見どころ:第1回「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM」でグランプリに輝いた企画を映画化したラブストーリー。昏睡(こんすい)状態に陥った恋人の名前や職業などが全てうそだと知った女性が、彼の正体を探ろうとするさまを描く。メガホンを取るのは、CMを中心に活躍し本作で長編映画デビューを飾る中江和仁。『散歩する侵略者』などの長澤まさみ、『blank13』などの高橋一生、テレビドラマ「東京センチメンタル」などの吉田鋼太郎らが共演している。
あらすじ:世話好きな研究医の恋人・小出桔平(高橋一生)と5年にわたって同居している食品メーカー勤務の川原由加利(長澤まさみ)。ある日、桔平がくも膜下出血で倒れて寝たきりになってしまう。さらに彼の運転免許証、医師免許証が偽造されたもので、名前も職業もうそだったことが判明。彼女は探偵の海原匠(吉田鋼太郎)と助手キム(DAIGO)に桔平の素性調査を依頼する。そして桔平が執筆中だった小説が見つかり、そこから瀬戸内のどこかに桔平の故郷があることを知る由加利だったが……。
ずっと同居していた男が意識不明になり、名前も仕事もすべて嘘だったと発覚する。打算的で表層しか見ていない女が孤独を埋めるために必要だった男…。ミステリアスな導入、旬なキャスティング、企画性は申し分ない。が、展開はぎこちない。商品性を高めるべく、ストーリーやキャラクターをこねくり回したかのように人工的だ。彼の素性を突き止める旅の長さと笑いも挟むそのトーンは、虚構で塗り固められた2人の関係性の中の真実の発見という作品テーマを、ぼやけさせている。ディテールにも穴は多い。一例を挙げるなら、なぜ30代男が大切にしていた超合金が、同世代アニメではないマジンガーZなのか。ノベライズを読んでも判明しなかった。
美人で仕事ができるらしいこと以外には人としての魅力がなさそうな“嫌な女”を演じた長澤まさみ、繊細な芝居で謎の男を存在感豊かに演じた高橋一生、さらには、芸達者な吉田鋼太郎や川栄李奈など、少数精鋭のキャストが好演。
コンテストのグランプリをとった企画とはいえ、新人監督によるオリジナル脚本にも関わらず、潤沢とはいえないだろうがきちんと予算をかけて丁寧に撮られているし、一組の男女の愛の所在を解き明かすものすごく小さな話だが、ラブミステリー+ロードムービーといった趣向で、最後まで飽きさせない。
松たか子&坂元裕二によるエンドロールの曲と共に、いい余韻を残してくれる作品。
目の前にいるこの人は、いったい何者なのか? ヒッチコックの名作『めまい』も連想させる、妖しきサスペンスと濃密なラブストーリーの混在は、とくに前半、的確な演出と編集によって味わい深い仕上がりになっている。その大きな要因は、高橋一生の持ち味と、演じる役どころの幸福なケミストリーのおかげか。やはりこの人、得体の知れないキャラクターに血肉を通わせる才能があるようだ。
ただし中盤からは、映画全体の語り口が変調するので、そのあたり、物語の辻褄を合わせてスッキリしたいか、もっと妖しさに心をざわめかせたいかで、好き嫌いが分かれるかも。タイトルが示す、危険な運命に溺れる感覚は薄味かも。
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