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小泉なつみ×きくちあつこ「ファッションと映画 ‐映画はオシャレが9割!‐」(4/4)

【Theme of #4:クラシカルにぞっこん】

クラシカルにぞっこん
illustration by:きくちあつこ / oookickooo

クラシカルにぞっこん

 夏の終わりを感じる今。毎年この時期に心が浮き立つのは、KIRINのビール「秋味」の到来と、トレンチコートの出番がやって来るから!

 2年前、清水の舞台から飛び降りる気持ちでアクアスキュータムのトレンチを買いました。ずっと欲しかった、憧れの一着。自分にとってはそれがトレンチコートだったのであります。中はヨレヨレのTシャツとジーパンでもいいし、結婚式のお呼ばれにだって行ける。これさえあれば。ああ、迷うことがないって楽。

 セントジェームスのボーダーやジョン スメドレーのニット、バーバリーのコート……etc、クラシックな名品たちは正直、高い。しかもこれらはスタンダードなアイテムだから、安く済ませようと思えばいくらでも別のブランドで手に入る。でも悲しいかな、駅チカで買ったボーダーのロンTは3回着れば首元ダルダル、化繊のニットはワンシーズンで毛玉まみれ。こうして安物買いのなんとやらを身をもって知るわけです。クラシックアイテム、いと強し。

 そんなこんなで今回は、クラシカルなファッションが堪能できる、これからの季節にぴったりな3作を。1本目は、オシャレっ子たちの心をわしづかみにした『キャロル』であります。

キャロル』(2015年製作)

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監督:トッド・ヘインズ
出演:ケイト・ブランシェットルーニー・マーラサラ・ポールソンほか

 50年代のニューヨークで運命の出会いを果たしたテレーズとキャロル。女性同士の恋愛が理解されない時代を背景に、二人の恋物語がスリリングに展開します。そこで富裕なマダム・キャロルがまとっているのが、素晴らしいミンクの毛皮。

 値段的に手が出ないということもあるけれど、毛皮のコートを自分のものとして着こなすには、間違いなく“年輪”が必要。それはシワとかシミといった老化というよりも、顔や体型から現れる凄み、渋み、エグみとでも言いますか。キャロルを体現したケイト・ブランシェットは、一糸乱れぬブロンドの巻き髪と完璧にライン取りをした真紅の口紅、そして骨ばった体などで見事に毛皮を制していました。

 百戦錬磨といった雰囲気のキャロルとは対照的に、ルーニー・マーラ演じるテレーズはまだ本当の恋すら知らない女の子。そんな初々しい役どころにぴったりのボンボン付きキャップとぱっつん前髪は目がハートになるかわいさで、キャロルの寵愛(ちょうあい)を受けるのも納得であります。

 そして本作はファッションのみならず、ラブシーンもイケてます。ケイト・ブランシェットが大きな手でルーニー・マーラの頭ごとぐわしと抱え込んでキスするあたり、思わずじゅんッとなったことを告白します。

 そんな『キャロル』の監督と衣装デザイナーが、同じく50年代を舞台に撮り上げたクラシカルな一品が『エデンより彼方に』

エデンより彼方に』(2002年製作)

ジュリアン・ムーア
ジュリアン・ムーア - Michael Tran / Getty Images

監督:トッド・ヘインズ
出演:ジュリアン・ムーアデニス・クエイドデニス・ヘイスバートほか

 郊外に住む主婦たちがまとう生地をたっぷりと使った原色ドレスが美しく、燃えるような紅葉と相まって絵画のような美しさ。そろえになったドレスと手袋、帽子に大ぶりのパールというスタイルには、古き良き“淑女ファッション”を感じるはず。

 ちなみに『エデンより彼方に』は、黒人×白人という人種問題が主人公の障害になっています。『キャロル』と同年代を描きながらも、保守的かつ閉鎖的な郊外ゆえに渦巻く偏見が、ビビッドな絵面と対比されて恐ろしくもあります。

 そして最後は、ブレイク・ライヴリー主演の『アデライン、100年目の恋』

アデライン、100年目の恋』(2015年製作)

監督:リー・トランド・クリーガー
出演:ブレイク・ライヴリーミキール・ハースマンキャシー・ベイカーほか

 とある事故で不老不死の体になってしまったヒロインが、永遠の29歳として100年以上生きている……というなかなかにトんだ設定の本作。しかし1世紀超の間生き続けただけあって、そのお洋服審美眼に狂いなし。クラシカルな一流品を今風メイク&ヘアで見事にアップデートした現代描写をはじめ、めくるめくファッション絵巻が楽しめるのであります。あと、「白髪が生えて喜ぶ女子」というのを本作で初めて目にしました。

 秋冬のクラシカルなお洋服が堪能できる3作品ですが、実は「自分らしく生きる」ことが共通するテーマでもあります。

 同性愛や人種に対する偏見に翻弄(ほんろう)されるカップル、そして不老不死の身を隠しながら生きるヒロイン。彼女たちは上質な生地を鎧(よろい)として、己の心を偽らざるを得なかったのかもしれません。女性らしいクラシカルなお洋服の数々は、「自分らしさ」を自由に表現できる今だからこそ、カジュアルに礼賛できるのかなと思いました。

 さらにどの作品にも恋の始まりの瞬間が刻み付けられているので、そちらも必見であります!

Fasion Movie #4『キャロル』
illustration by:きくちあつこ / oookickooo
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プロフィール

小泉なつみ Natsumi Koizumi
http://natsumikoizumi.com/
ライター/編集者。「日経ウーマンオンライン」などで執筆。恋愛、結婚、セックス、ファッション……etc、切実でいてすぐ忘れるような女子ネタ全般が好き。

きくちあつこ Atsuko Kikuchi
https://www.instagram.com/oookickooo/
京都在住illustrator。 著書「FASHION SKETCH BOOK」「TODAY'S DIARY BOOK」が宝島社より発売中。Instagram&Twitter ともにアカウントはoookickoooです。

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