熱狂生んだ『プロメア』は何がすごいのか…?

 Amazon Prime Videoで8月5日からアニメーション映画『プロメア』の独占見放題配信がスタートした。これに最も喜んだのは、おそらく映画館に何度も通い、すでに円盤(Blu-ray・DVD)を購入済の『プロメア』ファンだろう。いつでも観られるのになぜ? その答えは簡単だ。「あなた」に観てほしいから。

 映画『プロメア』は完全オリジナル作品のため、なんの予備知識がなくても老若男女が楽しめる。だがあえてアニメーションとしての魅力を説明しておこう。まずはなんといっても人気作『天元突破グレンラガン』「キルラキル」でタッグを組んだ今石洋之監督×中島かずき脚本のオリジナル作品であること。今石監督の大胆なパースとダイナミックな動きからなるポップで奇抜なアニメーションと、「劇団☆新感線」の座付作家である中島の描く強烈な生のエネルギーにあふれたキャラクターたちの物語。その相乗効果はすさまじく、多くのアニメファンの心を熱くした。

 目と耳への刺激も半端ない。アニメーションスタジオ・TRIGGERによる濃密なド迫力アニメーションとスタイリッシュな色彩やデザイン。澤野弘之による常時クライマックスのような熱量の劇伴。その両者が、脳内に直接体当たりしてくる感覚は、アトラクション的な中毒性がある。企画段階から、テレビアニメではなく劇場用アニメとして作られているだけに、大きなスクリーンにふさわしいスケール感のアニメが全力で押し寄せてくるのだ。

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 でもこれらの説明は、日常的にアニメを見慣れていない人にとってはピンとこないだろうし、実は「観てほしい理由」のほんの一部分に過ぎない。そして、理由の大部分を占める魅力は、善悪ではなく信念と信念のぶつかり合いを描いた王道ストーリーと、メインキャラクターを演じた松山ケンイチ早乙女太一堺雅人の熱演にこそある。この2つで、一緒に心を震わせたい、互いが感じた熱を共有したい。そんな、思わず誰かとコミュニケーションを取りたくさせるエネルギーが、『プロメア』にはあるのだ。だからもし身近な人が本作を勧めたとしたら、それは「あなたとできたて熱々の美味しいピザを分け合いたいです」と言っているようなものだと思ってほしい。チーズが伸びるうちに、繋がりたいのだ。

 ピザの具、もといストーリーを紹介する。テーマはずばり、男同士のバディものだ。炎を操る人種〈バーニッシュ〉が突然変異で誕生し、全世界の半分を焼き尽くしてから30年後。ごく一部の攻撃的な〈マッドバーニッシュ〉たちは、ある目的でいまだ街に火を放っていた。燃える火消し魂を持つガロ・ティモス(声:松山)は、自治共和国プロメポリスの司政官であるクレイ・フォーサイト(声:堺)が結成した高機動救命消防隊〈バーニングレスキュー〉の新人隊員として、彼らが引き起こす火災の鎮火にあたる。だが、マッドバーニッシュのリーダーであるリオ・フォーティア(声:早乙女)と出会い、リオからバーニッシュをめぐる衝撃の真実を告げられる。さらに、地球規模で進められている、ある計画の存在を知り、ガロは己の価値観や信じていた正義が覆されることになる。

 主人公のガロとリオは、「火を消したい/燃やしたい」という相反する思いに加え、「差別/被差別」という対立関係にある。この世界において、普通の人間であるガロたちはマジョリティであり、たまたま“バーニッシュ”になってしまっただけのリオたちはマイノリティとして迫害されているのだ。一見近未来SF的な世界観のなかでも、物語の根底には現代と同じ人間同士の差別や対立があるからこそ、それぞれの想いをリアルに感じることができる。

 大切なものが違うそれぞれの立場で「じゃあどうすればいい?」を何度も問いかけ、衝突しながらも理解を深めていくふたり。ところがそこに、全く別の信念を持つ共通の敵が現れたことで、力をあわせ戦いに挑むことになる。これが単純な正義と悪の戦いであれば、ここまで多くのファンを生まなかっただろう。だが本作では、ガロとリオが対峙する相手の行動理由もまた「救うこと」であり、ひとつの善なのだ。世界の未来を願う善同士の戦いに、悪はいない。三者三様の正義と信念があるだけだ。

 「じゃあどうすればいい?」という問いかけは、宮崎駿監督の『もののけ姫』にも通じるところがある。自然と人間の対立が描かれたあの作品にも、悪はいない。

 本作では、ガロがひとつの答えを出している。それが、「見上げた理想が地に落ちようと、掲げた希望は砕けねえ」という口上だ。例え理想に裏切られたとしても、己の希望と信念だけは貫き通す。その粋な戦い方は、実に気持ちいい。火を消したいガロと、燃やしたいリオの信念が、どんな答えにたどり着くのか。それを観てなにを感じるのか。ピザを食べながら話したいのだ。

 譲れない信念と信念のぶつかり合いの物語であるがゆえに、メインキャラクターを演じる松山、早乙女、堺の芝居がものすごいことになっていることでも話題となった。例えるなら、生の舞台の芝居そのもの。生身の人間が放つエネルギーと、TRIGGERの、『プロメア』の画面に負けないだけの芝居の圧が伝わってくる。本職の声優ではない俳優がアニメのキャラクターに声を当てることへの不安を打ち消すほど、この3人の芝居は素晴らしく、それが多くのアニメファンの支持を集める結果となった。

 日本古来の火消しに憧れ「バカ」が付くほどまっすぐなガロを、松山は粋に気持ちよく演じきった。差別され抑圧されるバーニッシュの哀しみと怒りを秘めたリオを、早乙女は激情と純粋さで表現した。堺の芝居は、まさに“怪演”。その芝居が、作画にも影響を与えたというほど、捉えどころの難しいクレイというキャラクターの外見と内面を、見事な表現力で突き付けている。一見スマートな司政官であるクレイは、常識から外れたなにかを抱いている。声が裏返るほど限界を突破した堺の芝居を通して、そんなクレイの信念の強さに触れたとき、より『プロメア』が好きになってしまうはず。ガロ、リオ、クレイの3人が全力でぶつかればぶつかるほど、それぞれの信念の強さを感じることができるから。そして、誰かのためではなく己が信じるもののために戦うことは、難しいがゆえに尊い。

 アニメーションとしての唯一無二の見ごたえと、俳優陣が生み出す魅力的なキャラクターたちの振り切れた芝居、それらに負けない中毒性のある音楽を全身で浴びたくて、リピーターが続出。公開から1年以上経った今でも、劇場でのロングラン上映が続いている。もし食わず嫌いをしていたり、なんとなく話題作が気になっていたりする人がいたら、Amazon Prime Videoでの配信を、とりあえずピザを食べるくらいの気軽なノリで観てほしい。そのピザの感想を誰かとわかちあいたくなったら、きっとあなたの中にも『プロメア』の希望が宿ったに違いない。『プロメア』は、違う価値観を持つ者同士のコミュニケーションを描いた、現代の神話なのだから。(文・実川瑞穂)

(C) TRIGGER・中島かずき/XFLAG

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