黒人差別の理不尽さを訴える映画特集

 黒人に対する暴力や人種差別をなくすためのムーブメントBlack Lives Matterは、いまや世界中に広がっている。しかし、そんな中でも白人警官による無抵抗な黒人への暴力は再び起こり、 この問題の根深さを物語っている。歴史の中で幾度となく繰り返されている理不尽な黒人差別を描く映画を特集する。今一度、人種差別の無情さとそれに立ち向かう人たちの苦悩について考えてみたい。

無抵抗のデモ隊に警官隊が暴力!血の日曜日事件

グローリー/明日への行進』(2014)

グローリー/明日への行進
『グローリー/明日への行進』 Paramount Pictures / Photofest / Getty Images

 マーティン・ルーサー・キング・ジュニアはアメリカでもっとも尊敬されている公民権運動家で、1968年に暗殺されるまで、非暴力を貫いて人種差別の撤廃を訴え続けた。1964年にノーベル平和賞の授与が決まった彼は翌年、人種差別が根強いアラバマ州で次なる行動を起こすが、その激動の様子をクローズアップしたのが本作だ。

 アラバマの都市セルマから州都モンゴメリーへの行進を行なおうとしたキングに、人種差別主義者の知事は非難の声を上げ、警官隊は無抵抗のデモ隊に暴力を振るった。これは1965年の血の日曜日事件として全米中に大々的に報道され、反人種差別の世論を押し上げることになる。

 劇中では、黒人であれば誰でも暴力を振るわれかねない、当時の白人至上主義社会の現実が生々しく映し出される。キングはもちろん、彼の妻や子どもにも危険はおよぶ。そんな過酷な状況下で、キングが何に耐え、どう闘ったのか? 不屈の精神の物語は、今こそ見るべきものなのかもしれない。

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人種差別主義の若い警官が黒人をなぶり殺す十二番街暴動

デトロイト』(2017)

デトロイト
『デトロイト』 Annapurnia Pictures / Photofest / Getty Images

 1967年にデトロイトで起こった十二番街暴動は、警察による違法酒場の摘発に端を発しているが、それはやがて、あるモーテルで起こった惨事により人種差別の色を濃くすることになった。『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグロー監督が手がけた本作は、この惨事を並々ならぬ緊張感とともに切り取った衝撃作だ。

 5日間続いた暴動の3日目に事件は起こる。黒人客が多く宿泊するモーテルでモデルガンが発砲されたことから、暴徒がいると思われ、警官や州兵が突入。そこには本物の銃を所持している客はいなかったが、人種差別主義の若い警官は黒人たちを廊下に並ばせて尋問し、精神的にも肉体的にも苦しめる。

 この事件では3人の黒人男性が死亡したが、殺人容疑を向けられた警官たちはいずれも無罪になっており、真相は公には明らかになっていない。しかしモーテルの騒動を生き延びた人々は非人道的な行為が行なわれていたことを語っており、本作の発想もそこから得られたという。

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正当な裁判を受けることができず肌の色で裁かれる不条理に挑む弁護士

『黒い司法 0%からの奇跡』(2019)

黒い司法 0%からの奇跡
『黒い司法 0%からの奇跡』 Warner Bros./Photofest / Getty Images

 マーティン・ルーサー・キングのワシントン大行進から20年を経た1980年代のアラバマ州。そこではなおも人種差別が根付き、無実の黒人たちがロクな捜査もされぬまま濡れ衣を着せられ、極刑に処せられていた。そんな現実に立ち向かった実在の黒人弁護士ブライアン・スティーブンソンの奮闘をドラマ化した本作。

無罪としか思えない黒人死刑囚の弁護を引き受けたスティーブンソンは、州の司法制度の腐敗を目の当たりにすることになる。拷問まがいの誘導尋問や証拠の捏造は当たり前。裁判で不利になる証人を封じ込め、脅迫も辞さない。その結果、何の罪もない人間に死刑が宣告されるのだから、劇中のスティーブンソンのように、映画を見る側も怒りがこみあげてくる。

 正当な裁判を受けることができず、肌の色で裁かれる不条理。そんな現実を、当時のアラバマの黒人たちは諦めとともに、なかば受け入れていた。そんな社会の悪循環も見えてきて興味深い。

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音楽という武器を手に警官と激闘するヒップホップ・グループ

ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015)

ストレイト・アウタ・コンプトン
『ストレイト・アウタ・コンプトン』Universal Pictures / Photofes / Getty Images

  ヒップホップ・グループ、N.W.A.が1988年に発表したデビュー・アルバム「ストレイト・アウタ・コンプトン」は、音楽業界のみならずアメリカ社会をも揺るがす大事件”だった。そこに収録された、警官の横暴を非難する彼らの代表曲「ファック・ザ・ポリス」は、大論争を呼び起こす。そんなN.W.A.の闘争史を描いたのが、この伝記ドラマ。

 コンプトンはアメリカでも有数の犯罪都市で、貧しい黒人少年がドラッグに手を染めることなく成長するのが難しい。当然、警察には目の敵にされる。現在もラッパーとして活躍するアイス・キューブドクター・ドレーなど、そんなどん詰まりから抜け出したい若者たちが、N.W.A.を結成して音楽という武器を手に入れた。

ブレイク後、彼らは公演で警告に反して「ファック・ザ・ポリス」をプレイ。そのために警官の暴力に標的となることもあった。このドラマでは、そんな激闘をも生々しく再現している。

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黒人青年が白人警官たちに袋叩きにされたロドニー・キング事件

マイ・サンシャイン』(2017)

 1992年の有名なロサンゼルス暴動を題材にした映画は多いが、本作はその中でも記憶に新しいところ。犯罪多発地区にして貧困地区でもあった暴動の最前線サウスセントラルを舞台にしている。 暴動の発端となったのは、スピード違反で逮捕された黒人青年が白人警官たちに袋叩きにされたロドニー・キング事件。その模様が撮影され、公にされたことで怒りの声が沸き上がる。

 折しも起きた、韓国系の雑貨店店主による黒人少女の射殺事件も人種間の緊張を高めた。そして事件の警官たちが無罪判決を受けたことで、張り詰めた空気は一気に爆発する。

 そんな激流の中で、本作の主人公である、孤児たちの世話をしていた黒人女性は、子どもたちを暴力の荒波から守ろうと奔走する。向こう見ずに暴動に飛び込もうとするティーンもいれば、お菓子をもらいに行こうと無邪気に略奪に加担しようとする幼子もいた。そんな未成年者の視点を宿らせたことは、本作を興味深いものにしている。

どこにでもいる黒人の若者が警官に射殺される日

フルートベール駅で』(2013年)

フルートベール駅で
『フルートベール駅で』 The Weinstein Company / Photofest / Getty Images

 2009年1月1日、新年を祝う狂騒の中、サンフランシスコにあるフルートベール駅で22歳の黒人青年オスカー・グラントが鉄道警官に射殺された。丸腰であったにもかかわらず……。本作は、そんな彼の人生最後の一日を再現したドラマ。 

 グラントは前科者だが、愛娘を保育園に連れて行き、母親の誕生日を忘れずに祝うなどの優しさ面もある。その日は恋人に浮気を責められたうえに、求職に失敗してイライラしていたが、それでもまっとうに生きたいと前を向いている。夜は仲間たちと新年を祝い、帰宅するはずだったが、電車内でケンカ沙汰に巻き込まれたことから雲行きが怪しくなり、悲劇が起こった。

 当然この事件はオスカー・グラント三世射殺事件と呼ばれ抗議集会が全米各地で開かれる一方で、グラントが受けた制裁が議論を呼んだ。後に『ブラックパンサー』で成功を収める監督のライアン・クーグラーは、聖人でも罪人でもない、どこにでもいる人間としてのグラントを描きたかったと語っている。

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60年代活動家たちの生と死を経て現代アメリカに暮らす人々の意識は変わったのか?

私はあなたのニグロではない』(2016)

私はあなたのニグロではない
『私はあなたのニグロではない』 Magnolia Pictures / Photofest / Getty Images

 黒人作家ジェイムズ・アーサー・ボールドウィンは、映画化もされた『ビール・ストリートの恋人たち』などの著作で知られる一方で、1960年代には公民権運動に深く関わっていた。そんな彼のスピリットを、未発表原稿やメモから浮き彫りにしたドキュメンタリー。

 メドガー・エバース、マルコムX、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアら60年代の有名な活動家たちの生と死を振り返りつつ、黒人への暴力が今なお続く米国史を浮き彫りに。長い闘争の末に勝ち得た制度は、確かに黒人の権利を保障している。しかし、アメリカに暮らす人々の意識をどこまで変えられたのか? 法が変わったところで、人間の意識が変わらなければ、何も変わっていないに等しいのだ。

 映画はボールドウィンの死後に起きたロサンゼルス暴動、さらには2014年にミズリー州で起こり暴動にまで発展した、警官による黒人少年射殺事件をも視野に入れている。ボールドウィンは語る。歴史は過去ではない。現在だ……そう、2020年の今も問題はそこにある。(文・相馬 学)

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