見どころ:東日本大震災後に東京から陸前高田に移住した小森はるかが監督したドキュメンタリー。津波で全てを失うも自力で種苗店を再開し、独学で学んだ英語の手記を書いた佐藤貞一さんの日常をカメラが切り取る。プロデューサーは、『風の波紋』などをプロデュースした長倉徳生。黙々と外国語で本の執筆をし、工夫して日々を生きている佐藤さんの生活が見どころ。
あらすじ:岩手県陸前高田市在住の佐藤貞一さんは種苗店を営んでいたが、東日本大震災による津波で自宅も兼ねる店舗ごと流されてしまう。何一つ残っていない土地に彼は自力で井戸を掘り、プレハブを建てて店を再びオープンさせる。一方、佐藤さんは店の仕事とは別に、自身の被災体験を英語で記した「The Seed of Hope in the Heart」を自費出版していた。
映画としてどう、だとか、すわりが良い評言を一切口に出す気になれない。失語に追い込まれる鑑賞体験。しかし、それでも筆者がひとつだけ記しておきたいのは、理想的な「独学者」の在りようを見た、という想いに心底震えたことである。
このドキュメンタリーの“主人公”は、震災の体験を、まずは母国語の情緒から引き剥がすべく慣れない外国語を使って書き始めた。そう、言葉は「道具」だ。大工にとってのカンナや金槌と同じように、生活や命をつなげるための。「職人の町」で育まれた知性から、表現の原初が立ち上がる。D.I.Y.やインディペンデントは単なるスローガンではない。はじめからコツコツ世界を作り上げていく努力のことだ。