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南果歩むなしい主婦…ほぼ一人芝居の新境地!夫は無視、息子になじられる日常描く『家族X』

第61回ベルリン国際映画祭

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『家族X』より-南果歩-家族が食卓を囲むこともなくなった家をむなしく整え続ける妻を一人芝居で演じる
『家族X』より-南果歩-家族が食卓を囲むこともなくなった家をむなしく整え続ける妻を一人芝居で演じる

 第61回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に『家族X』で参加中の吉田光希監督に話を聞いた。昨年、同じフォーラム部門に参加し好評を博した石井裕也監督映画『川の底からこんにちわ』と同じくPFFスカラシップを獲得し製作された作品だ。

第61回ベルリン国際映画祭コンペ作

 ぴあフィルムフェスティバルが新人育成のために設けているPFFスカラシップは、昨年の本映画祭でダブル受賞の快挙を果たした園子温監督はじめ、これまでにも世界的な監督を数多く世に送り出してきた。吉田監督も、これからの活躍が大いに期待される監督と紹介してもいいだろう。

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 本作は、橋本家の主婦路子(南果歩)を基点に家族の肖像を描く。フリーターの息子(郭智博)、会社で戦力外となっている夫(田口トモロヲ)、家族が食卓を囲むこともなくなった家をむなしく整え続ける妻と、似た状況に置かれた人をたやすく周りに見つけられるような家族設定。日本では身近な問題としてとらえられそうだ。
 
 ベルリンではどう受け止められたのだろう。「日本との違いというより、会場ごとに違っていて面白かったです。ある会場では、すごく笑いが起こったし、別の会場では、質問に答える一言ごとに拍手が起きたりもしました」と話す吉田監督は、親子関係を中編として描いた前作『症例X』でロカルノ国際映画祭参加経験もある。観客の反応に対して「大笑いされるのも、深刻に観てもらうのも、どちらでもかまいません。いろいろな見方ができる作品になって、よかったです」と言う監督は、「後になって自分が同じ状況に立ったような時に、違った意味でとらえられる作品であればと思います」と付け加えた。

 笑いが起こったのは会社のシーンが多かったという。「田口さんと森下さんの2人がいるだけで面白いっていうのは撮影の時からあったんです」と監督が言う、サラリーマンの悲哀を絵にしたような田口、森下能幸コンビだ。可笑しみと哀しみをかもし出す会社シーンに対して、家のシーンは路子の破綻が迫る様子がサスペンスをも感じさせる。

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 「感情は、物事が起こった時よりも、あとで1人になった時に思い悩んだりして動いていく。それと俳優さんの力を信じた」と監督が話す本作は、コミュニケーション不全の家族が描かれていることもあり、台詞が極端に少ない。監督の信頼にしっかりと応え、繊細な演技で感情の揺れを表現する俳優陣の中でも、南はほとんどが一人芝居だ。家で1人過ごすことの多い主婦を、表情と動きだけで演じて見せる。近所の主婦から付き合いで不必要なウォータークーラーを買わされ、それを息子になじられ、夫は気にも留めないといった全てに追い詰められていく路子を、南は静かに演じて見せる。リアリティを感じさせる主婦の暮らしのディテールは「以前、主婦調査のようなことをしたことがあるんです。それで、自分がその立場だったらどうだろうと考えた。実際、僕だって主夫になることがあるかもしれないし」と笑う30歳未婚の吉田監督だ。

 最初から決めていたという田口、南と違い、会って決めたというのが息子役の郭智博だ。「会ってみて、あっ、この人だと。一瞬伏し目勝ちになった時の表情が、何考えてるかわからないお芝居ができそうだなと思いました」という監督の細やかな目は、本作の中でも随所に感じられる。冷蔵庫の中で朽ちていく野菜、枯れていくベランダの植物に、路子の精神状態と家庭の崩壊を読み取ることは容易だが、「ウォータークーラーのボコボコッという泡も、路子さんの心が揺れると泡が出るようにしたんです」と監督に明かされ、なるほどと気づくシーンもある。日本での一般公開はこれからという本作、「映っているからには意味がなくてはいけない」と言う吉田監督の仕掛けを探りつつ見れば、より深く楽しめそうだ。(取材・文:山口ゆかり / Yukari Yamaguchi)

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