略歴: 文筆稼業。1963年東京都生まれ。「キネマ旬報」「クイック・ジャパン」「DVD&動画配信でーた」「シネマスクエア」などで執筆中。近著(編著・執筆協力)に、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)、『寅さん語録』(ぴあ)、『冒険監督』(ぱる出版)など。
近況: またもやボチボチと。よろしくお願いいたします。
演劇部顧問である担任に誘われ、初めて舞台に挑んだ島根県の高校生男子4人をカメラは追う。演目は独自のアレンジを施された太宰治の『走れメロス』。始まりはNHKの折り目正しい番組っぽい作りだが、2021~22年、コロナ禍の「不要不急」の空気に抗った若人たちの胸熱なドキュメントへと加速してゆく。
無観客の地区大会。全国出場を得る本校と、彼ら分校との明暗……からの、まさかの演劇の街・下北沢へ。その果てには「はじめてのおつかい」級の予想外の展開が待っている。出演者のひとり、曽田昇吾くんは今後、本格的に役者を目指すという(4月から文学座の研究生に!)。折口慎一郎監督は続編を製作中、“ドラマ”は終わらない。
“野次馬コンビ”を自称する、ラッパーと時事芸人による衆参選挙戦の漫遊記。ドキュメンタリーだが感触としてはさながら、傑作映画『コミック雑誌なんかいらない!』(86/監:滝田洋二郎)のよう。すなわち突撃レポーター、内田裕也サン演ずるあのキナメリのごとく体を張り、内容的にも同じくヴィヴィッドに時代を切り取りつつ、コメディからホラーまで多ジャンルを横断してゆくのだ。
しかも二人の肝の据わり方は、明治大正時代、ジャーナリストとして活躍した反骨のパロディスト・宮武外骨や、その影響下で生まれた、前衛美術家・赤瀬川原平の漫画キャラ=馬オジサンと泰平小僧にも匹敵する。つまりパンクで、元気の出る映画ナンデス!
なぜか我々は普段、「恋」と「愛」を組み合わせた「恋愛」という言葉を無条件で受け入れ使っているが、監督パク・チャヌクのこの新作を観てしまうとちょい足しし、「謎恋愛」なんて造語をひねり出したくなる。
人は他者の言葉、行動に対して理解と誤解を繰り返す。だから劇中では“推量”と“翻訳”が大きくフィーチャーされる。人の心、それも本心を推し量り、完全に翻訳することの難しさ。
そこに触れてゆく本作は、刑事と容疑者という特殊な関係性から始まるが、二人に待っているものとはミステリーラブを巡る、永久の「未解決事件」であり、そして我ら観客をも巻き込んだ極めて映画的(フィクショナル)な「完全犯罪」の成就だ。
退屈さ、でさえもあれよと贅沢な時間へと変えてゆく、監督今泉力哉のドラマツルギー。彼は映画の“温度”を大切し、それによって毎回“湿度”も低く調整する。主演の「内省と静かな情熱の人」稲垣吾郎を筆頭に、出演者全ての体温を合わせて攪拌、本作の心地よい定温を設定している。
カメラを手にした主人公と義母(松金よねこ)との好エピソードは『スモーク』(監:ウェイン・ワン)を連想! 口語と間接表現を駆使した会話劇+実は野放図で暴力的な「好き」という感情の考察に磨きがかかり、「なんでもないことは流行に従う。重大なことは道徳に従う。芸術のことは自分に従う」(小津安二郎)に似た「今泉調」を、改めて噛みしめた。
主人公は高校の文化祭のステージで、(「Tell Him」で有名な)The Excitersの「He's Got the Power」(63)をギター1本で歌う。明るくアップテンポなこの曲を彼女は、(中島みゆきのようにメランコリックに)自己アレンジして。と、そこに「男子」生徒からのヤジが──人物の個性と映画全体の輪郭が、見事に提示される冒頭数分。
監督のエリザ・ヒットマンはロベール・ブレッソンの傑作『抵抗』(56)を参照したそうだが、なるほど、印象的な様々な“手の表情”が心に刻まれる(ある場面での握り合う手!)。原題の、素っ気ない官僚的な言葉の深さが観終えたあとも、いつまでもリフレインされる。