をモーゼス・イングラムが演じている。
オッペンハイマー監督は新作をミュージカルとした理由について、「『アクト・オブ・キリング』も僕にとってはミュージカルのようなもの」とそれが決して意外なことではないと説明した。
1960年代のインドネシアで密かに行われた100万人規模の大虐殺にスポットを当てた『アクト・オブ・キリング』と本作を比較しつつ、オッペンハイマー監督は「ある意味、ミュージカルは自己欺瞞の象徴。歌を通して嘘をつくという意味で今回ミュージカルという形にした」と振り返る。そして「『アクト・オブ・キリング』の時も、自分たちの周囲が崩壊している中、自己欺瞞的に彼ら(虐殺の加害者)は『私たちは素晴らしい』と言い始め、自分たちのやったことを嘘でかためようとしていた。それがすごく(今回の作品と)共通点がある」と話す。
地下シェルターを題材にした背景には、石油王の持つ地下シェルターに案内されたオッペンハイマー監督自身の経験が生かされている。「この作品を考えている時に、石油王と会って、彼の作った地下シェルターに案内されたんです。彼は暴力を使って石油の採掘をした人。彼の妻の妹が赤ちゃんが生まれたばかりで、赤ちゃんが生まれたことを喜んでいて、彼の妻はシェルターを見ている間も、妻が赤ちゃんがここに住めるのではという話をその妹と電話で話していた」と回顧。
オッペンハイマー監督は「『妹とお子さんをここに連れてくるんですか』と聞いたら『わからない』って。愛する家族を残して壊滅的な状況から逃れるという、そういう罪悪感、後悔はどんなものだろうという疑問がその時に湧き上がってきた」と本作の構想が生まれた経緯を話す。
石油王という特殊な環境、立場の主人公ではなく、誰にでも共感できるような普遍的な家族を描きたかったとも述べ、「普遍的な家族にしたかったので、登場人物に名前を与えなかった」と登場人物に名前を持たせず、“マザー”、“息子”など抽象化された役名を登場人物に与えたという。「どこかの家族を描くという形でなく、(見る人にとって)自分たちの家族の物語という形にしたかった」と話していた。(取材・文:名鹿祥史)


