松たか子、朝ドラ初出演は巡り合わせ 「ブラッサム」で向き合う“主人公を支える秘書”という生き方

数々の映画やドラマで圧倒的な存在感を放ってきた俳優・松たか子が、28日に初回を迎えた連続テレビ小説「ブラッサム」(NHK総合・月~土、午前8時~ほか)で、朝ドラ初出演を果たした。主人公の人生に寄り添う秘書という役回りで撮影に臨んだ松は、朝ドラの現場をどの様に感じたのだろうかーー。また主演の石橋静河とは過去に共演歴があるが、松が発したのは「とにかく邪魔をしないように」という言葉。さまざまな思いを抱きクランクインした松が、共演者への深い愛情とリスペクト、そして自身の役柄に向き合う真摯な思いを語った。
思いがけず訪れた縁と、撮影現場での驚き
作家・随筆家の宇野千代をモデルとした「ブラッサム」は、奔放に生き、多くの人々を魅了した主人公・葉野珠(はの・たま/石橋)の波乱万丈な人生を描くオリジナルストーリー。松が演じるのは、晩年の珠を支える秘書・藤川優子(ふじかわ・ゆうこ)。珠の美意識や喜びに共鳴し、その輝かしい時間を共にする重要な役どころだ。
日本の映像業界の第一線で活躍し続けてきた松にとって、意外にも今回が初めての朝ドラの現場となる。オファーを受けた時の心境を尋ねると、松はやや自虐的な表現を交えて周囲を笑いに包み込む。
「私が朝の爽やかな時間に似つかわしくないんだろうなって(笑)。こればっかりはいろいろタイミングと言いますか、巡り合わせだったなという感じもします。なかなか出演できるものではもちろんないわけで、かといって頑なになる理由もないので、今回このような機会をいただけてびっくりしました」
足を踏み入れたスタジオで彼女を待ち受けていたのは、想像をはるかに超える人々の熱気だった。長期間にわたって1人の人物の人生を紡ぎ出す現場の規模感に、ただただ圧倒されたと目を丸くする。
「最初、NHK大阪放送局に皆さんが集まった時に、ものすごい数のスタッフの方がリハーサル室に集まっていらして。私の想像をはるかに超える規模感だ……と驚きました。しかも皆さんの気合を感じるし、熱気もすごい。もうそれだけで(主演を務める)静河ちゃんを尊敬しちゃいますよね。私は呼ばれたら大阪に行くっていう、そのぐらいの謙虚な気持ちでいます」
主人公の晴れ舞台をそっと見守る
若き日の珠を演じる石橋とは、新作映画『ナギダイアリー』(9月25日公開)でも共演したばかりだ。才能あふれる後輩の大舞台に華を添える形となったが、当初はあえて身を引こうとするほどの葛藤を抱えていたという。そこには、役者としての純粋な親心にも似た真意が隠されている。
「彼女が損することはしたくないと思って。でも、これはやはり巡り合わせなんだなと思って。彼女は今、いろいろな波に向かって進んでいると思うし、まだまだこれからも大変な役柄としての人生が待っているわけです。会った時に目を見ることくらいしか私にはできないんですけど」
撮影現場で重責を背負いながらカメラの前に立つ石橋を、手放しで信頼し、心からエールを送る。石橋が内面に秘めている豊かな人間性を、まるで自分のことのように嬉しそうに明かした。
「静河ちゃんはしっかりしているし、自分の言葉を一生懸命探して喋る人。緊張もちゃんとする人。だけど本当ははじけたい人というか、キャッキャしているのが好きな、場を与えればどこまででも走って駆けていくような人なので、そういうのびのびしたところのあるのが魅力なのかなと思います」
敬愛する大先輩・加賀まりことの絆
物語の中で直接言葉を交わすのは、1980年代の珠を演じる加賀まりこだ。舞台での共演から実に20年以上の歳月が流れたが、久々に芝居を交える大先輩は、歳月を感じさせないほど鋭敏な感覚を持ち続けていた。圧倒的な存在感を前に、表現者としての深い尊敬の念が言葉の端々から滲み出る。
「率直にものを申すところ、そしてチャーミングなところなどは変わらないです。相変わらずアンテナが常に動いていて、正直に話さないといけない存在です。うまいこと言っても見透かされてしまいそうな感じがします。大先輩ではあるのですが、すごく勉強熱心な方で、見習いたいところがたくさんある方です」
憧れを分かち合う「秘書」という生き方
藤川優子という女性は、単なる裏方ではない。奔放に生きる珠の傍らで、彼女の目に映る世界を共に味わうという特異な立ち位置だ。自分なりの役柄への解釈を、一つひとつ丁寧に紐解いていく。
「珠さんという人を見つめることで、自分が成し得なかったことや、自分が見たことのない風景、そしてキラキラした時間を共有させてもらっている。ただ秘書として尽くすというよりは、一緒にそこに居させてもらっている喜びを感じながらそばにいる人。自分が犠牲になっているというより、自分も一緒に夢を見ているような女性かなと思っています」
偉大な人物を支える秘書と聞けば、自己を抑圧して献身する姿を想像しがちだ。しかし、そこに描かれるのはもっと軽やかで、純粋にその場所での日々を楽しむ女性の姿だという。
「『好きなんです、ここにいるのが』っていう感じでいるような秘書になればいいのかなと。遠慮しているというふうに見えたり、珠さん自身にそう思われないような、楽しくその場にいる感じになるといいのかなと思って演じています」
松は、主人公の奔放な人生を描く本作を「チャレンジングな朝ドラ」と表現した。だからこそ松は「きれいにしないで、いろんな生き方を描いてほしい」と作品に期待を寄せる。その言葉からは、長年第一線を走り続けてきた松ならではの深い作品理解と、共演者たちへの限りない愛情が垣間見えた。華やかな珠の人生の傍らで、共に感動を分かち合う優子。松たか子が息を吹き込むその温かな眼差しは、きっと視聴者の心にも静かに寄り添ってくれるはずだ。(取材・文:磯部正和)



