『ファーストボイス』女性vs男性ではなく「ハラスメント裁判」を描いた理由

綾瀬はるかが主演を務める映画『ファーストボイス』(10月2日全国公開)より、社会の“常識”に立ち向かう登場人物たちの多様な視点と葛藤を描いたアプローチが明らかになった。
日本で初めて「ハラスメント」が事件となった裁判の実話に着想を得た物語(フィクション)である本作は、バブル絶頂期の1989年を舞台に、職場で理不尽な嫌がらせを受けて仕事を奪われた上原恵(ファーストサマーウイカ)と、前例のないハラスメント裁判に挑む弁護士・朝日道子(綾瀬)たちの闘いを描く。
本作の重要なアプローチとなっているのが、「女性対男性」という単純な対立構造に終始していない点だ。恵がかつて勤めていた出版社の後輩・吉井隆(鈴鹿央士)は、恵のよき理解者であり、不条理な状況に対して素直に“おかしい”と感じて寄り添う存在として描かれる。当時も吉井のように、恵を取り巻く不条理な状況に対して素直に“おかしい”と感じていた男性が存在したはずであり、前田哲監督も鈴鹿の佇まいを「令和の笠智衆」と評し、彼の誠実な演技が作品に確かなリアリティを与えている。
さらに、裁判に向かう人々も一概に「一致団結」として描かれておらず、立場や考え方の違いによる葛藤や意見の交錯が丁寧に紡がれる。前田監督は「みんなが一致団結して同じ方向へ進んでいくほうがむしろ恐ろしく感じられます。だから映画を作るうえでも、『いろいろな考え方がある』ということを意識して描くようにしています」と語っており、単なる勧善懲悪や性別間対立ではない、濃密な人間ドラマとして多角的な問いを投げかけている。(今井優)



