略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
前作のスコセッシ風アメリカンニューシネマのテイストを踏襲しながら、状況をさらに重くダークに突き詰める。これは確かに賛否を呼びそうだが、個人的には賛に一票。
何しろ舞台はほぼ刑務所と法廷のみ。前作で提示されたアーサーの妄想癖はヒロインとのミュージカルにまで発展するが、その華やかさが、悲惨さを増すアーサーの現実と対をなしているのがイイ。
いたたまれないほど落ちていくアーサーをさらに落とす、そういう意味では正しいT・フィリップス版ジョーカーの続編。ここではDCワールドのカリスマ的ジョーカー観を忘れるべきだ。
ハリウッド進出以前のランティモス作品のテイストが戻ってきたような、シュールなつくり。それがオムニバスになったことでヘンテコさに拍車をかける。
3話はいずれも不条理展開で、突拍子のない展開やキャラが直面する気まずさにユーモアが。前作『哀れなるものたち』に見られたフェリーニ風テイストが、ドラマの中により強調されたような空気感も宿る。
飲み込みやすい物語ではないが、長尺でも飽きないし、そこに込められた寓意を探るのも妙味。まったく異なるキャラで全話出演する主要キャストの役回りの変化も解読のヒントになるかもしれない。
誰にも感情移入できない物語という点は黒沢清監督作品らしさ。なにしろ菅田将暉ふんする主人公は冷徹な転売屋で、親しみの抱ける人物とは言い難い。が、話はそれゆえに面白くなる。
主人公の冷徹さは敵をつくり、立場がどんどん悪くなる。そんなことを気にする様子もなく飄々としているうちに不穏な空気が増していく妙。スリラーを構築する巧妙な仕かけは、さすが黒沢作品。
不穏という点では、知らぬ間に状況を支配する何者かがいるのもポイントで、そこにも黒沢作品の旨味を感じとれる。菅田はもちろん、フツーっぽいのに味のあるその助手にふんした奥平大兼の妙演も光る。
『アウト・オブ・サイト』や『オーシャンズ11』につらなる、G・クルーニーらしいのオールドファッション犯罪劇。シナトラ談義にも50~60年代エンタメ映画に対する愛情がうかがえる。
クルーニーとピットのセリフはアップテンポで連なり、そこにはユーモアやウィットがにじむ。完璧なはずのプロ同士が顔を合わせたことで、事態が悪い方向に進むストーリーの転がし方が巧い。
新味こそないが、このような古き良き粋が味わえるのも、またエンタテインメント。主演ふたりのカリスマ性が輝くのは当然として、若気のフライングを体現した新星A・エイブラムスのバカ過ぎて愛らしいキャラの妙演は収穫。
T・バートンのファンであれば満足のいく怪作。36年前の前作のノリが甦り、ニヤニヤしながら楽しんだ。
霊界ツアーのジェットコースター的描写を踏襲しつつ、エロネタこそなくなったがビートルジュースのゲスなノリも健在。嘘だらけの大人と格闘するゴス少女を輝かせた目線も嬉しい。新ヒロイン、J・オルテガの偽善を見抜くような目つきの魅力は前作のウィノナ・ライダーに通じるものがある。
前作の「バナナ・ボート」に匹敵するミュージカルシークエンスがないのは残念だが、「マッカーサー・パーク」が流れるヘンテコな教会ダンスには味があり、これまたニヤニヤ。