「ファンタジー」が人を不幸に陥れる酷い現実を冷徹に突き付ける

2013年11月26日 清水 節 かぐや姫の物語 ★★★★★ ★★★★★

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かぐや姫の物語

 宮崎駿の熱情がふつふつとたぎる紅い太陽ならば、高畑勲の知性は冴え冴えと照らす蒼い月だ。長い闇を経て高畑の執念は実った。水彩画や水墨画を思わせるかすれ気味の線に、塗り残しと余白。“生命を得て躍動する日本画”と呼びたいほどにアートとしても貴重な一品である。『竹取物語』の筋書きをそのままに、原作には描かれていない要素へ思慮深い解釈を加えることで今と斬り結び、淡い光で生と死の世界の在りようを浮き上がらせる。

 かぐや姫とは、本作の中で「ファンタジー」を一身に担う存在。成長目覚ましい絶世の美女は、人々に一体何をもたらしたか。それは「不幸」である。彼女の存在に触れた周囲の人々は皆、幸せから遠ざかる。観る者はカタルシスなど得られない。高畑はファンタジーが人を不幸に陥れるというむごい現実を冷徹に突き付けた。アニメはこの30年、いや高度成長期からの半世紀以上、果たして私たちを幸せにしてきたのだろうか。ファンタジーを否定する本作の苦々しさは、アニメの中で願望を充足させようとする者たちへの痛烈なメッセージでもある。かぐや姫は、現代人の負の肖像だ。

(※3600字版はプロフィール下の<サイト>URLへ)

清水 節

清水 節

略歴:映画評論家・クリエイティブディレクター●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書に「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞、ギャラクシー賞、民放連最優秀賞 受賞

近況:●円谷プロ「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「シド・ミード展」未来会議ブレーン、図録寄稿●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」

サイト: http://eiga.com/extra/shimizu/

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