人類資金 (2013):映画短評
人類資金 (2013)ライター2人の平均評価: 3
志は一流、配役は豪華だが、気宇壮大な物語はリアリティに欠ける
戦後日本を陰で牽引したと言われる巨額の「M資金」。都市伝説の域を出ないモチーフを根幹に据えて、マネー資本主義の社会に一石を投じようという壮大な経済サスペンスだ。
素晴らしきテーマの下、主役級の役者が大勢顔を揃え、物語はグローバルに展開する。世界を裏で操る組織の陰謀に巻き込まれる詐欺師は佐藤浩市。組織首謀者の配下に森山未來。M資金運営財団の理事長に仲代達矢。NY投資銀行にはヴィンセント・ギャロ。暗殺者はユ・ジテ。秘密資金を奪取して「世界」を変えようという大風呂敷に身を乗り出すものの、志高き裏組織首謀者が香取慎吾、防衛省秘密職員に観月ありさという人選に違和感を覚えたあたりから、次第に首を傾げはじめる。何しろ謎の全ては膨大なセリフによって説明されてしまう。阪本順治のリアリズム演出は、原作者福井晴敏自身が手掛けた詰め込みすぎの脚本から、リアリティを引き出すことに失敗している。とりわけアクションとギャグは劣悪だ。
虚構と現実の狭間を縫うこのストーリーに説得力を持たせるには、アニメーションこそ相応しかったのではないか。神山健治演出で観てみたかった。
『エリジウム』にも通じる理想論がココにも
いささか大風呂敷を広げ過ぎた感は否めない。複雑な人間関係は、しばし観客を混乱させるだろう。しかし、今なぜ本作を世に送り出さねばならなかったのか? 作り手たちの狙いは明確だ。
戦後復興のために極秘に運用されてきたと言われるM資金。それが資本主義社会の渦に呑まれ、マネーゲームの道具になってしまった事に異議を唱える展開だ。その状況はまんま震災復興の状況と重なる。被災者のために集められた支援金が不正利用されていたばかりか、利益を得ようとする輩もいたという事実。それをもうやむやにしてしまっている日本人を覚醒させるべく生まれたのだろう。そんな思いが集約されているのが、映画ラストの、森山未來が国連で行うスピーチだ。阪本順治監督は「正論は泣けるんだよ」と語っていたが、誰もが胸を熱くするに違いない。
理想論だと言う人もいるかもしれない。しかし、米映画『エリジウム』のラストで富裕層の象徴だった医療ポッドが一般人に解放されたように、映画で夢やロマンを語ってもいいじゃないか。少なくとも勝負をせずに生きている人たちには、本作をけなす資格はないのだ。