その年の最低のハリウッド映画を決定するラジー賞、ことゴールデンラズベリー賞は、1980年に映画マニアのジョン・ウィルソンが発足させたもので、アカデミー賞授賞式の前日に発表される(第32回は例外としてエイプリルフールに発表された)。映画業界人たちで組織された映画芸術科学アカデミーの会員による投票で決定されるアカデミー賞と異なり、本賞は一般人でもメンバーになれば「誰でも」「気軽に」参加が可能であるところがポイント。メンバーになるには40ドル(約4,000円)が必要(持続するには毎年25ドル(約2,500円)の更新料が必要)で、ハリウッドで行われる授賞式への参加権も得られる特典付きだ。(1ドル100円換算)
設けられている部門は、「最低作品賞」「最低監督賞」「最低主演男優賞」「最低主演女優賞」「最低助演男優賞」「最低助演女優賞」といった主要部門に加え、近年は「最低リメイク・盗作・続編賞」「最低スクリーン・カップル賞」も定番化している。また、回によっては「この10年ワースト作品賞」第10回『愛と憎しみの伝説』、「100億ドル以上の興業収入を上げた作品での最低脚本賞」第17回『ツイスター』、「最低非人道・公共破壊貢献賞」第18回『コン・エアー』、「今世紀最低男優(女優)賞」第20回男優賞:シルヴェスター・スタローン彼が出演した作品99.5%に対して、女優賞:マドンナ『上海サプライズ』『フーズ・ザット・ガール』『BODY/ボディ』その他といったオリジナル枠が設けられているのもユニークだ。「最低3D作品賞」第31回『エアベンダー』、「最低前編・リメイク・スピンオフ・続編賞」第29回『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』といった、その年のハリウッドのトレンドを表す賞もあって、ふざけているように見えてなかなか侮れない。
トロフィーは金色に塗装した8ミリフィルム缶の上にラズベリーの実を模したオブジェが置かれたもので、制作費は約5ドル(約500円)といわれている。ちなみに、ラジー賞の公式サイトにはご丁寧にトロフィー制作のメイキング動画がアップされている。 |
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過去のノミネート数は、男優ではダントツの首位がシルヴェスター・スタローン。次に、アダム・サンドラー、エディ・マーフィと2人のコメディアンが続く。スタローンは、『ロッキー』シリーズや『ランボー』シリーズなど主演作がことごとくノミネートされており、主演男優賞、助演男優賞のほか監督、脚本賞などマルチで受賞を果たしている。サンドラーは第32回から第34回にかけて3年連続のノミネート、そのうち2011年に双子の兄妹を演じた『ジャックとジル』では主演男優&女優賞をW受賞したことも! マーフィは2007年に主人公とその妻、義父の1人3役を演じた『マット・ファット・ワイフ』で主演男優、助演男優、助演女優賞のトリプル受賞。
ノミネート&受賞回数共に最多のマドンナを筆頭に、2位のシャロン・ストーン、デミ・ムーアと共に女優枠はいずれも、脱ぎっぷりのいいセクシー系。マドンナは、当時の夫だったガイ・リッチーが監督を務めた『スウェプト・アウェイ』でヒロインを演じて「愛の結晶的力作」を作り上げるも、Rotten Tomatoesの評価(アメリカの大手映画批評サイト)の評価は批評家が5%、ユーザーが27%というさんざんな結果に終わり、「バカップル」の駄作として語り継がれている。2位のシャロン・ストーンは日本での認知度が一気にアップした『氷の微笑』で最低新人賞にノミネート、14年後に製作された続編『氷の微笑2』で主演女優賞を手にした。デミ・ムーアはストリッパーを演じて話題になった『素顔のままで』で最低主演女優&スクリーン・カップル賞に、丸刈りで海軍特殊部隊の特訓に挑む女性将校を熱演した『G.I.ジェーン』で2年連続の主演女優賞を受賞。
と、ラジー賞常連の男優&女優の受賞作を振り返ってみると、アクション、コメディー、官能作など、いわゆる知的なイメージから離れた役柄が多い。『マット・ファット・ワイフ』のように特殊メイクを施した女装やおデブへの変身、濡れ場などの過剰な「体当たり感」、ヒット作の続編でよく見られる「旬を過ぎた感」がポイントになっている。駄作といわれようが、上位にランクインしているスターたちはいずれも第一線で活躍し続けている顔ぶればかりで、そういった「いじりたくなる」ような突っ込みどころも愛嬌(あいきょう)であり、魅力でもある。
<ラジー賞ノミネートBEST5:男優編> |
1位 |
シルヴェスター・スタローン ノミネート39回/受賞16回 |
2位 |
アダム・サンドラー ノミネート21回/受賞7回 |
3位 |
エディ・マーフィ ノミネート16回/受賞5回 |
4位 |
ケヴィン・コスナー ノミネート12回/受賞4回 |
4位 |
ジョン・トラヴォルタ ノミネート12回/受賞2回 |
<ラジー賞ノミネートBEST5:女優編> |
1位 |
マドンナ ノミネート18回/受賞9回 |
2位 |
シャロン・ストーン ノミネート13回/受賞2回 |
3位 |
デミ・ムーア ノミネート10回/受賞5回 |
4位 |
ボー・デレク ノミネート8回/受賞5回 |
4位 |
リンジー・ローハン ノミネート8回/受賞3回 |
4位 |
メラニー・グリフィス ノミネート8回/受賞3回 |
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一般的には「不名誉な賞」とされているため、受賞してもトロフィーを受け取りに授賞式に出席するスターはほぼ見られないが、第16回には、最低作品賞、監督賞ほか計6部門に輝いた官能ドラマ『ショーガール』のポール・ヴァーホーヴェンが駆け付けたほか、第25回には『キャットウーマン』で最低女優賞を受賞したハル・ベリーが来場。ジョークとして、『チョコレート』でアカデミー賞主演女優賞を受賞したときのスピーチをセルフパロディー化し、「オー、マイ・ゴッド!」とウソ泣きまでして場内から拍手喝采が巻き起こった。「このクソ映画にわたしをキャスティングしてくれたワーナー・ブラザースに心から感謝します。よくもトップ女優の座から突き落としてくれたわね」と爆弾発言を飛ばしつつも、「母から“良き勝利者になるには、良き敗北者にならなければいけない”と教えられた」と名言を残したのはさすが。
また、サンドラ・ブロックは『しあわせの隠れ場所』のアカデミー賞主演女優賞と共に、『ウルトラI LOVE YOU!』で最低女優賞をW受賞し、授賞式に駆け付けた。その際、大量のDVDを積んだカートを手に現れ、「わたしの演技が本当に最低だったかどうか、来場者に改めて確かめてもらいたい」とちゃっかり宣伝して帰ったところが、いかにも聡明な彼女らしい。こんなふうにまさかの顔ぶれが登壇することもあるため、どのスターが出席するのかも楽しみの一つだ。
第34回の最多ノミネートとなったアダム・サンドラー主演の『アダルトボーイズ遊遊白書』(日本未公開)のほか、『アフター・アース』で親子でのノミネートとなったウィル・スミス&ジェイデン・スミス、『ローン・レンジャー』で初ノミネートとなったジョニー・デップなど、今年も強豪ぞろいのラジー賞。3月1日(現地時間)に発表される受賞結果に乞うご期待!
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『キャットウーマン』で最低主演女優賞を受賞したハル・ベリー
WB/Photofest / ゲッティ イメージズ
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ブラッドリー・クーパーと共演した『ウルトラI LOVE YOU!』で最低主演女優賞を受賞したサンドラ・ブロック
20th Century-Fox/ Photofest / ゲッティ イメージズ
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構成・文:シネマトゥデイ編集部 石井百合子 |