娘が父親の死を映す『エンディングノート』に是枝裕和監督「正直嫌い、ケンカ売ってんのか!」と当初は困惑

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是枝裕和監督と砂田麻美監督 - Photo:HarumiNakayama

 第59回サンセバスチャン国際映画祭新人監督部門に参加した映画『エンディングノート』の砂田麻美監督とプロデューサーを務めた是枝裕和監督がこのほど、現地でインタビューに応じた。残念ながら砂田監督の新人監督賞受賞はならなかったが、是枝監督は「観客との質疑応答や取材の応対など、堂々としていた」と砂田監督の華々しいデビューに目を細めていた。

映画『エンディングノート』場面写真

 砂田監督と是枝監督の出会いは、是枝監督が映画『花よりもなほ』を製作していた2005年にさかのぼる。監督志望だった砂田監督が是枝監督に「メイキング班でも何でもいいから現場に就かせて欲しい」と弟子志願の手紙を出したのがきっかけだ。その時は『花よりもなほ』の撮影が京都だったこともあり実現できなったが、映画『歩いても歩いても』の時に監督補として撮影から編集まで立ち会い、映画がどのように出来上がるのかを間近で体感した。同じような経験をして是枝監督の元から巣立っていった西川美和監督の、いわば二代目だ。

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 どこで彼女たちの才能を見分けたのか是枝監督に尋ねると、「西川監督も文章力がポイントだったんだけど、砂田監督に製作日誌を書かせたら面白かったんですよ。現場をシニカルに観察できていて、ちゃんと笑いどころもあって、僕のこともきちんと客観視して笑いの対象にしていた(笑)。その一方で(撮影現場で)使えない自分自身もきちんと評している。続いて就いてもらった『空気人形』の時もそうだった」と言う。

 一方の砂田監督は「是枝監督の映画ってそんなに饒舌ではないので、撮影現場でもわりと感覚的に現場を動かしているのじゃないかと想像していたんです。ところが真逆で、スタッフに対しても役者に対しても、次に何をすべきか? すべての人が分かるように順序立てて、理論的に説明していた。それはフィクションでもドキュメンタリーの現場でも一緒。きちんと言葉で説明して相手に伝えることの大切さを学びました」と語る。さらに「忙しい時でもジャンクフードを食べないということも」と付け加える。

 是枝監督には、映画『歩いても歩いても』で登場させたとうもろこしの天ぷらが話題になったように、食へのこだわりは半端ではない。海外の映画祭を選ぶ時は美味しい食べ物があることが大切で、サンセバスチャンもその一つ。今回もたっぷり美食を堪能し、日に日に顔が丸くなっていった。是枝監督は「単純に自分が食べることが好きだからだけど、食べることに興味がない人は演出に向かないと思う。台湾の侯 孝賢監督作の食事シーンが魅力的なのは本当にご飯が美味しいから。侯さんは日本で撮影した時に定宿のホテルにわざわざ厨房を作り、スタッフを集めて皆で作って食べてましたからね。美味しいモノを食べるこだわりは、フィルムに写る」と持論を展開する。

 そんなユニークな映画論を学んでいた合間に砂田監督は脚本を執筆し、おりに触れて是枝監督の指示を仰いでいたという。ところがある日、「見て欲しい」と持ってきたのが末期がんの父親を追ったドキュメンタリー『エンディングノート』だった。家族を対象としたセリフドキュメンタリーが「正直嫌いだった」という是枝監督は、最初は「ケンカを売っているのか!」と腹が立った本音を明かしている。

 是枝監督が説明する。「しかもお父さんのモノローグを娘(砂田監督)が読んでいたからさ。そういうドキュメンタリーは100本あったら99本はどう考えたって失敗する。それに家族って取材対象としては強いから、それをデビュー作で撮った時には次の題材を選ぶのがツライ。自分が教えている学生たちにも家族を撮るのはやめておいた方がいいとアドバイスしていたんですよ」。

 しかし、『エンディングノート』はありがちなお涙頂戴モノとは違った。会社命で化学メーカーの営業マンを勤めていた父・砂田知昭さんは、自分の葬儀の準備まで何事もきっちり準備しないと気が済まない性格。カメラを向ける砂田監督の目線は、最期までサラリーマン道を貫いた父親や、その一方で孫が生まれて子煩悩ならぬ孫煩悩になった父親を楽しんで撮っている様子が見てとれる。そのシニカルで客観的、かつ死期が確実に近づいている父親を冷静に見つめている様は、かつて書かせた撮影日誌のテイストと近かったという。

 是枝監督は「やっぱり売られたケンカはケンカなんだけど(苦笑)、取材対象者との距離感や批評性、そして愛情がとてもバランスよくとれていてエンタテインメント作品として成功していた。さらに見終わった後にお父さんのこともすごく好きになるし、自分の家族のことも考えさせられる。決して(個人的な話として)閉じていなかった。ただ泣けました!という作品だったら応援しなかったかもしれないなぁ。まぁ、しょうがないと思って(苦笑)」とプロデューサーを買って出た理由を説明した。

 そう語る是枝監督の複雑な思いを隣で聞いていた砂田監督は「私としてはケンカを売っている自覚はなかったんですけど(苦笑)。ただ編集してある程度のカタチになったから意見を聞きたいということしか考えてなかった。もちろん誰かに見て欲しいとは思っていたけど、劇場公開なんて思ってもみなかったですから」と語り、公開はうれしい誤算だったようだ。

 是枝監督が商業映画のプロデューサーを務めるのは、俳優伊勢谷友介の監督デビュー作『カクト』(2002製作)、同じく西川美和監督のデビュー作『蛇イチゴ』(2003製作)に続き、3人目となる。プロデュースするか否かの判断の基準を問うと、是枝監督はしばし考えた末に、またも「しょうがないかなって」とポツリ。これには砂田監督も「う~ん…」と唸って、苦笑いするしかなかった。

 是枝監督は「どう考えても僕は積極的にプロデューサータイプじゃないから。伊勢谷君の時も企画が他のところで動いていたんだけど成立せず、でも監督をやりたいという思いを聞いていたからね。特に自分が20歳代で監督デビュー出来なかったから、20歳代で作品を持つべきだと思ったから。それで伊勢谷君の作品1本だけだと(劇場公開作として)売りにくいかなと思って、(当時、監督補として就いていた)西川に『何か脚本はないの?』と上がってきたのが『蛇イチゴ』。このコンパクトな作品だったら(低予算で)出来るかなと思った」と当時を振り返る。「だから」と是枝監督は砂田監督に目線を向け、「今後は脚本を持ってきたら相談にはのるけど、僕みたいに仕方なくやっているプロデューサーじゃなくて、ちゃんとこの子をプロデュースしよう、お金を持って来ようと言う人と組んでやらないとね」と諭した。

 実はすでに是枝監督はtwitterで新たな演出助手を募集しており、監督として一本立ちした砂田監督はほぼ強制的に是枝道場卒業となっている。獅子の児落としのごとく厳しい対応に砂田監督は思わず「でも(今度も)何らかのカタチで(自分の作品に)参加してくれますよね? 心配なんで、完全に離れないで頂きたいですけど…」と是枝監督にすがるような目を向けるた。

 だが是枝監督は「まぁ、大丈夫ですよ」と一蹴。それどころか、映画公開初日までに次回作の脚本を仕上げるという是枝監督のアドバイスをまだ実行していないことを指摘する。是枝監督は「こうして取材で『次回作は何ですか?』と聞かれた時に、『実は脚本ができているんです』と言える状況で初日を迎えなさいと伝えたんですけどね。まぁたぶん、2つ3つはできていると思いますよ」とさらなるプレッシャーをかけた。砂田監督は「(苦笑)って書いておいて下さい」と恐縮しきりだ。

 果たして公開初日という大イベントに加えて、師匠の教えを守ることができるのか? 是枝監督が発掘した新たな才能に期待したいところだ。(取材・文:中山治美)

 映画『エンディングノート』は10月1日公開

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