シネマトゥデイ

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寓話の味に満ちた“3.11”ドキュメンタリー

  • 祭の馬
    ★★★★

    「チンチン病気になっちゃったな」――ただでさえでっかい男性器が、さらに傷で腫れあがった元・競走馬。福島第一原発の事故後、警戒区域内にしばらく放置されていた馬の中の一頭だ。もちろん病気は偶然。だがこの映画は、滑稽に肥大したペニスの形状を原発3号機から上がったキノコ雲とイメージを重ねてみせる。

    おそらく“3.11”関連の映画で最も優れたものの一本『相馬看花 第一部・奪われた土地の記憶』に続く第二部『祭の馬』で、監督の松林要樹が取ったのは意外なアプローチだ。レースで全く勝てなかったダメ競走馬が、食肉用として南相馬市に送られ、未曽有の事故に遭う。しかし奇跡的に生き延び、一方でなぜかチンチンが腫れる。そして被爆馬の殺処分から逃れ、神事に出場することに。ここで映し出されるのは、ブラックジョークのような現実に生きる馬=「存在」の悲喜劇である。数奇な運命に翻弄される者の姿が、よく対象化されて我々の目の前に差し出される。

    ジョージ・オーウェルはなぜ『動物農場』で擬人化の手法を採用したか――そんな基本的なことを考え直してしまった。本作はドキュメンタリーだが、優れた風刺作家が描く寓話の味に満ちている。

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森 直人

森 直人

略歴: 映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『21世紀/シネマX』『シネ・アーティスト伝説』『日本発 映画ゼロ世代』(フィルムアート社)『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「キネマ旬報」「TV Bros.」「メンズノンノ」「Numero TOKYO (Web)」「映画秘宝」などでも定期的に執筆中。

近況: 11月23日(金)、自由が丘gallery yururiでのイベント『映画パンフは宇宙だ!』で大島依提亜さん×辛島いづみさん対談のMCを務めます(12:30開場/13:00開演)。BSスターチャンネルの無料放送番組「GO!シアター」、12月は『パッドマン 5億人の女性を救った男』『私は、マリア・カラス』『それだけが、僕の世界』についてコメントしています。執筆参加した『世界のカルト監督列伝』『鬱な映画』『漫画+映画!』『新世紀ミュージカル映画進化論』『究極決定版 映画秘宝オールタイム・ベスト10』(いずれも洋泉社)が発売中です。

サイト: http://morinao.blog.so-net.ne.jp/

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