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クズでゲスいアンチヒーローを描く「ザ・ボーイズ」は何が面白いのか?

ザ・ボーイズ
腐敗したスーパーヒーロー集団と能力を持たない人間たちの攻防を描いた「ザ・ボーイズ」は Amazon Prime Video で独占配信中(C)Amazon Studios

 弱者を救うはずのスーパーヒーローが、欲望を果たすことしか頭にないクソ野郎ばかりだったら? マーベル、DCなど、数多くのアメコミ原作ヒーロー映画が隆盛を極める中、そんな恐ろしい「if」を、悪趣味かつ露悪的に描いて爆発的な人気を得たのが、待望のシーズン3が始まった Amazon Original ドラマ「ザ・ボーイズ」だ。シーズン3の全世界視聴者数はシーズン1の234ポイント増という驚異的な数字を記録。そして早くもシーズン4の制作が発表されている。

 舞台は特殊能力を持つヒーローたちが活躍する世界。ヒーローの中でも特に実力と人気を兼ね備えているのがヒーローユニット「セブン」だが……その正体はゲスなクズ野郎ぞろい。

ホームランダー
セブンを率いる極悪非道のヒーロー・ホームランダー。「ザ・ボーイズ」は Amazon Prime Video で独占配信中

 リーダー格のホームランダー(アントニー・スター)は、星条旗をかたどったマントを翻す愛国者だ。見た目は、スーパーマンとキャプテン・アメリカを足して二で割ったようなヒーローだが、実は自己中心的で傲岸不遜(ごうがんふそん)かつ冷酷無比。ハイジャックされた飛行機の救出に失敗すると、即座に子どもも含めて乗客乗員全員を見殺しにする非道ぶり。Aトレイン(ジェシー・T・アッシャー)はフラッシュのような “世界最速の男”だが、薬物に依存したせいで主人公ヒューイ(ジャック・クエイド)の恋人ロビン(ジェス・サルゲイロ)に衝突して爆発四散させてしまう。そのうえ事故のことを笑い話にするクズ。

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Aトレイン
Aトレインは世界最速の男なのに、薬物に依存!? 「ザ・ボーイズ」は Amazon Prime Video で独占配信中

 アクアマンのような水中で活躍するヒーロー、ディープ(チェイス・クロフォード)は悪質きわまりないセクハラ(性暴力)を立場の弱い女性にはたらく。透明化能力を持つトランスルーセント(アレックス・ハッセル)は女性用トイレや産婦人科にいつもいるのぞきの常習犯。ワンダーウーマンそっくりの “鋼鉄の女”クイーン・メイヴ(ドミニク・マケリゴット)は、権力とホームランダーを中心とした男社会に隷属している。唯一まともなのは、新人ヒーローのスターライト(エリン・モリアーティ)ぐらいだ。

スターライト
セブンの中で唯一まともな怪力の持ち主スターライト(右)。Amazon Studios / Photofest / ゲッティ イメージズ

 セブンの中でも、もっとも恐ろしいのがシーズン2から登場するストームフロント(アヤ・キャッシュ)だろう。強くて美しい女性ヒーローだが、実際はホームランダーに逆らうほど強烈な権力志向の持ち主であり、バリバリの白人至上主義者。彼女の恐るべき活躍(?)がシーズン2の主な見どころになっている。

 クズぞろいのセブンと彼らを雇う巨大企業ヴォート・インターナショナルに立ち向かうのが、超能力もない一般人の集団「ザ・ボーイズ」である。通常のヒーロー映画とはまったく逆の構図だ。

ザ・ボーイズ
元CIA工作員のブッチャー(カール・アーバン:左から2番目)率いるザ・ボーイズの面々。「ザ・ボーイズ」は Amazon Prime Video で独占配信中

 どこかで見たようなヒーローたちが私利私欲のために暴走しまくる姿は、笑ってしまうほどひどい(ここまでひどいのは藤子・F・不二雄の短編『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』ぐらいだろう)。ホームランダーの光線で人体が汁気の多い果物のように真っ二つにされたり、人の頭部が水風船のように爆発したりする過激なゴアシーンやアダルトなシーンも多く(薬物で興奮した女性ヒーローが顔面騎乗で初老男性の頭部を破壊する場面もあった)、R18+指定も当然のように思える。

 ドラマ「ザ・ボーイズ」が世界中で爆発的な人気を博したのは、ヒーローたちのゲスな暴れっぷりが受けた側面もあるが、それ以上に作中で描かれている内容が、われわれの生きる現実社会を反映しているからだろう。そして、それは制作側の意図している部分でもある。ホームランダー役のアントニー・スターが、演じるときに当時米大統領だったドナルド・トランプ氏をモデルにしたとYouTubeチャンネル Prime Video の「プライム・リワインド:インサイド・ザ・ボーイズ」と題したトーク番組で発言しているように(トランプと同じようなアメリカ第一主義を唱えるスピーチもホームランダーは行っている)、尊大な人間が権力を掌握する様子をシニカルに描いていること。

ブッチャーとホームランダー
あることのためにブッチャーの元へ話し合いに来たホームランダー。「ザ・ボーイズ」は Amazon Prime Video で独占配信中

 Aトレインが起こしたようなヒーローの事故も、彼らを雇うヴォート社が巨大な広告主なのでメディアは報じない点。ディープから性暴力を受けたスターライトは#MeToo運動のように告発するが、告発さえもヴォート社によるマーケティングの材料にされること。ストームフロントのような驚くべきルーツを持つ差別主義者が、権力の中枢に食い込むこともある。どれも現実ではよくあることだ。

 何よりも強烈な事実は、膨大なカネと強大な武力が権力を集中させることだ。そして権力は必ず腐敗する。スターライトを演じるエリン・モリアーティも、「わたしたちはいつもヒーローやセレブ、政治家たちをあがめています。(中略)でも実際には、権力は腐敗するんです」とcnet.comで明かしている。

ヒューイ
スターライトに好意を持つザ・ボーイズのヒューイ。「ザ・ボーイズ」は Amazon Prime Video で独占配信中

 また、ヒーロー映画の激増ぶりを憂うショーランナー(製作総指揮)のエリック・クリプキは、ign.comで「頼れる誰かが現れて助けてくれるのを待つ、という考えを全世代に植え付けるのは少し危険だと思う」と語り、さらに「その結果、『救えるのはわたしだけだ。それはわたしなんだ』と言うトランプ氏やポピュリスト(大衆迎合主義者)に統治されてしまうことになる」と警鐘を鳴らしている。

 ワハハと笑いながら背筋が凍る。「ザ・ボーイズ」が視聴者数を激増させている背景には、アメリカだけでなく世界中に広がっている閉塞感がある。自分の強さを誇示し、自分を強いヒーローに見せようとする連中には気をつけるべきだ。「ザ・ボーイズ」はそんなことを教えてくれる、“悪性のエンターテインメント”である。(文・大山くまお)

「ザ・ボーイズ」は Amazon Prime Video で独占配信中

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