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ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞のイラン映画がニューヨーク映画祭で上映!監督がイランの司法制度について語る!

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アスガー・ファルハディ監督
アスガー・ファルハディ監督

 今年のベルリン国際映画祭で見事に最高賞である金熊賞を獲得したイランの秀作『ア・セパレーション(原題)/ A Separation』が、第49回ニューヨーク映画祭(N.Y.F.F 49)で上映され、アスガー・ファルハディ監督が登壇した。

 同作は、妻シミン(レイラ・ハタミ)は夫ナーデル(ペイマン・モアディ)と11歳になる娘とともにイランを出る準備をしていたが、夫がアルツハイマー病を抱える父を置き去りにはできないと対立して家に残ろうとしたため、妻は家庭裁判所に離婚申請をする決意をする。だが、あえなく却下されてしまい、お互いが別々に暮らし始める。そして、ある日ナーデルがヘルパーを雇ったことから、あらゆる問題が家庭内で生じ始め、裁判沙汰へと発展していくというイスラム社会の建前ではなく、本音でぶつかり合うところが魅力の人間ドラマ作品。

 興味深いのは、映画内の登場人物が家族内のことをお互いにしっかり把握していないため、いろいろな問題が起き始めて、観客も次の展開が楽しめる構成になっている点だ。ファルハディ監督は「あくまでわたしの観点だが、この作品を僕は探偵物語として扱っている。その探偵は、(映画内には存在せず)映画の外に存在する設定だ。つまり、観客こそが探偵の設定なんだ。この探偵物語が(裁判沙汰になることで)すべての情報を、観客に完全に委ねている。だから、観客自身が調べようとすることになるんだ」とまず、引き付けられるこの構成について明かした。

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 まるで映画『十二人の怒れる男』や『ネットワーク』のシドニー・ルメット作品を彷彿させるようなキャラクター同士に緊張感がみなぎっているが、そのリハーサルやキャスティング過程については「僕はこの映画界に入る前にずっと舞台で仕事をしながら学んできた。舞台で、俳優とどういう関係を作り上げるかも随分学んできたんだ。僕は舞台でも映画でも、俳優と仕事するときは、それぞれの(プロダクションに)入る前の約2、3か月もの期間を俳優たちと過ごしている。その際は、決して俳優たちに演じるキャラクターの説明をしないんだ。それぞれのシーンを俳優たちに委ねながら一人一人のキャラクターを構成していく。さらに僕は、映画内のキャラクターが起こす行動や原因が、なぜそうなるのかを俳優にも想像させて、それを体験してもらうんだ。例えば、映画内では宗教を熱心に信仰しているヘルパーの女性が居るが、彼女には実際に毎日祈りを捧げることをさせたり、ベールやスカーフを着させて行動させたり、さらに車ではなく、公共の交通手段で移動するようにも指示したこともあった」と徹底した役作りを俳優たちにさせているようだ。

 イランの司法制度について「これまで僕の映画作品すべて、人が判断を下すことに触れてきていた。そんな中で、この映画ではイランの司法制度を的確に描けていると思うんだ。ただこの映画では、そのイランの司法制度が余計にキャラクターの関係を複雑にさせている。特に、人々の行動だけを法で裁き、その人の環境を考慮に入れないのは間違っている。そういう司法制度は受け入れられるべきではないと思っている」と個人的な見解を示したが、これはイランの司法制度への問題点を指摘しているようにも思えた。

 最後にアスガー・ファルハディ監督は、イラン当局に逮捕されたジャッフル・パナヒ監督については触れずに、当局の決断を問題視する言葉だけを残した。映画は、嘘をつくことを許されないイスラム教の教えの中で、キャラクター個人が自分を守るために嘘をつき始めたことで、思わぬ展開を招き葛藤していく。非常に完成度の高い作品に仕上がっている。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)

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