秋の夜長に…アッと驚くサスペンス映画傑作選

 サスペンス映画は、われわれ観客を極限状況に連れ出すことで、未知の高揚感を味わわせてくれるエンターテインメント。秋の夜長に向けて、とりわけヒネリが効いていてアッと驚かされる名作、怪作をピックアップしてみたい。(村山章)

オチが意外すぎる

サーチ
『search/サーチ』より(C)Screen Gems / Photofest / ゲッティ イメージズ

 「ラストのドンデン返し」や「意外なオチ」はミステリー仕立てのサスペンスでよく使われる常套手段。サスペンス系の映画を観れば観るほど、読めば読むほどに予想が的中する確率は上がるが、見事当てるのも、予測の裏をかかれるのもどちらも楽しい。

 『search/サーチ』(2018)は、行方不明になった女子高生を探す父親の必死の奮闘を、全編SNSやブラウザなどのパソコン画面を通して描いた変わり種サスペンス。ワンアイデアでは終わらない凝ったギミックが秀逸なだけでなく、意外な事実が次々と判明してもう二転三転どころの騒ぎじゃない! 観客は一体どこにオチるのかを見通すことができず、見事に翻弄させられる「意外オチ」の逸品だ。

 ジェイク・ギレンホール主演でハリウッドリメイクも進んでいるデンマーク映画『THE GUILTY/ギルティ』(2018)も、秀逸なアイデアと、観る者を振り回すまさかの展開で驚かせてくれる。主人公は緊急通報センターのオペレーター。かかってきた電話を受けると、怯えた声の女性が「誘拐された」と訴える。被害者は車に乗せられているらしく、一刻も早く助けなければ! というシチュエーション。

 これまた全編がほぼコールセンターの中で進行し、電話の相手は声しか聞こえないという趣向がサスペンスを盛り上げる。そして主人公と一緒に声だけの情報に集中していると、予想だにしなかった複雑な展開に仰天させられるのである。『閉ざされた森』(2003)、『エスター』(2009)、『ゴーン・ガール』(2014)などもおすすめ。

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衝撃のシーンあり

ヴィジット
『ヴィジット』より(C)Universal Pictures / Photofest / ゲッティ イメージズ

 サスペンス映画には多種多様な「アッと驚く」があるが、最もダイレクトに驚かせてくるのが、問答無用でビビらせる衝撃的なビジュアル。例えば奇才監督M・ナイト・シャマランの『ヴィジット』(2015)は、疎遠だった祖父母の家に孫の姉弟がお泊りに行く物語。とりわけ強烈なのが、床下に潜り込んだ孫を、おばあさんが四つん這いで笑いながら追いかけてくるシーン。

 いくらなんでもコレは仰天するしマジで怖い。純粋に絵的に怖い。孫たちを歓迎してくれる優しい祖父母だけど「振る舞いがどこかおかしい!」と疑念が膨らんでいく展開が、いちいち衝撃のビジュアルで飾られているので、否が応でも目に焼き付く。

 ダイレクトな衝撃といえば園子温監督の『冷たい熱帯魚』(2010)では、吹越満演じる平凡で気弱な熱帯魚店店主が、でんでんふんする連続殺人犯の恐るべき犯行に巻き込まれていく。強引なでんでんの片棒を担がされ、死体の解体処理を手伝わされるシーンの凄惨さは夢でうなされるレベルだが、シーンによっては過剰な描写に思わず笑ってしまうことも、本作が与える衝撃の一部といえるかもしれない。『トマホーク ガンマンvs食人族』(2015)、『ミッドサマー』(2019)などもおすすめ。

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テーマが深い!

スリー・ビルボード
『スリー・ビルボード』より(C)Fox Searchlight Pictures / Photofest / ゲッティ イメージズ

 サスペンス・ミステリー的な導入ながら、「アッ、こんなことまで描いていたのか!」とテーマの深さに驚かされる代表例が、フランシス・マクドーマンドサム・ロックウェルがそれぞれアカデミー賞主演女優賞、助演男優賞に輝いた『スリー・ビルボード』(2017)。映画の冒頭では、ミズーリ州の田舎町でティーンエイジャーの女の子が殺されるも、犯人が見つかっていないことに業を煮やした被害者の母親が警察を非難する広告を出す。

 犯人の手がかりさえ得られていないのは、果たして警察の怠慢のせいなのか? そして凶行に及んだ真犯人はどこに潜んでいるのか? ミステリーの謎解きを期待していると、映画は思わぬ方向へと舵を切る。犯人探しは脇においたまま、田舎町の住人たちの群像ドラマに惹き込まれていき、いつしか日常に潜む偏見や憎しみなど、多層的なテーマが浮かび上がってくる。

ズートピア
『ズートピア』より(C)Walt Disney Studios Motion Pictures / Photofest / ゲッティ イメージズ

 ディズニーの大ヒット作『ズートピア』(2016)も、実は典型的なサスペンスの形式を採用している。動物キャラやカラフルな街の姿などファンシーな要素に目を奪われがちだが、ウサギの新人警官ジュディと詐欺師のキツネ、ニックの迷コンビが、不可解な連続失踪事件に挑むミステリー仕立て。そして事件解決や謎解きの面白さだけでなく、人種差別や多様性といった今日的なテーマがふんだんに盛り込まれていて、社会派エンタメとしの完成度の高さにも驚く。絶対に子供向けなどと侮ってはいけない傑作である。

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主人公がワケありすぎる

アンセイン
『アンセイン ~狂気の真実~』より(C)Bleecker Street/Fingerprint Releasing / Photofest / ゲッティ イメージズ

 観客が一番感情移入しやすいはずの主人公が、まったく信用できなかったらどうする? 例えばスティーヴン・ソダーバーグ監督がiPhoneだけを使って撮影したサスペンス・スリラー『アンセイン ~狂気の真実~』(2018)では、クレア・フォイ演じる若い女性ソーヤーにストーカーが襲いかかるのだが、どこまでが現実でどこまでが妄想なのかがさっぱりわからない。

 ソーヤーは元カレのストーカー行為によるトラウマに苦しんでおり、カウンセラーに相談に行くと「自殺の怖れあり」と診断されて精神科に強制的に入院させられてしまう。しかも隔離された病棟には、なぜかストーカーである元カレが職員として働いていて……。そんなことってあり得る? もしかしてソーヤーは、精神が不安定なあまり幻影を見ているのか?

 あまりにもシュールな展開と、悪夢のような閉塞感の合わせ技で、観客はアッと驚くだけでなく頭脳をフル回転させることになる。現実と非現実の境目を見つけようと、小さなヒントでも見逃すまいと一生懸命になっていれば、まんまとソダーバーグ監督の仕掛けた罠にハマったということなのだ。

ホース・ガール
『ホース・ガール』より Netflix映画『ホース・ガール』独占配信中

 Netflixオリジナル作品の『ホース・ガール』(2020)も、主人公のワケありっぷりに脳みそを撹乱される怪作。手芸用品店で働く気のいい店員サラの平和な生活が、ある日を境に崩れ始める。突然鼻血が出たり、夢遊病患者のように知らない場所にいたり、知らない場所にいる夢を繰り返しみたり。やがてサラは「誰かに操られているのでは?」「自分は宇宙人にさらわれたのでは?」「自分は実はクローン人間ではないか?」と、次々と妄想にとらわれて、こじらせていく。

 あまりにもハチャメチャな展開に戸惑うこと間違いなしだが、実は主演俳優で共同脚本も手がけたアリソン・ブリー実体験に基づいている。祖母や母親が統合失調症や精神的疾患が苦しんできたことから、いつか自分も発症するのではと不安を抱えて生きてきたというのだ。つまり本作は、統合失調症側から見た世界を体験する、精神的な迷宮サスペンスなのである。

 記憶を保てない男が亡き妻の復讐を果たそうとするクリストファー・ノーラン監督作『メメント』(2000)も、「信頼できない語り手」を扱った名作。

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