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第23回:『イヴの総て』(1950年)監督:ジョセフ・L・マンキウィッツ 出演:ベティ・デイヴィス、アン・バクスター【名画プレイバック】

第23回:『イヴの総て』(1950年)監督:ジョセフ・L・マンキウィッツ 出演:ベティ・デイヴィス、アン・バクスター
サラ・シドンズ賞を受賞した新人イヴ(アン・バクスター・右)に、ベテラン・マーゴ(ベティ・デイヴィス・左)が投げ掛けるセリフが印象的 - (C)Twentieth Century Fox Film Corporation / Photofest /ゲッティイメージズ

 当連載では、アカデミー賞を筆頭に権威ある国際映画祭の受賞作を取り上げることが多いが、賞はあくまでもひとつの指標であり、当然のことながら受賞が全てではない。改めて、そのことを考えさせられるジョセフ・L・マンキウィッツ監督作『イヴの総て』(1950)は、ベティ・デイヴィス、アン・バクスターからマリリン・モンローまで、当時の新旧女優が華やかに共演する業界内幕もの。アワードの権威を辛辣に揶揄した内容ながら、アカデミー賞では作品賞、監督賞ほか6冠に輝くという、痛烈な皮肉を生んだ逸品だ。(今祥枝)

 映画は、米演劇界最高の栄誉とされる架空のサラ・シドンズ賞(現在は同名の賞が存在する)が、新進女優イヴ・ハリントン(アン・バクスター)に贈られる授賞式のシーンから始まる。満場の拍手に沸く華やかな雰囲気とは裏腹に、イヴに関わった人々は、なんとも複雑で浮かない顔だ。果たして、イヴの受賞の裏には何があったのか? さかのぼって8か月前、いつもマーゴが出演する劇場の楽屋口で見かける田舎から出てきたという若い娘イヴが、大女優マーゴ・チャニング(ベティ・デイヴィス)に出会うシーン。マーゴの親友で、劇作家ロイド・リチャーズ(ヒュー・マーロウ)の妻カレン(セレステ・ホルム)が好意で引き合わせたのだが、ここでイヴが語る身上話が大層哀れを誘い、トントン拍子でマーゴの付き人になる。

 誰しも自分の崇拝者の存在は嬉しいものだろう。実力派としての地位を確立しているマーゴにしても、年下の恋人がいて公私ともに順風満帆に見えるが、40歳になって不安を感じている。いまだ現実問題としてハリウッドにおける女優の年齢、特に40歳の壁は大きいとされていることを考えると、何も変わっていないなあとも思ってしまう。そんなときに、自分の舞台を全て観ていると目を輝かせる若い田舎娘の存在に味方を得た思いで、目をかけてやろうという気になるのは理解できる。この時点では圧倒的にマーゴが優位な立場なのだが、スタート地点に着いたイヴが、どうのし上がっていくのか、何をしでかしてくれるのかと、観客はゴシッピィなワクワク感を覚えるに違いない。

 まめまめしく働き、献身的。だが、イヴは気が利きすぎる。情緒不安定なマーゴのために、勝手に遠くにいるマーゴの恋人ビル(ゲイリー・メリル)と連絡を取っていたりして、はたから見れば“いい子”なのだが、当のマーゴからすれば嫌な感じは日々増すばかり。やがて、イヴの売り込みは成功し、舞台に立つチャンスを得てからは、どんどん本性を現していく。いやあ、女って怖いですね~という感じ。

イヴの総て
マリリン・モンローも脇役で出演!持ち前の華やかな魅力で、少ない出番ながら存在感大(右から2番目)(C)Twentieth Century Fox Film Corporation / Photofest /ゲッティイメージズ

 ここまで極端ではないにせよ、「なんだかなあ」ともやもやとする程度なら、後から振り返ってみると「利用されたかも?」といった苦い経験は、誰しも一つぐらいはあるのではないだろうか。そもそも、イヴのようにハッタリと嘘八百で業界入りして、後に有名になった監督などの逸話は、実際にいくつもある。人を踏み台にしてやれといった明らかな悪意はなくとも、結果として、誰かの好意を利用する形となった可能性はありえる。もっとも、才能がなければ過酷な世界で生き残ることは難しいわけだが。

 デフォルメされてはいるが、『イヴの総て』には、そうした今でも“あるある”とうなずきたくなる普遍性がある。マーゴは紛れもない本物の女優だが、年齢からくるキャリアへの不安と結婚という安定を求める気持ちの間で思い悩む。カレンは夫とイヴの距離が仕事で急接近する中、アーティストとしての夫を支えてきたけれど、夫がいなければ一体自分は何者なのかと不安を覚える。演劇界への問題提起も興味深い。年齢が若い設定の役を、マーゴのような大物が演じ続け、客を呼べるネームバリューを過度にありがたがることの是非。一方で、舞台でチャンスをもらった新人イヴが、受賞スピーチで舞台への愛と感謝を熱弁するも、さっさとブロードウェイを去ってハリウッドを目指すといった例は、現在に至るまで珍しくもない。生粋の演劇人からすれば恩知らずと苦々しく受け取られることもあるだろう。この辺は、今年のアカデミー賞を席巻した『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014)に通じるものがあるだろうか。

 実は本作の最大のメッセージは、冒頭とラストの授賞式のシーンに凝縮されているとも言える。冒頭のナレーションで、このサラ・シドンズ賞が他のアカデミー賞やピューリッツァー賞と違って派手な宣伝などせず、いかにホンモノの才能を評価する賞であるかといった清廉潔白さを徹底して強調する。同時に、演出家や脚本家といった作品を支える存在の重要性にも言及する。にも関わらず、全てが観客にも明らかになったラストで再び授賞式が描かれるとき、ただひとりスポットライトを浴びるのは、およそ褒められたものではない方法でトロフィーをゲットしたイヴなのだ。既存の権威に「まがいもの」と批判を浴びせながら、サラ・シドンズ賞もふたを開けてみればこんなものといった皮肉には、苦々しさとともに痛快さがある。

 それでも第2第3のイヴと、その予備軍は無数に存在する。たとえ虚飾の世界であったとしても、いつの時代にも女優とは、とてつもなく魅惑的な職業に映るものだから。そういう意味では、本作は女優賛歌とも言えるだろう。『青春の抗議』(1935)と『黒蘭の女』(1938)で、2度のアカデミー賞に輝く主演のベティ・デイヴィスは、言わずと知れたハリウッド屈指の演技派女優。マーゴ役は、彼女でなければこれほどの説得力はなかっただろう。傲慢でエキセントリックなところもあるが、弱さと繊細さを併せ持ち、何よりも演技に対してはストイック。相手をねめつけるような目の強さ、カリスマ性、ゴージャスな衣装を豪快に着こなすさまも迫力で、これぞ「女優」である。対して、アン・バクスターのいかにも従順そうな小娘から豹変していくイヴは、『剃刀の刃』(1946)で20代前半でアカデミー賞を受賞した彼女の、若さとガッツがリアルに生きている。この二人の間に入る緩和剤的なカレン役のセレステ・ホルムも、『紳士協定』(1947)の演技でオスカーを受賞した実力派で、2012年に95歳で亡くなるまで現役だった。本作で最も目を引く女性陣のアクセサリーのひとつ、パールのネックレスが誰よりも似合うエレガンスは、今見ても変わらず好感と親しみを抱かせる。

 そして女優の卵を演じる、当時無名だったマリリン・モンロー。小さな役だが、これだけの有名どころがそろったスクリーンに映った彼女は、ぱっと大輪の花が咲いたような艶やかさで目を引く。劇中、着飾ってマーゴのパーティを訪れ、有力者に顔を売るよう同伴者にけしかけられて、いそいそと男性陣の方へと向かうシーンがある。一連の仕草がたまらなくチャーミングだが、モンロー自身の人生を考えたとき、そのくったくのない笑顔に一抹の寂しさを覚える人も少なくないのでは。

 アカデミー賞では、デイヴィス、バクスター、ホルム、セルマ・リッター(マーゴの付き人バーディ役)を含む、計5名がオスカー候補となった本作で、唯一受賞を果たしたのは、イヴが裏で密かに取り入る批評家アディスン役のジョージ・サンダースであった。老練な業界人らしさを感じさせて、さすがの貫禄。男性陣も等しく好演しているが、本作でオスカーを受賞したイーディス・ヘッドによる衣装を、華麗に着こなす女優陣が火花を散らす演技合戦が、やはり何よりも楽しく見応えがある。テーマといい女優の見せ方といい、“女優による女優のための映画”という印象は強い。

 ちなみに、1950年度のアカデミー賞ではデイヴィスの3度目の主演女優賞受賞が有力視されていたが、バクスターが契約していた20世紀フォックスの猛プッシュを得て同賞に候補入りし、票が割れて双方ともに受賞を逃したという通説がある。他の候補者には『サンセット大通り』のグロリア・スワンソンもいたが、受賞したのは『ボーン・イエスタデイ』のジュディ・ホリデイだったことを考えると、選びようがないといった感じで難しいところだ。これぞまさに、受賞が全てではないことの実例だろう。それにしてもバクスターにはこの手の逸話が多いので、実際にもイヴのような野心的で上昇志向の強い女性だったのだろうか。

 最後に、劇中のサラ・シドンズ賞とは、18世紀を代表するイギリスの悲劇俳優として有名なサラ・シドンズが由来。彼女の肖像画を見たマンキウィッツが採用したもので、ここにも女優賛歌が読み取れる。冒頭の授賞式にはシドンズを悲劇の女神に見立てた像があり、劇中に登場する絵画はデイヴィスとバクスター、そしてモンローが演じた役の対比を思わせて興味深い。


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