ひとり超然と自己主張するストレイ・ドッグ。

男と女が同じフレームにいる。やがて片方が右へと移動すると、右の視覚だけがパンしてそれを追い、左の視覚は動かない片方にとどまったままだ。本作を観る者は右目と左目が別個に遊離したようなこの奇妙な感覚を少なくとも二度味わい、個の認識に対して束の間疑念を抱くことになる。それがゴダールの意図かどうかは、例の如く膨大に引用される他人の言葉・他人の映像と解体された物語の中では判じ難いが、あの独特のタイポグラフィや、立体視できたりできなかったりする画に「面白い3D映画を観た」と思える出来なのは確か。画面に現れる本がソルジェニーツィン「収容所群島」で始まりヴァン・ヴォークト「非A-3」で終わるのはチト気になる。