なぜ人々は消えたのか?カルト集団を巡るミステリー「LEFTOVERS」シーズン1評

厳選!ハマる海外ドラマ

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LEFTOVERS

 アメリカでは2016年~2017年シーズン(6月1日~翌年5月31日)が幕を閉じると、7月のエミー賞候補の発表前後にメジャー誌やジャーナリスト、批評家たちが各々のベストを発表する。往々にして、個人の好みを色濃く反映するベスト10と、業界最高の権威であるエミー賞(授賞式は9月)の候補となる作品には開きがある。まあ、映画のオスカーと同じようなもので、何でこれが入っていないの? 的な疑問は、メジャーな賞には付きまとうもの。映画界の大物とイギリス勢は贔屓目で、既に秀作とお墨付きの常連シリーズは脱落しにくいという傾向は基本変わらない。

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ストーリーは、「あの日」のことを人々に思い出させようとする白装束のカルト集団レムナントを軸に展開

 結構な割合で昨シーズンのベスト10に上がっていながら、エミーではスルーされた作品の筆頭がカルト作「LEFTOVERS/残された世界」の最終となるシーズン3だ(アン・ダウドのゲスト女優賞のみノミネート)。映画『リトル・チルドレン』(2006)、『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』(1999・日本未公開)の作家でプロデューサーとしても活躍するトム・ペロッタの同名小説を、原作者本人と「LOST」(2004~2010)のデイモン・リンデロフがタッグを組んだミステリー・ドラマ。世界中で全人口の2%に当たる人々が、瞬時にして姿を消してしまうという事件から3年後の世界で、残された人々の苦悩や葛藤、奇怪な現象などを描き出す。2014年にシーズン1(全10話)、2015年にシーズン2(全10話)、2017年にシーズン3(全8話)が米HBOで放送され完結した。当初、継続は困難とみられたが、熱狂的なファンの支持で全3シーズンの放送が可能となった。作品の評価は尻上がりで、最終シーズンはトップクラスの高評価を確立している(TCA賞=アメリカのTV批評家協会賞では最優秀テレビ番組賞(プログラム・オブ・ザ・イヤー)の6本に選ばれている)。

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警察署長ケヴィン役は「アイアンマン2」(2010)などの脚本家としても活躍する俳優ジャスティン・セロー

 アメリカ東部のある町を舞台にしたシーズン1は、警察署長ケヴィン・カーヴィの一家と、二人の子供と夫が消えてしまったノラ・ダースト、その兄で牧師マット、不穏な動きを見せる白装束のカルト集団レムナントを軸に物語は進む。といっても、初回から人物の説明や背景の説明がなく、いきなり視聴者を突き放すハイブロウな作りは、いかにもHBO作品らしいなあと思うが、正直初回はあまり引かれなかった。「LOST」的な謎が謎を呼ぶテイストにデジャヴ感もあり、熱心なファンの声を聞かなければ見逃した作品だ。ちなみに、パイロット(初回)ほかのエピソード監督はピーター・バーグが手がけているが、シリーズ全体としてはミミ・レダーが要所要所で重量感のある良い仕事をしている。

 登場人物の背景は徐々に明かされていくのだが、ケヴィンの妻ローリーは言葉を発しないレムナントに入団しており、ティーンエイジャーの娘ジルは悲しみを怒りで覆い、連れ子の長男トムは行方不明状態。世界が終わったわけではないけれど、3年前の10月14日を境に世界は決定的に変わってしまったのだ。なぜ突然人々が消えたのか、何が起きているのか、パズルのように空白の部分を埋めながら、謎解きの要素を重視したミステリーとして次回が気になる作り。しかし、本作がカルト人気作である理由は、タイトルにあるように残された人々が、いかにして喪失感と向き合うのかを問う点にあると思う。なぜ愛する人は消え、自分は残されたのか? この理不尽な喪失感は、9.11の同時多発テロや東日本大震災などはもちろん、個人的な体験と重ね合わせて観てしまう、あるいはそうせざるを得ない。つまり非常にパーソナルな作品なのだ。

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二人の子供と夫が消えたノラ役に『ゴーン・ガール』(2014)でベン・アフレック演じる主人公の妹を演じたキャリー・クーン

 序盤のポイントは第3話。牧師マットが教会存続のために資金繰りに奔走するのだが、多くの人々は「神の不在」を確信してカトリックから離れている。各地にカルト集団が乱立し、その一つが「あの日のことを人々に思い出させようとしている」過激な集団レムナント。マットはレムナントのメンバーを「救いたい」と言い、教会を守ろうと必死に立ち回るのだが、どこか上から目線に思えるマットに反感を覚えてしまう。しかも、マットは消えた人々を「良い人間」と「悪い人間」に選別するべきだとして、「悪い人間」のビラを作っては罪を世間に知らしめるようとしている。消えた人には犯罪者も含まれており、そんな人たちが天国へ行けるなんて思っちゃいけないというわけだ。マットも辛い状況にあり善人とも悪人とも言い切れないが(それが人間というもの)、人々の罪悪感や後悔の念、あるいは偽善とともに宗教の矛盾と欺瞞を浮き彫りにする、ある種のシニカルで意地悪な視点が明らかになるエピソードである。

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『日陰のふたり』(1996)などマイケル・ウィンターボトム監督作品でおなじみの英国人俳優クリストファー・エクルストン

 喪失感への向き合い方、悲しみの度合いを100%同じように他人と共有することは、恐らく不可能なことだと思う。例えば、子供を失った夫婦が、なぜ夫or妻は同じように悲しんでいないのかと怒りを覚え、心が離れてしまうといった作品は少なくない。それと似た感覚を抱いた経験は、誰にでもあるはず。現実的に震災や豪雨、大事故などが起きた日を毎年迎えるたびに、おざなりのテレビの報道をみて「もう、みんな忘れちゃったの?」とやり場のない悲しみを覚える人も少なくないのでは。残された者は生きていかなければならないが、簡単に「前を向いて」なんて他人から言われたくないし、そもそも親しい誰かの死を「乗り越える」って、どういう意味なんだろうとも。劇中、3年が過ぎたとしても「本当に悲しんでいたら前になんか進めない」と泣き叫ぶ登場人物のセリフに胸をえぐられる。だからこそ、あの日のことを忘れて平然と生きている(ように見える)人々に圧力をかけ、過激な行動に出るカルト集団レムナントの行動もまた、否定しきれないのだ。

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一体、何が……!?

 「LEFTOVERS」は驚くほど悲しみに満ちた陰鬱な作品だ。同時に、断片をつなぎあわせながら完成図の見えないパズルを続けるのだから、万人向けとは言えない。この陰鬱さの根源ともいうべき色濃い宗教観、死生観は、「LOST」でも明らかにキリスト教の影響が強かったことを考えると、リンデロフにとってはライフワークともいうべきテーマの一つなのかもしれない。残された者たちが、神を否定するか、カルトに走るか、厭世的になるか、前に進もうとするか、そのいずれもが間違いではないと思えるということは、このドラマの解釈に正解はないということでもあるだろう。だからこそ、各々の視聴者がそれぞれに思い入れることができるわけで。

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メグ・アボット役でリヴ・タイラーも出演!

 一方で、気持ちがシンクロした人にとっては点数など付けられないほど思い入れるため、熱狂的な支持者を獲得するが、そうでない人には「それほど……」となる。賞を席巻する圧倒的に完成度の高い作品はもちろん見逃したくないが、多少のいびつさがあったとしても、とことんパーソナルな思いを投影して心の深いところまで入り込んでくる作品との出会いは、幸せな体験と言えるのでは。

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「LEFTOVERS/ファイナル」より

 本作の原作は未読だが、今改めてシーズン1を振り返ると今年のエミー賞の有力候補の一つで、キリスト教原理主義勢力が国家を支配する恐怖を描いたHuluオリジナルドラマ「侍女の物語(原題:The Handmaid's Tale)」を思わずにはいられない。レムナントの白装束の描写は、侍女たちのユニフォームを思わせるし、極端な思想も支持者が増えればメインストリームに成り得るのかと思ったり……。アメリカでは9.11の後、スピリチュアルなドラマが増えたとの分析があるが(『ゴースト ~天国からのささやき』『ミディアム 霊能者アリソン・デュボア』など)、今のトランプの時代に、カルトを題材にした作品が登場することの意味とは何なのか。今秋から始まる「アメリカン・ホラー・ストーリー」シーズン7のタイトルが「Cult」であることにも、なんだか薄ら寒い気がしてしまう。

(C)2017 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R)and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

「LEFTOVERS/残された世界」(原題:The Leftovers)
85点
ミステリー ★★★★★
恋愛 ★★★☆☆
SF ★☆☆☆☆

視聴方法:
スター・チャンネルでシーズン2(『LEFTOVERS/残された世界』)が放送中(毎週よる11:00ほか)、シーズン3(『LEFTOVERS/ファイナル』」)が8月29日より放送スタート(毎週火曜よる11:00ほか※第1話無料放送)

今祥枝(いま・さちえ)映画・海外ドラマライター。「BAILA(バイラ)」「日経エンタテインメント!」ほかで執筆。著書に「海外ドラマ10年史」(日経BP社)。当サイトでは「名画プレイバック」を担当。作品のセレクトは5点満点で3点以上が目安にしています。Twitter @SachieIma

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